幸せって何だろう?林氏(東京R不動産)が感じる“もやもや”の正体

#都市経営 4/8

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「これからの都市デザイン&都市経営」と題して行われたセッション(全8回)の4回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 山口 堪太郎 氏:東急急行電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業統括部
  • 小泉 秀樹 氏:渋谷未来デザイン 代表理事, 東京大学 教授
  • 石田 遼 氏:MyCity 代表取締役 CEO
  • 林 厚見 氏:SPEAC 共同代表, 東京R不動産ディレクター /モデレータ

テクノロジーと幸せの間にある“もやもや”とは

皆さんすごい大都市の話をされましたが、一方で地方が気になっている方もいらっしゃると思います。今日は(本会場である)渋谷に寄せた大都市でモデルをつくっていく話か、もうちょっと地方も含めての話かどちらがよろしいですか。

小泉 地方も含めてのほうがおもしろいかもしれませんね。

そうですよね。では、私は学者でなく不勉強な実務家みたいな立場なので、そういう立場から疑問に思っていることを1枚だけ用意しました。

その前に自己紹介。東京R不動産という物件サイトと建築不動産の再生をプロデュース・企画・設計などに携わっております。1番下のsemicolonは仲間とつくった会社です。

林 厚見:SPEAC 共同代表, 東京R不動産ディレクター。1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科、同大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて大企業の経営戦略コンサルティングに従事した後、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。国内の不動産ディベロッパー、スペースデザインにて財務担当取締役として経営企画や資金調達、プロジェクト管理等に従事。2004年に株式会社スピークを共同設立。不動産物件のセレクトサイト、リノベーション・内装のECプラットフォーム等の運営、不動産再生プロジェクトや新規事業のプロデュース、カフェ・宿の運営などを行う。

これはいわゆる都市再生のある種の経営戦略づくりから、実行、事業プロデュースまで入っていくハンズオン型シンクタンクをつくり、今地方都市のいくつかの場所でやってます。

そんな中で「都市経営」や「都市デザイン」は定義してもしょうがないぐらいの言葉だと思いますが、僕がふわっと、こんなことがもやもやするなという“もやもや図”です。

今日はLivingTechなのでテックの話があります。そのテックと幸せの関係がまずはどういう経路なんだろうなというところを、テック発でもやもやと考えていきます。

技術が効率・生産性を高めることになったときに、ひいては産業全体の経済全体のプロダクティビティをあげ、結果的に財政が動くことになっていく矢印。そして経済基盤があって福祉・安心あるいは文化の維持が国単位でも自治体単位でもあるという経路が1つ。非常にこねくりまわしてますけど。

一方で単純に技術が進化して「便利だね」、「自由だね」、「自由な時間が増えるよね」、「最適化されるよね」、「行く場所の選び方、人と出会う最適化もできるよね」……というある種楽しいコンビニエントでハッピーというルートもある。

……論理が精緻じゃないですが勘弁してください。

一方で、いわゆる空間デザインとか都市のアメニティはどう繋がっているのか。

最近僕が気になっているのは「公共空間をどうする」みたいな議論をするときに、住民に対する便益提供は当然あるんですが、特に地方の場合はキー人材を引き付けたり、ある意味での産業誘致だったり、そちらのインセンティブを高めるデザインだったりがないと、結果的にこの幸せサイクルが成り立っていかないという問題意識が結構あって。そこの議論があまり繋がっていないと思うわけですね。

一方でいわゆるアイデンティティとかコミュニティとかのイシューをどう救っていくかという話もありますが、こういうふうに僕の頭はやけにもやもやとしているわけですね。

“もやもや”が導き出す、都市計画の課題とは

赤字のところが普通のまちづくり論として、あまりトピックとして表に出にくい。レガシーな意味での都市計画において、都市経済の話とアーバンプランニング、あるいはアーバニズムの議論は赤字のところと一緒に考えることが比較的できていないと思っています。空間デザインも結局、人材産業や経済財政ありきなんですよね。

さらには、人材産業あっての「お父ちゃんの仕事がなくならなかったね」、「生まれた場所で死ねますね」という幸せもある。

BID(編注:Business Improvement Districtの略。地権者に課される負担金を主財源に街を「経営」する制度や組織を指し、2014年2月に大阪市で日本初のBID条例が成立した。出典:https://www.projectdesign.jp/201410/2020urban/001635.php)みたいな仕組みは、ある部分を解いていくとか各論的にはコミュニティデザインだとかいろいろなテーマなりアイデアが生まれ、それをみんなでうまくやっているということだと思うんですね。

それでそんな中で今、Techからアメニティ空間デザインに赤い破線がびよーんときていますが、ここはやっぱりまだまだ薄い。アーバンデザインに関わる人、あるいは建築家も含め、あまりフィジカルなデザイナーはTechを踏まえた15年後の想定があまりされていないと思います。制度もそうですが、そこがTechのイシューだなと思って「?」をつけました。

空間をつくる側も特に地方問題が大きいですけど、「どういう公共施設があったらその場所に東京で修業したビジネスマンが、地場企業を再生しにポンと行くか、奥さんを説得できるかというデザインをしなきゃまずくない?」みたいな「?」が右の「?」です。

そういう全体のホリスティックな解決に向け、個別解をディベロップすることは大事なんだけれども、全体として「我々はどこへ行くのか」という線をどう差別化するかという戦略と、デザインという全体的な視点はまだまだこれからだと思っています。

こんなことを日々思うんですが、東京・渋谷に関しては、「グローバルな競争にさらされる中で競争力をどう上げるか」という話とか、「サステイナブルな都市とは何だ?」というのを分けて考えているというお話がありました。

このあたりのアーバンデザインとか都市デザインに関して、いわゆる戦略目線とか自治体の経営目線とか経済的なサステイナビリティが、この10年20年あまりマージしてなかった気がするのは私の勘違いでしょうか。先生にお伺いします。

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