効率化は豊かさを生むのか? リノベーションの開拓者が、“人の感情”に答えを求める理由

#PremiumAnalog 2/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「 テクノロジー時代における『Premium Analog』な体験デザイン」と題して行われたセッション(全6回)の2回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 内山 博文氏:u.company 代表取締役, Japan.asset management 代表取締役
  • 松田 正臣氏:アルティコ 代表取締役 PERFECT DAY 編集長
  • 中村 真広氏:ツクルバ 代表取締役 CCO エグゼクティブ・プロデューサー / モデレータ

不動産の可能性を模索してきたパイオニアの現在地

内山博文(以下、内山) 最初にお詫び申し上げておきますが、昨日まで声が全く出なくてですね。一昨日の夜からなぜか喉がやられて、ようやく今朝出るようになったところで、かすれ声で申し訳ないんですが。本当はもっといい声です(笑)。

内山 博文:u.company 代表取締役, Japan.asset management 代表取締役。愛知県出身。リクルートコスモス(現(株)コスモスイニシア)、都市デザインシステム(現UDS(株))を経て、2005年にリノベーション事業を展開する(株)リビタの代表取締役、2009年に同社常務取締役兼事業統括本部長に就任。一棟分譲事業からシェア型賃貸住宅、ホテル事業など多数のリノベーションのビジネスモデルを構築。2009年に(一社)リノベーション住宅推進協議会副会長、2013年に同協議会会長に就任し業界を牽引。既存住宅市場の拡大に向けた仕組みづくりを推進。2016年に企業やリノベーションのコンサルティング事業を主に手掛けるu.company(株)を設立し独立。同年、開発型アセットマネジメント事業を手掛けるJapan.asset management(株)の代表取締役へ就任。

僕自身は簡単にお話しておきますと、現職はu.companyという名前で出ていますが、もともと不動産を中心にベンチャー企業2社におりましたから、いろんな企業のコンサルを今行っております。中村さんのツクルバにも、アドバイザーとして関わらせてもらっています。

あと今日はご紹介しませんが、リノベーション協議会という業界団体の広報担当兼会長を務めております。

なぜ個人でやっているようなコンサル会社の人間がこんなことをやっているかと言いますと、(今までに)都市デザインシステムとリビタ、いわゆる不動産事業系ベンチャー2社の立ち上げを行って、20数年そういったベンチャーで働いておりました。

後半の、残りの11年は、リビタでリノベーション住宅全般の普及促進に努めたということで、協議会の立ち上げ時期より関わってまいりましたので、今全国950社ぐらいの団体になっていますが、名誉職で会長をさせていただいております。

いろんな会社に入社して、デベロッパーに入って3社経験しましたが、振り返ってみると建築もリノベーションも含めて、一個一個のマンションは除いて、大きなもので170のプロジェクトに関わってきました。

ただ単にハードを作り続けたというよりも、常に新しいことを考え、様々な住宅供給の仕組み、主に住宅が多かったんですが、トライしてきたと思っています。

なので、僕自身は不動産業界がメインではあるんですが、建築デザイナーでもありませんし、何をやってきたかと言われると、新しい住まい供給の仕組みをデザインしてきたと思っております。

現在、こういったコンサルをやりながら(u.company、Japan. asset management、Think green produceの)3社の役員をやっていて、ツクルバのアドバイザーも務めていると。

これ以外にも何社かコンサルをやりながら、未来に向かっていく企業を応援させていただいています。

社会問題を解く手段としてのリノベーション

それで、実績は1個ずつ説明すると2時間でも3時間でもしゃべれるので、どんなことをやっていたかというリビタ当時の実績だけご覧になっていただければと思います。

企業社宅ですとか、古くなった賃貸マンションを再生して、それを分譲住宅にする事業であったり。結構数やりましたね。

その中でも、都心で100平米以上の物件を扱う「R100 TOKYO」というブランドを立ち上げたり、マンションを一個一個の事業、リノベーションして販売する事業もやりました。

戸建てのリノベーション事業「HOWS Renovation」も立ち上げました。

あとは、いわゆるワンストップサービスと言われる、中古マンションを買ってリノベーションをするというお客さん向けのコンサルティングサービス「リノサポ」も、創業当時より携わっていました。

最近、シェアハウスは当たり前のように聞きますが、リビタ設立時よりこの事業「シェアプレイス」を始めて、単に不動産オーナーではなく、運営までリビタは行なっておりました。

企業寮も普通の住宅のリノベーションもやりましたし、マスコミやメディアの方はご存知ですが、「タブロイド」という印刷工場、今スタジオが中心の建物になっていますけど、複合施設で再生した事業も、私が実際指揮を執って行っておりました。

最後、辞める前に、地方創生で何かできないかということで、地方にホテルを作ろうと立ち上げたのが「THE SHARE HOTELS」事業ですね。

1号物件、金沢まで見届けて私は辞めました。現在、恐らくリビタとしては4棟ぐらい立ち上げていると思います。

このあと、アナログの話に行きつくんですが、リノベーションは建築行為だと捉えてる人が実際多いと思うんですけど、ずっと何をやってきたかということを自分自身振り返ってみたとき、結果、社会の問題解決に必要な手法である、ということに行きつきました。

今日はその手法の根幹となる考え方がアナログ的なお話につながるんですけども、要はリノベーションというのはあくまで社会問題の解決手法なんですよね。

1件1件の部屋をリノベーションするのもそうでしたし、もちろん1棟大きなものとなれば影響力がありますので、そういった観点で取り組んでいくとより面白いし、消費者にもより支持されるものができると実感しています。

「マーケットアウト」という視点

その考え方を、プロダクトアウト的な発想ではなくて、マーケットアウトという言葉でよく説明させていただきますが、マーケットアウトという言葉、ご存知の方いらっしゃいますか?

わかりやすく何が違うかというと、いわゆる企業の5次元とかよく言われて、別に上がえらいわけではないんですが、成長していく過程で、これは横は時代の流れととってもらってもいいのかもしれません。

従来型のビジネスはプロダクトアウト。いわゆるものを作って、それをどう売るかということを考える。なので、そこに顧客の参画する場がないのが原則で、作り手側の理論で事業が行われていくと。顧客の声を聴くという意味では、今もまだこの時代なのかもしれません。

しかし私の感覚では、リノベーション事業であったり新しい住まいであったりそういったものを提供する上で、マーケットアウト以降の、まさに未来をどう予測するかというマーケティングセンスが必要な事業で。この事業は、過去のデータ分析の中から何を作るべきかということを考える、まさにデータ収集力がものを言う時代。

これを見て気づかれたかもしれませんが、なぜ今日アナログの話の前にこれをするかというと、データ収集と分析はテクノロジーが得意なところですね。データを集めて、それを分析して答えを出すという。

右側は、意外とデジタルではまだまだできないというか、日本が特に今人口が減っていくタイミングなので、この下り坂を皆さん知らない中で未来を予測するというのは結構大変。

(人口が増えていく)海外に目を向ければ(過去から未来予測を)できなくもないかもしれませんが、(過去予測があてにならない前提で)未来を予測するという意味では、なかなかデジタルだけで解決できないものは多いかなと。

これからこの業界で生き抜くには(マーケットアウトが)必要な時代です。

まさにそのマーケットアウトは、今申し上げたように顧客視点で物事を考えると。

これは余談ですが、マーケットアウト転換のキーワード、いくつか対義的に出ています。

わかりやすいところでいくと、従来は販売代理店的な発想でよかったのが、購買代理店、いわゆる買い主側につかなければいけない、というキーワードだったり。営業型から開発型、クローズドからオープン、有料から無料、みたいなキーワードが書かれています。まさに顧客視点に立ってビジネスをどう考えるかが、マーケットアウトに一番必要な発想だと言われています。

僕らの業界は、先ほどのプロダクトアウト型で成長してきた業界で、ものづくりから入ってるところが多いです。

それを反面教師的に感じるのは、このスティーブ・ジョブズの言葉なんですよね。

一見、iPhoneというハードウェアを売っているように見えますが、ジョブズはいろんな名言言っているんですが、最後に書いてあるこの言葉が一番好きです。

製品を売ろうとするのではなく、彼らの人生を豊かにするのだと。まさにこの豊かということが何なのかが今日のキーワードにつながると思っています。

テクノロジーがもたらす「便利」の先に“豊かさ”はあるのか?

どうしてもテクノロジーの話をしていくと、テクノロジー=利便性が高くなる、というのが一つの特徴ですが、私はテクノロジーに求めるものは便利さかもしれませんが、その便利さ自体が、ジョブズが言う豊かさではないと感じてるんですよね。

これは住宅事業をやっていても常に感じています。

住宅は、機能を詰め込んだ、最新型の機能の住宅を供給し続けることで需要を促進してきました。

その利便性が今求められているのかというと、それなりに今、住宅のハードウェアでできることはもうやり尽くしてます。

なので、本質的な豊かさに逆に戻ってきている、戻らなくちゃいけないタイミングになっている。

それが今日話すアナログのポイントですね。

じゃあこの豊かさをどうデザインしていくのか、というのがこのPremium Analogの話につながって、昨今よく言われるのは、デザイン思考というプロセスですね。

デザイナーが物事を考えるとき思考するプロセスのことを、わかりやすくデザイン思考と言うんですが、先ほど言ったプロダクトアウトの時代の考え方というのは、あくまでデータ分析をして、こんなもんが売れるんじゃないか、あんなものが売れるんじゃないか、ということ作り上げる考えとは全く違うんですよね。

わかりやすく言うと、感覚から入っていると。

一番最初に共感体って言うじゃないですか。そのユーザーが何に対してどう共感するのか。自分たち開発者自身も含め、今何に困っていて、どこにストレスを感じて、こんなのあったらすごいうれしいよねっていうことから発想の原点がはじまると言われてます。

まさにそこって、デジタルのデータの中から出てくるものではなくて、自分たちが日常でいろいろな体験、経験をしてきた中で感じることだと思うんですよね。

いまこそ問われるべき、人間本来の“直感力”

それは極めてアナログ的で、僕はこのアナログ的な感覚から、その直感力が、今の世の中、特に今の日本社会において、住宅業界だけでなく大事ではないかと。まさにこの共感の連鎖をどう生み出すか、というのがビジネスサイズに比例してくると感じています。

しかも、このデザイン思考で大事なのは、それをすごい速いスピードで回していく。共感から始まって、問題提起して、すぐものを作って、試作して、テストして。それをぐるぐると。まさにアジャイル型で回していくのが今必要です。

日本の住宅建築業界はすごく緩やかなスピードの中で生きてきているので、何か大きなアウトプットが見込めないとなかなかものを始めないというのが悪い癖なんですが、今のIT企業はまさにこのデザイン思考に近いプロセスでどんどん新しいものを生み出しています。

当然やめるものはさっさとやめるし、続けるものは続けるという中で、すごくレバレッジの効いた業績を上げていく活動ができているのはこういうところにもあると感じています。

ちょっと話がそれましたが、住宅に関係するところでいくと、未来をどう予測するのかという中で、日本の住宅マーケットのデータをとってみてもいい話が何もないんですね。今予測できる未来のデータを見ても、ネガティブワードしか出てこない。

それよりも僕は、この左の状況からどんな面白いことが生み出されるのか、どんな価値観が芽生えてくるのかを想像しながら、この業界の中で何をするかを考えていく。

今僕がまさに思っていることは、不動産をより積極的に活用して人生を豊かにすることを、アナログな僕は考えるべきと感じています。

なので、空き家問題と言われますがこれは問題ではなくて、空き家があることのビジネスチャンス、日本人の暮らしが豊かになるチャンスです。

まず「人ありき」で始めるからこそ見えるもの

僕もいろんなリノベーションの事業をやってきたんですが、なぜアナログの話をするかというもう一つの理由に、結論出しちゃっているんですが、下に書いてあるのは不動産建築に関わるパラメータで、リノベーションする上でチェックポイントとして見ていかなきゃいけないことで、実はこのぐらいの数のパラメータが複雑に絡み合って、そこで何をやったらいいかということが決まるんですよね。

ただここはもしかしたら、データ分析できる内容かもしれないし、この中から無数の組み合わせも、もしかするとAIが何か答えを出してくれる時代が来るかもしれない。そう思っているんですが、やっぱり一番大事なところで、必ず人が絡んでくるわけですね。

例えば、廃墟再生してホテルをやろうと言ったところで、そこで働く人じゃなくてそこで生活している人が周辺にいるわけだし、そういった「何がどこに関わるのか」ということで「何をやるか」は当然変わるべきだと思っていて。

結果的に人が絡むことによって、デジタルだけでは処理できないことが可能性としても出てくるし、起き得るべきだと思っているんですね。

だから、人が何を感じるかということ、人ありきで何かを始めるということ。

そこに着目していかないといけないし、そこはデジタルで測れるかというと、1万人いれば1万通りの人がいることと一緒で、ここはやっぱりコミュニケーションをとっていく中でしか見いだせない部分じゃないかなと思ってます。

そういった意味で、そういう人がいることで、そこでしかできない体験価値が起き得るわけです。

この下の築年数、人が何分みたいな世界で、不動産とか有効活用とか、地域創成の在り方が決まるというのも全くあり得ないと思っているんですよね。

なので、あえてPremium Analog。今消費者が求めているものは実はそういった価値観かな、という気がしております。

Analogに光を当てるためのテクノロジー

最後に、私なりにリノベーションをいくつかやってきた中で、まさにメソッドとして感じているところは、今話したマーケットアウト的な発想は、わかりやすく言うとターゲットの潜在的なストレスをどう考えるか。それを問題解決するためのソリューションをそこにどう掛け合わせるのか。そして実行力。

これがあって初めてテクノロジーが生きるというか、これなしのテクノロジーは単なる機能でしかないわけですね。なので、ここの上の思いがすごく大事かなと。

それぞれの言葉を今説明した言葉に言い換えると、ターゲットの潜在的なストレスというのはさっき言った「マーケティング」の話だし、問題解決のためのソリューションとか、デジタル以外での例えば不動産建築で持つべき「経験」や「知識」。そこに実行力、まさに「マインド」ですね。

それに「テクノロジー」が加わると、ユーザーとしての納得感だったりテクノロジーのありがたみを実感できるんですが、これなくしてテクノロジーの会話だけをしても僕は始まらないと思っています。

そんな中、いきなり唐突な話なんですが、昨年「男木島」に行ったんですが、男木島に行ったことある人。

いないですよね。

瀬戸内の中でも香川に属するんですが、マイナーな島ですね。右のデータだけ見ると163人しか住んでなくて、ピークで1,000人いた島です。

皆さん名前も知らないとなると、「小豆島は知っているけど行ったことないね」ということだと思うんですが、マイナーな島に感じてしまって普通に考えると不動産評価は当然低い島。そこに何があるのかすらわからないと思うんですが。

船で高松から30分かかるので、不便っちゃ不便です。高松港まで空港から1時間かかりますので、さらにそこから30分。なかなか機会がないと行かない島です。

ただ、ここに呼ばれて、町づくりの話をしてくれと言われて行ってきました。

これ、Googleからとったのでわかりにくいんですが、これは道っぽく見えるんですが、人が1人2人しか通れない、車が通れない道でしかつながってないんですね。そこに築80年以上の民家がいっぱい立ち並んでいる島で。

この島を見て、行くと素晴らしさは実感できるんですが、さっきの地図とGoogleマップでも感じられるかもしれませんが、デジタルに入ってくる情報だけではこの島(の魅力)はやっぱり感じられないんですよね。

でも行くと、この島に魅力を感じて移住してきている人がどんどん増えている。

ただ、不動産価値は0というか、不動産取引価格は0。なぜかというと、接道できてないので、建て替えができない建物ばかりになっているんですね。山の中を、そういう道が張り巡ってて、町中歩くことができない。建て替えができない。だから、所有者不明の不動産もたくさんある状況で。

問題点を言い出すときりがないんですが、逆にこういった町を今から作ろうと思ってもできない。この価値をわかるかどうかということが、今日のアナログの体験にすごく通ずる話で。今「0円取り引き」もありますから、こういう町に僕はチャンスが広がってくるんじゃないかなと。

(取引価格)1,000万、2,000万の東京が、バリューが一番高いんだと思っていると、それはデジタルや過去のデータの中から出てきた話でしかなくて。それもそれである種、金銭面でのバリューは高いかもしれませんが、本当の豊かさという意味で、どこがバリューが高いのかはなかなか定量的に測れないものですよね。

なので、こういうもの(に魅力)を感じる世代がどんどん増えてきている中で、われわれとして、ここにデジタルやテクノロジーをどう組み合わせたら(本当の豊かさが視覚化されるのか)。

今日はそんな、アナログ体験って何なんだろうという会話がこのあとできたらなと思ってます。以上です。

中村 ありがとうございます。この島は上から見ても面白いですね。行ってみたくなっちゃいますけど。

内山 ではぜひ。私もあちこち瀬戸内は回っていますけど、島としては一番密集感もあって面白いです。山頂の神社まですぐ上がれますんでね。

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