イノベーションの境界線を乗り越えた先に見える世界

# Borderless 3/4

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「Borderless。価値創造のための境界線の溶かし方」と題して行われたセッション(全4回)の3回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 長田 英知氏:Airbnb Japan 執行役員
  • 豊田 慧氏:WeWorkJapan Design Director
  • 月森 正憲氏:寺田倉庫 専務執行役員
  • 小池 弘代氏:渋谷区観光協会 事務局長
  • 光村 圭一郎氏:三井不動産 ベンチャー共創事業部統括 BASE Q運営責任者 /モデレーター

渋谷区観光協会の目指す「前年比120%の体験満足」とは

小池 弘代:渋谷区観光協会 事務局長。2018年4月一般財団法人渋谷区観光協会 事務局長に着任。(社)渋谷未来デザイン Project Directorを兼務。公助から共助へ、シェアリングエコノミーやソーシャルキャピタルにより豊かな社会を目指したいと考え、2016年より一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局次長・株式会社スペースマーケット 社長室ブランド戦略など広報・講演活動に従事。また、長年オンライン旅行業業界におり、国際カンファレンス(MICE)の企画・運営・全体統括などをオーガナイザーとして担当。海外連携、エリアブランディング(地域活性)・マーケティングコミュニケーションを領域に活動の幅を広げる。

小池弘代氏(以下、小池) 渋谷区観光協会の小池と申します。

簡単に自己紹介させてください。2018年4月に渋谷区観光協会の事務局長にジョインしました。

直近はシェアリングエコノミー協会の事務局次長をやっていて、そのときは株式会社スペースマーケットの社長室を兼務していました。

遡ってみると代理店にいたり、あとは今「LINEトラベルjp(編注:旧Trevel.jp)」という旅行のメタサーチ会社にいたり色々な事業会社を経て、業界団体を経て、今は渋谷の外郭団体にいます。

メインは観光業界ですが、この時間帯に別セッションを行っている渋谷未来デザインという組織が同じく4月に立ち上がっていて、そちらと兼務しているというように、まさに私自身の働き方がある意味パラレルなボーダーラインを越えた働き方をしていると個人的には思っています。

境界線・ボーダーレスというお題をいただきまして改めて思ってみたのですが、この半年間渋谷に根付きながら色々なことを取り組んでいる中で、まさにこの観光協会のような外郭団体は、行政でもできないことや地域とつながりを作ってあげることで溶かしていく役割を担っていると思っています。

みなさんご存じでしょうか。渋谷に観光協会があったことも実は知らない方も多いと思うのですが、渋谷は放っておいても嬉しいことに、どんどん人が増え続けております。なので私たちは来てもらうことには何もお金もリソースもかけていないのです。けれども「前年比120%の来訪者を獲得するのではなく前年比120%の体験満足を提供する」「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA “多様な楽しみ方ができる街シブヤ”」をミッションにしています。

いくつかボーダーラインを越えながら、巻き込んだり違いを合わせてみたりミックスしてみたりした事例をご紹介できたらと思います。

お土産、ナイトタイム、フード&ドリンク、テクノロジー……今までの渋谷の常識に縛られない

今渋谷にお土産がないので、区長を含め渋谷の企業と色々と「スーベニアプロジェクト」が立ち上がっております。

クラウドファンディングで作った渋谷のお酒や、渋谷というのは観光資源になっているものがハチ公と交差点のスクランブルで、こういったものをアイディアベースで色々な人たちを巻き込みながら新規事業をやっております。

次に「夜間観光」ですね。夜間経済の観光を盛り上げようということで、今回のLivingTechカンファレンス(2018のテーマ)もポスト2020ですが、2012年のロンドンオリンピックで夜間経済が何兆円と拡大したように、東京で開催されるオリンピックの際にも「24時間安心安全に楽しめる街東京を作ろう」と、観光庁を含め政府でも提言されています。

実は今若者が夜渋谷にいることがどんどん減ってきています。渋谷で働く企業の方が飲み会をして帰る形で、夜終電前になると閑散としているのが現状です。なので、改めて夜も楽しめるナイトタイムエコノミーに注力していきたい中、これは広域連携で地域を越えることで、新宿区と渋谷区と一緒にタッグを組みながら、今度ナイトタイムパスポートにチャレンジします。

次に時間軸を越える事例としては、最近この春から昼間の街歩きツアーと、夜のフード&ドリンクの飲み歩き・食べ歩きツアーをやっています。とても好評で、通訳・案内士のおかげか誰でも体験できるようになっているのですが、観光協会も1つオリジナルでやってみてもいいのではないかということで、取り組んでいます。

渋谷はみなさんご存じの通り色々とイベントが多いのですが、その中でも例えば街中に溶け込むということで、普段道路になっているところが音楽のステージになったり競技場になったり……本来では使えない使い方の境界線を越えてイベントを実施しています。

次に今年初めて取り組んだものですが、産官連携プロジェクト〜創造実験ラボ『#SCRAMBLE(#スクランブル)』〜プロジェクトスクランブル #SCRAMBLE x Sony です。

企業が箱になっているベニュー(=会場)を使って何かプロモーションしても(空間が物理的に閉じているので)一企業のブランディングだけで終わると思います。ですが、SXSW(サウスバイサウスウエスト)は地域の方や街中をすべて巻き込みながらイベントをやっているところから、私たち渋谷もそういった共創実験として、一緒に企業がやりたいことを渋谷の色々なところを使って創造実験ラボとして、街中を使って「Creative Growth Shibuya」を目指していこうということで始めます。今年参画パートナーとして、クリエイティブパートナーにソニーさんをお迎えしました。

最後に、今後の挑戦ですが、現在本当に色々な方々を巻き込みながら、それこそ地域のお子さんたちにも今意見を聞いてみたりやりたい企業に手を挙げてもらったりしながら、渋谷にシビックプライドが育つ場所として、代々木公園の隣にスタジアムを作りたいと考えています。「スタジアム構想 SCRAMBLE STADIUM SHIBUYA」ですね。

また、観光協会は2012年からあった組織ですが、この4月に渋谷未来デザインが(新たに)できて、役割が明確に分かれています。観光協会だとなかなかリスクを取ったチャレンジはしづらいのですが、社団法人の事業を作って稼いでいく組織ができたことで、規制緩和や実証実験をやってもらって、観光協会ではその実現化や運用フェーズで地域と連携しながら実証していくことで、ここも境界線が溶けているのかなと思っています。以上です。

光村 ありがとうございます。

「妄想」と「大人」の境界線が溶ければイノベーションが生まれるはず。三井不動産 光村氏

光村 では私からも紹介させていただきたいと思います。三井不動産の光村です。

私は今メインのプロジェクトとして、東京ミッドタウン日比谷にありますBASEQという仕組みのプロデューサーをやっております。これは何かと言うと、日本の大手企業に対してイノベーションのサポートをする仕組みを運営しています。イノベーションは今回の境界線に照らし合わせてみると、僕はこのように捉えています。

左側に奇人変人から始まって起業家、スタートアップという成長曲線が書いてあります。右側にカギカッコつきで「大人」たちと言っています。

何を言いたいかと言うと、今世の中を騒がせている様々なスタートアップは、しょせん一番最初は個人の「こんなことあったらいいな。やりたいな」という妄想から始まっています。

それは得てして「大人」から見れば単なる奇人変人の戯言にしか聞こえないのではないか。ただ、それが単なる妄想ではなくて、「やはりこれは社会的にはこういう意義があるよね」「これをどんどん伸ばしていくとこういう効果があってみんなが幸せになるよね」という色々な目線や意義が与えられます。

そこにかつヒト・モノ・カネというリソースが提供されることで、だんだんと形になり事業になり、どんどん成長していくことが現実に起きています。

それでこの「大人」たち側は、アクセラレーター・エンジェル・VC、最近はそこに大手企業も参入してきて、スタートアップ側に対して様々な刺激を与えたり栄養分を与えたりしているわけです。

普通に考えると、やはりこの「大人」たちと呼ばれるグループと左側にいる人たちの間には大きな境界線・壁があって、これをうまく溶かしあいながら乗り越えていかないと、このリソース投入は基本的に進まないです。

特に日本では大手企業たちが、色々新規事業をやろうとはしていますが、なかなかカルチャーやメソトロジーが整備されていなくて掛け声倒れで終わってしまっているのではという問題意識を持っています。この部分の境界線を溶かすことを、私も日常的に支援していまして。スペースを用意するだけではなくて、当然先ほどWeWorkさんからもありましたが、コミュニティを作っていく発想で我々は運営をしています。

簡単に言うと、まだ小さくても非常におもしろいことを言っている人たちと、価値を作るのはちょっと苦手かな、頭が固いかなと思える人たちですがそれを大きくすることに対してはコミットできる大手企業、特にイントレプレナーと呼ばれる人に対して、交流接点を作って有機的な融合を果たしながら事業化に進めたいと考えています。

今イントレプレナーと申し上げましたが、昨今注目を集めている1つの人材像と言っていいと思います。私も三井不動産の中で新規事業をやっていますので、イントレプレナーの1人です。まさに今日のテーマになっている境界線の間に入っていって、その外と内にあるものをつないでいく役割を果たしていく人たちの1人です。

スタートアップと大手企業は先ほどカルチャーのギャップが大きいという言い方をしました。車を例に考えると、すごい速く回るエンジンがあるのですが馬力が実はない・まだ小さい、それで大きな大手企業の車輪を動かすには、パワーが適切に伝わらないと要はエンストしてしまうわけです。

適切なギアを噛ませていって、その力をうまく伝達していくつなぎ役が必要になるでしょう。それがまさに私の言っているイントレプレナーという役回りです。

優秀なイントレプレナーの傾向とは?

そして、このイントレプレナーも色々なやり方があるなというのが我々の研究で見えてきています。

私は大きく分けると2つのイントレプレナーという議論を最近やっていて、このBASEQの運営にも反映させています。ざっくり言うと「外交がうまいイントレプレナー」と「内政がうまいイントレプレナー」です。

つまり外のスタートアップが提出する新しい世界観はまだまだ不確かで曖昧ですが、そういったものに対して高く共感を示してそれに対して取り組んでみようという入り口を作れる人と、それを踏まえて現実の会社の中の人たちを巻き込みながらそのリソースを引っ張り出してくる、ある種社内政治を発揮してつないでいく人はちょっと違う能力や動き方が求められます。このイントレプレナーを2つに分けて、これ自体にギアを噛ませてつないでいく考え方があります。こういった考え方に基づいて、先ほどのBASEQやイントレプレナー支援、イントレプレナー育成など、その彼らの行動を実際にサポートするプログラムをことをやっています。

それで私の考える境界線は、まさに外と中、特に日本においてはスタートアップと大手企業という対極にある境界線をどう溶かしていくのかが私の問題意識です。こういった考え方でやっているという自己紹介でした。

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