テクノロジーによる、身体感覚への回帰と身体性の拡張。PERFECT DAY 編集長が語る デジタル × フィジカル の可能性とは?

#PremiumAnalog 3/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「 テクノロジー時代における『Premium Analog』な体験デザイン」と題して行われたセッション(全6回)の3回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 内山 博文氏:u.company 代表取締役, Japan.asset management 代表取締役
  • 松田 正臣氏:アルティコ 代表取締役 PERFECT DAY 編集長
  • 中村 真広氏:ツクルバ 代表取締役 CCO エグゼクティブ・プロデューサー / モデレータ

PERFECT DAY 編集長の視点

中村 続きまして松田さんなんですけども、せっかくなので、スライドが開くまで、手元に(松田さんがつくっている)雑誌を持ってきたので、この辺を。

松田正臣(以下、松田) そうですね。

僕のスライドは自己紹介よりもテーマ的になってしまっているので、この機会をいただいて、ご挨拶をさせていただければと思います。

松田 正臣:アルティコ 代表取締役 PERFECT DAY 編集長。1972年生まれ。2001年映像プロダクション株式会社アルティコを設立。ファッションや音楽の映像制作に携わる。2003年BOOK&DVD『ミラノ・サローネ 発想と形』等をプロデュース。2008年映像によるWEBメディア『DEFRAG』をローンチ。細分化するカウンターカルチャーを横断的に取り上げる。2011年「SPORTS AS CULTURE」をテーマにしたWEBメディア&SNS『onyourmark』をスタート。スポーツをライフスタイルの一部として扱うメディアの先駆けとなる。2013年onyourmarkの雑誌版『mark』を創刊。2017年日々の都市生活の中でも触れることのできる自然に目を向け、毎日の暮らしをPERFECTなものにする“URBAN NATURALIST”に向けたライフスタイル誌『PERFECT DAY』創刊。

先ほどご紹介いただいた、「PERFECT DAY」という雑誌はアーバンナチュラリストというターゲットを設定して、そういう人たちに向けて都市生活を豊かにする情報や物語を伝えていこう、というテーマでやっております。僕自身はこれの編集長をやっております。

もう一つ、「mark」というスポーツライフスタイル誌の媒体を先に立ち上げていて、昨年からmarkとPERFECT DAYの二媒体を運営しています。

手に触れる紙のかたちでやっておりますけど、当然今の時代ですのでWEB媒体と並行してやっております。markに関しては、立ち上げ時にはスポーツ体験をシェアするWEBサービスも運営していました。体験とデジタルの境界線でお話できればなと思っております。

先ほどのエディターズノートの概要でもお伝えいただいたように、内容としては2001年に会社を、もともとは映像プロダクションとして立ち上げております。マーケティングのお手伝いをするかたちで制作会社をやっておりました。

なので、関心としては基本的にはコンテンツ屋なんですね。コンテンツの価値がこれからどうなっていくかというのは常にウォッチしている中で、(エディターズノートに記載した)ああいう話が出てきました。

今回こういったかたちで呼んでいただきましたけど、不動産業界に関しては全く不案内ですので、そういったところで皆さんのお役に立てるかどうか、上手く着地点を見つけながらお話できればと考えております。

デジタル × フィジカル の可能性

2つの媒体を始めたきっかけからお話しできればなと思います。

面白いムービーがありますので、一つ見ていただきます。これは2010年に、スポーツメーカーのナイキが実施したプロモーションキャンペーンですね。

ナイキ「RUN Fwd:」というキャンペーンなんですけども、具体的にはどういうことかというと、ナイキRunアプリというGPSのランニングアプリを(ナイキが)持っています。

そのランニングアプリの訴求キャンペーンだったんですけども、これちょっと面白くて、駅伝って割と日本に独特の文化なんですね。

そのナイキのランニングアプリを使って、例えば5キロ以上走ってくださいと。

5キロ以上走ったら、友達にそれをパスするんですね。パスされた人は48時間以内にまた5キロ以上走らなきゃいけない。

ちょっと不幸の手紙みたいな要素もあるんですけど(笑)。そういったかたちで、ランニングのタスキをつなげていこうと。

それを一番長くつなげたチームが優勝しますという、デジタルと体験をうまく組み合わせた、非常に面白いキャンペーンだったんですね。

僕らはこのときに、単純にユーザーとして乗っかりまして、このキャンペーンに参加しました。

余談なんですけど、たまたま僕らのチームが、150人つなげて優勝したんですね。そのとき、すごく面白いなと感じてまして。

自分自身スポーツメディアにいながら、学生時代に全くスポーツをしてなかったんです。

2009年からご多分に漏れずダイエット目的でランニングを始めたんですが、それまで全く三日坊主で続かなかったものがそのときなんで続いたかというと、Twitterがそのときブームになっていて。周りにカルチャー関係の友人たちでつながるコミュニティがTwitterの中でできていました。

その中で、コツコツと走る人が出てきた。世代的にも30代後半だったので、皆さんちょっと身体を気にされていたりとか、あとはカルチャー周りに行き詰まり感があったところもあって、みんなフィジカルに身体を動かしたい気分が高まっていたと思うんですね。

その中で自分自身も走り始めて、それがTwitterの中で同時多発的に見えているという面白い状況がありまして。

自分が毎回3キロ走ると、それをTwitterで投稿するわけです。そうするとみんなが「ナイスラン」ってコメントがつくんですよね。

それがちょっとうれしくて、だんだん続いていって、同じぐらいの走力だった人が5キロ(に走行距離を)伸ばした。じゃあ自分もちょっと頑張って5キロになろう。

で、10キロ超えた。じゃあ自分も頑張って、みたいなかたちで、なんとなくコミュニティの中で相乗効果的にランニングが盛り上がっていく面白い体験をしまして。

その体験が続いていく中で、ちょうどこのキャンペーンだったんですね。

自分たちの周りのコミュニティでタスキをつなげようと思うと、せいぜい5人10人なんですが、そのときにタスキをつなげるにあたって、もっと人を広げていこうということで、Twitterの中でコミュニティを伸ばしていく活動が起こったんですね。

コミュニティの中でPMをする人が出てきたりとか、隣のコミュニティを巻き込んでいくみたいなかたちで、東京のチームだったりとか大阪のチームとかどんどんアメーバ状に広がっていって。最終的にそれが150人の規模になったというのが非常に面白かったと。

そこの面白かった肝が、フィジカルとデジタルがつながっていたことなんですね。

単純にオンライン上でコミュニティが広がっていく面白さはその時代にもあったんですが、そこに閉塞感が生まれてきたところに体験が伴うという。

それが非常に面白いなといって、そこにナイキさんがうまくそこの感覚をすくい取ってキャンペーンをやったという非常に面白い一例でした。

そこで自分の中でキーワードとして生まれてきたのが、ソーシャルとフィジカルですね。

僕はそれまでコンテンツ屋をやっていましたので、コンテンツのデジタルにおける閉塞感を、フィジカルでうまく打開できるんじゃないかというアイデアが浮かんできます。

もう一つ、デジタルとフィジカルの中で面白かったのは「ログ機能」ですね。GPSとアプリケーションの発達によって、スポーツのログがとれるという状況が生まれてきました。

この映像、面白いんですけども、これはストラバというGPSアプリ。自転車やっている人やランニングやっている人たちがよく使っているアプリなんですけど、これがユーザーのデータをヒートマップ化しているんですね。

これで見ると、どんなところでどのくらいランナーがいるかが一目瞭然でわかる。いま流行のビックデータです。

こういったかたちでログとフィジカルも見えてきた。

自分もランニングし始めて、毎回ログをとるんですね。ただ途中で不具合でアプリが止まっちゃうことがあるんです。そうすると、立ち止まってやめちゃいます(笑)。

ログがとれないと走りたくないんです。だからそれぐらい、デジタルとフィジカルが有機的に結びついてる。

なので今、スポーツメーカーもアパレルの中で優位に立っていますし、フィジカルなものだったりとか健康がフィーチャーされてきています。

その中に、このデジタルのサポートが、実は見えないところですごくあるんじゃないかなと感じています。

身体感覚への回帰を促した“震災の経験”

もう一つのきっかけは、2011年の東日本大震災ですね。

このナイキのキャンペーンが、確か2010年から2011年にかけて行われていたと思います。

僕らもTwitterとかキャンペーンを使いながら、オンライン上でランニングの行動をシェアしてたんですけど、その中から、自分の中で「じゃあスポーツのメディアやってみよう」と。今自分たちの感覚にあうスポーツのメディアってないから始めてみよう、というところで準備をしている最中でした。

その会議をしているときにちょうど地震が起こりまして。

実際そこで何が起こったかというと、帰宅難民ですね。皆さん帰るのすごく大変だった。

このあと、2011年の8月に「onyourmark」というWEB媒体を始めるんですけども、そこで最初の頃「マークピープル」という、スポーツをやっている人を毎日ご紹介する記事を作っていました。

そこで皆さんに走り始めたきっかけを聞くと、多くの方が震災の体験を挙げていました。

帰宅難民になって、機動力がないとか、自分の体を使って帰れない。すごく長く歩いて帰ったという経験から、いつでも自分で行動を起こせるようにとか。

あとは、本能的にサバイブしなきゃいけない気持ちが生れてきた中から発生したことかなと思います。

そういった中で、このonyourmarkが、2011年8月に立ち上がりました。WEB媒体としてはこういったかたちでやっております。

しばらくして紙の媒体も始めております。

これは年に2回出しておりますけど、テーマとしては、理想の24時間だったり、野生に還るための食とトレーニングとか、カラダのミライとか。スポーツ媒体ではあるんですけど、ライフスタイルやカルチャーと結びついた切り口で紹介しています。

こういったテックのカンファレンスで紙を持ち出すのも恥ずかしい感じもするんですが、なんで紙かと言いますと、バンドルする力が非常に強いんですね。

WEBのコンテンツは、バーティカルというか、バラバラに流通していってしまうので。

皆さんもオンラインの情報をとるとき、そこは何の媒体の情報かはたぶん意識されてないと思うんですよね。ソーシャルで回ってきたものを、都度テーマで見ていると。

そうすると、発信する側としてはテーマ切りで伝えるのは非常に難しい。なので一つひとつの記事ではなく、一つのパッケージングされたものとして「今こういうことがテーマとして持ち上がっていますよ」というのを伝える場合には、やっぱり紙の媒体のメリットはあると思っています。

ただご存知の通り、出版業界は今、地盤沈下を起こしております。

そういった中で、紙以外でこういったバンドルした情報の提供をどうやってできるかというのは引き続き模索していきながら、デジタル上でできればそれに越したことはないので。特にマテリアルにこだわっているわけではなくて、われわれとしてはバンドルした情報をどうやって伝えていくかというのを常に考えています。

身体から“食”へ―“アーバンナチュラリスト”とは何か?

そのフィジカルという話、われわれのスポーツ媒体でやったりとか、自分自身も身体を動かしていく中で、身体に対して自覚的になっていきます。

身体に自覚的になっていくとどうなっていくかというと、食事が気になります。

まずすごく端的に言うと、5キロ走ると大体ご飯お茶碗1杯分のカロリーを消費します。5キロ走るって、最初の頃は非常に大変なんです。

その5キロ走ったとき、これ食べたら5キロ分になっちゃうの? と思うと、非常にもったいない。その5キロ走る分のカロリーを何かおいしいもので補いたいとか、いいもので補いたいっていう。食べものに対してものすごくシビアになっていきます。

そういった中で、これもベストセラーの書籍を並べてるんですけども、「Go Wild」という書籍がありまして。これは「野生の体を取り戻せ」と。

野生を取り戻すというのが最近のキーワードにもあるのですが、その中にフィジカルなアプローチと食べ物のアプローチと、あとはマインドフルネス。マインドのアプローチがあると言っています。それはどれから始めてもいいと言っていますね。

例えば身体を動かすところから始めると、自然と食にも関心が向かうし、マインドフルな状況にも向かっていくと。

マインドフルネスを始めると、身体が気になったり食事が気になったり。どのアプローチで行ってもこの3者はいずれたどり着く、ということを言っているんです。

Googleでもマインドフルネスがここ2〜3年、非常にとり上げられています。結構テック業界とマインドフルネスという話は出てきていますけども、そういったところが、こういうフィジカルなところと結びついているかなと思っています。

隣の「EAT&RUN」という本は、山の中を160キロ走る競技があるんですけど、それの連続チャンピオンの人がビーガンだったという、食べ物とランニングに関する話が書かれています。

一番手前もかなりロングセラーで、「BORN TO RUN」という本ですね。

これは、南米にタラウマラ族という、自分でタイヤを使ってサンダルを作って、それで山岳を走る民族がいるんですね。そういう人たちが、アメリカのレースではめちゃくちゃ速かったという。

じゃあ逆にタラウマラ族の環境に行って、アメリカのランナー走らせるとどうなるかという話だったりとか、そこから人類学的なアプローチに入っていって、人間の身体はもともと走るようにできていますよ、という解説をしていたり、非常に面白い本です。

そういった身体の本質的なところに関心が向かう動きが非常にあるかなと。

一つ面白いのは、これ全部NHK出版さんなんですね。この書籍の編集をされているのは松島倫明さんで、先日「WIRED」の新編集長に就任された方です。彼がこういった非常にフィジカルなものとデジタルなものを結びつけて扱っているのは注目すべきポイントです。

そういった中で、もともとは身体を中心に編集をしていきまして、その流れの中から食につながっていって、より広い層にリーチしたいとかライフスタイルそのものを健康にしていきたいという意識があって、「PERFECT DAY」という媒体を作りました。

「アーバンナチュラリスト」というキャッチフレーズを作ったんですけど、なんでアーバンナチュラリストかなんですけど、先ほどの男木島とか小豆島もそうですが移住者が非常に増えていますね。

そういった方たち向けの媒体や情報は意外と流通していると思うんですが、実態を見ると、都市に人口が集中しているのが事実としてあると(編注:「地方移住者が増えている」というミクロな情報が流通しているが、マクロで見るとほとんどの地方自治体で流入人口よりも流出人口が多い傾向が長年変わっていない)。

表面上に出てくる情報と実際の数字は意外とずれていて、都市化がますます進んでいる中で都市生活もよりアップデートするというか。じゃあ、移住したいけどできない人たち。そういう人たちが都心の環境の中でどうやって暮らしていくのか、というのがこれからのテーマになるのかなと。

それは内山さんが今取り組まれていることとつながるかと思うんですけども、そういったことをテーマにこれから編集を続けていきたいです。

中村 ありがとうございます。

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