建築のテクノロジートレンドはこれで決まり―キーワードは、VR・3Dスキャナー・3Dプリンター・AI・クラウド
#BuildingTech 2/7
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「デジタル時代のものづくり」と題して行われたセッション(全7回)の2回目をお届けします。
登壇者情報
- 秋吉 浩気氏:VUILD 代表取締役CEO
- 藤村 祐爾氏:オートデスク Fusion 360 エヴァンジェリスト
- 齋藤 精一氏:Rhizomatiks Creative Director / Technical Director
- 野城 智也氏:東京大学生産技術研究所 教授 /モデレータ
テクノロジー自体をサービスとして販売するAUTODESK
野城 それでは続きまして藤村さんにお話頂きます。
藤村祐爾氏(以下、藤村) よろしくお願いいたします。AUTODESKの藤村でございます。もともと工業デザインをやっていました。
藤村 祐爾:オートデスク Fusion 360 エヴァンジェリスト。18歳で渡米、現地で高校、大学と進学し、工業デザインを学ぶ。ニューヨークで7年ほど工業デザイナーとして活動したのち帰国。アルテアエンジニアリングにて、トポロジー最適化ソフトやデザイナー向け3Dソフトのテクニカルセールスポジションを担当。2013年オートデスク株式会社に入社。自動車業界向けビジュアライゼーションソフトや3DCADソフトのテクニカルセールスのポジションを経て、現在はより多くの方にFusion 360を知っていただくための活動に、Fusion360エヴァンジェリスト(伝道師)として従事。直近はFusion 360に実装されたジェネレーティブデザインの伝道師としても活動中。
ここにいらっしゃる皆さんは、ほとんど「フロッピーを知っているよ」という方もいらっしゃいますし、「見たことないよ」「なんですか、これ」という世代もだんだん出始めてきています。
AUTODESKは35年前に、結構建築だと有名なAUTOCADという図面を書くソフトから会社を興しています。
今では製造業を初めとして建築・土木、そして一般の方々にはハリウッドのCGやゲームといった3Dを作るソフトウェアを提供させて頂いています。
今回の議題に合わせて言うなら、テクノロジーをサービスとして供給・販売している会社です。
AUTODESKでは、この先ものづくりが5年・10年後どういう方向に向かうのかを意識して捉えて、そして皆さんが望む未来に向けて必要な技術を提供していこうということで、「The Future of Making Things」というスローガンを掲げてソフトウェア開発をしています。
設計におけるテクノロジートレンドということで、ざっくり5つ抜き出しました。ざっくり言うと、VR・3Dスキャナー・3Dプリンター・AI・クラウド。皆さんが1度は耳にしたことのあるテクノロジーが今ものづくりの世界を変えつつあります。
そんなテクノロジードリブンな会社にいて、AUTODESKが今提供できる最新のテクノロジーはいったい何なのかということです。
これは何かと言うと、ちょっと「おや?」と思われた方、これは当然食べるための道具ですが、食べる行為を課題と置き換えた場合、例えばスープが目の前にあってそれをナイフで飲む人はいないですよね。
その目の前に与えられた課題に対して適切なツールは、人間が今までずっと生きていく中でいろいろな道具として具現化されているわけですね。
ですが、例えばいろいろな課題は刻々と変化するわけで、食べ物が全部スープであればスプーンだけでいいのですが、中にはステーキのように切らなければいけない・挟んで摘み上げなければいけないという課題があるわけですね。
ということは、様々な課題に対して本当は様々なアウトプット・解決策がいっぱい用意されていて、その中から適切なツール・解を選ぶといったことがものづくりの中に求められてきています。
要はこれがデザイン案になるわけですが、言い方を変えれば先ほどのスプーンやフォークという食べるための道具が一杯あって、例えばカニを食べるのであればこのツールが必要だねと選べるようにする必要がありますよね。
この無数の案を本来は、例えば1人がバーッと生み出せればいいのですが、たったひとりのエンジニア・デザイナーの人が1日に生み出せる案やソリューションは限りがあります。
それでは短時間でいっぱい生み出すためにはどうすればいいのかというのが、要はコンピュテーショナルパワーを使うということですね。
コンピューターは無から生み出すことはしてくれませんが、ある一定の条件を与えれば計算は大得意ですので、あっと言う間に様々な解、またはパターンを生み出すことが可能です。
こういった技術のことを、今ジェネレーティブデザイン(編注:genarative design。あらかじめ定義された目標と制限を満たす、高度に最適化されたデザインを生み出すことのできるソフトウェア テクノロジー)というテクノロジー・技術でAUTODESKでは表しておりまして、かなり今プッシュしています。
3Dプリンタで製造した橋が現実のものに
国内の事例で、建築と言うよりもどちらかと言うと製品デザインになってくるのですが、こちらのWHILLさんの事例をごらん頂きます。
こちらの電動車椅子は3つのパーツに分解することができます。それぞれのパーツが15kg・15kg・20kgという重さですが、実はこの15kgと20kgの間に大きな課題があります。
20kgは、成人男性であれば間違いなく持ち上げて車に積めるのですが、女性の方・ご年配の方は20kgはちょっとハードルです。つまり、誰でも車椅子を積めるところに至らないわけですね。またはできても大変です。
なので彼らの中では、この20kgをいかに落として15kgに近づけるかという課題があるわけです。
それで、もともとあったデザインをコンピューターに計算させて軽くて強い構造体を作りなさいとオーダーします。そうすると右側のオレンジ色のような肉抜き軽量化されたフレームが提案されてくるわけです。
今までずっとこういうコンピューターが造形をするのは、まあまあ見られたのですが、最終的にこのオレンジ色の形、これは従来のテクノロジーでは中々作ることが困難だったのです。
そうすると机上の空論というか絵に描いた餅になりかねないのですが、最近3Dプリンターが日々どんどん進化しておりまして、こちらに挙げている例は、ロボットアームの先端に溶接の機械がついていて橋をロボットが自分で架けてしまう、放っておくと橋を最後まで架け切ってしまうという壮大なプロジェクトです。
ちょっと前までこれはドリームコンセプトだったのですが、オランダの(3Dプリント建設企業である)MX3Dという会社が実際にこのシステム・仕組みですべて金属の3Dプリントされた橋をもう作っています。
それでもう完成していて、今はデザイン賞か何かに展示しているのですが、最終的に年末か年始にこれをオランダのアムステルダムに3Dプリントした橋を架けるわけです。(編注:2015年に発表。2019年に設置予定。出典:https://mx3d.com/projects/bridge-2/)
そうすると「作る」という工程において、設計したものを3Dプリンターというハードウェアが具現化してくれる・作れなかったものを作ってくれる世の中になっていくわけです。すると、その設計やデザインをする人にとってはかなり可能性が広がります。
建築×テクノロジーを飛躍させる、BIMとクラウド
これをするためには、実はひとつすごく大事なことがありまして、特に建築の場合ですと膨大な量のデータをものすごい数の人が日々見るわけです。
いかにデータをひとつのプラットフォームに集約して、そのグループ・チームに携わる人がいかにそのデータに気軽にアクセスをし、必要な情報を得られるかということが必要になってきます。
そこで、AUTODESKが一生懸命言っているのは、このBIM(編注:Building Information Modelingの略称。3次元の建物のデジタルモデルにコスト・仕上げ・管理情報などのデータを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用するソリューション、それにより変化する建築の新しいワークフロー)というワードです。
このBIMの情報を常に全員が同じレベルで共有をし、そのBIMに集められた様々な情報をAR・VRなどでバーチャルリアリティ的に、先ほど齋藤さんもご利用されていましたが、3Dスキャナーで撮ったものと組み合わせるなど、様々な情報を集約しそれをニーズに合わせて届ける仕組みが必要です。
それで今これは世界的にすごく伸びてきているのですが、日本はこのジャンルにおいて諸外国にかなり遅れています。
BIMだけでも実はダメでして、今後伸びてくるのはやはりクラウドです。ものづくりという大きな括りにおいても、先ほどのジェネレーティブデザインもしかりですが、クラウドは避けて通れません。
クラウドを使うと、本当にいつでもどこでも誰とでもデータの共有ができるというのが最大のメリットです。膨大なデータをUSBに入れてパソコンに移すのは、もはや現実的にはなくなってきています。より速い情報のシェア・共有をクラウドで行うことによって、開発プロセスそのものが迅速化します。
そこにAUTODESKが今一生懸命進めようとしているのが、FORGEというプラットフォームです。
このプラットフォームを使うと、AUTODESKのテクノロジープラス皆さんが持っているテクノロジー、こういったものを1つのプラットフォーム上で組み合わせることによって、今度はデータは1つのプラットフォーム上にあるのですが、ニーズは本当に様々千差万別なので、本当お客様や企業のみなさまに合った真のカスタマイゼーション・バリエーションを作ることが可能です。
このFORGEですが、AUTODESKも様々なソフトウェアを持っています。例えて言うのであれば、いろいろなパーツのレゴがあるイメージです。
皆さんはこの様々な技術の中から「これがほしい」「あれがほしい」「それがほしい」という必要な技術を選んでいくわけです。
そして必要な技術を集めて最終的に自分のほしいものを作るというまさにレゴ的な感覚ですが、今AUTODESKはまさにこういったことをFORGEという開発プラットフォームで実現しようとしています。
それでちょっとこれは言い過ぎと個人的には思っているのですが、何かをリサーチする・探すにはグーグルさん、何かを買うのであれば例えばアマゾンさんのようなところ、何かを作るのであればAUTODESKに来て頂けるとうれしいなという、ちょっと宣伝になります。
BIMについてちょっと情報を見たい方は、こういうリンクもありますのでぜひスマホで画像を撮って頂いてアクセス頂ければ、今BIMがどのように使われているかをごらん頂くことができます。
野城 以上ですね、ありがとうございます。