道路や公園をつくることは「都市計画」と呼ばない? 欧米の事例を手がかりに
#都市経営 5/8
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「これからの都市デザイン&都市経営」と題して行われたセッション(全8回)の5回目をお届けします。
登壇者情報
- 山口 堪太郎 氏:東急急行電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業統括部
- 小泉 秀樹 氏:渋谷未来デザイン 代表理事, 東京大学 教授
- 石田 遼 氏:MyCity 代表取締役 CEO
- 林 厚見 氏:SPEAC 共同代表, 東京R不動産ディレクター /モデレータ
分断された「都市計画」と「都市経営」
小泉 学生の講義でその話をよくするんですが、例えばアメリカは密接に関係していて、都市計画イコール都市経営です。都市計画と都市経営ってほぼ一体化しているんですよね。
アメリカはコンプリヘンシブ・プラン(編注:自治体単位で策定される基本的な土地利用計画)をつくるんですけど、それは全ての行政の最上位計画なんですね。
その内容の多くは都市計画なんです。理由は都市経営上の一番の有効なツールが都市計画だからなんですよね。
何よりも都市計画によって、日本でいう固定資産税……自治体の財源の6割7割を場合によっては占めますから、そこが非常に重要です。だから都市計画を中心とした都市経営はアメリカに実際ある姿なんですよね。
ところが、日本でいうとさかのぼること50年ぐらい前、60年代後半に都市計画の法律を新しく見直したんですね。
それまで日本の都市計画って、道路つくったり公園をつくったりするのが都市計画と思っていたんだけど、違った。自治体の空間戦略をつくることが都市計画なんです。それは欧米の都市計画で成立するときにそうなったんだけど、日本はずっと道路や公園をつくるのが都市計画だと勘違いしていたんですよ。
60年代後半に、主にわれわれの先輩たちが欧米の本当の都市計画をしっかり紹介をして、ようやくそれを記述するようになりました。
ただし、そのときに、当時の建設省と自治省に裂かれてしまって、今の国土交通省である建設省は、昔からの都市計画を入れた。今の総務省である自治省も市町村総合計画を入れましたってことになって分かれちゃったんですよ。
本当は一体のものじゃなきゃいけなかったんですけど、空間的な比較的土木に近いところはいわゆる都市計画と呼ばれ、もう一つのところは自治体の総合計画という名前で呼ばれてました。「総合計画」という名称はアメリカのコンプリヘンシブ・プランに由来しています。
そこで分かれてしまったので、都市計画と経営とか都市戦略は少し距離があるものになってしまったというのが一つの話としてあるわけです。
さらにいうと、いわゆる戦略的な計画づくりとしてストラテジックプランニングというやり方が実はあるんですが、実は日本では全く紹介されていません。
例えば、アメリカの自治体の計画も企業の経営戦略と同じようなやり方でつくっています。
それこそ多種多様の競争で、空間的にも社会的にも都市をいいものにしていくところをどうマネージングするのかという戦略をつくっているんですが、そのやり方が日本には全くまだ紹介されていません。そこにはいろいろな理由があるんですが、細かい話は講義で。
林 先生たちのあいだでもその問題意識はとうの昔からあるけれど、霞が関と政治の構造としてハードルが高いということですね。
小泉 そうですね、本当に日本は縦割りだから。最近は補助金に縛られて自治体まで縦割りになっちゃってるから。
鉄道会社は、非上場にしてMBOすべき?
林 多分そういう中で、どう働きかけるかというのは一旦置いておくとして、じゃあ民間ベースであるいは市民ベースで何をすれば前進するかという議論はいろいろ行われていると思います。
お三方の活動も、全部それぞれの切り口だと思いますが、東急さんに質問させてください。渋谷で今いい感じじゃないですか。いろんなことがクリエイティブな方向に進みそうであったり、先進的なことができる頭の柔らかい首長もいたり。それは東急さんとしては“正義”だと思います。
そこから今後どう行くのかなと思ったときに、地方は一旦置いておくとして、エリア間競争は、強さやサステイナビリティではない新しい定義がされそうな気がしていて。確かに背が高い人や体重がある人は競争力があるわけじゃない、量じゃないよねみたいな。
でも鉄道会社としては、やっぱりビジネスとしての強さは正義ですよね。実際、僕は本当は鉄道会社って非上場にして住民巻き込んでMBOしてしまうほうがむしろサステイナブルだと思っているタイプなんですけど、渋谷の将来の立ち位置と、都市計画的な個人的な「あるべき論」のコンフリクトはありませんか。言える範囲で。
山口 まさに悩ましいところですね。先ほど小泉先生が話されたことに重ねながらお話しさせていただきますと、ディベロッパーや不動産事業をやっている立場に立っても、都市計画のいわゆる用途や容積は辛くなってきているのが現実としてあります。
渋谷も都市基盤整備を公的なお金だけでやっていくといくらかかるんだという議論があったので、それを民間のお金でやると結果的に容積をもらって高いビルが建つんですね。
それで回るところは、いわゆる容積と竣工後の投資回収の両方を取りにいけます。しかし、渋谷じゃない街で何百%も容積率をもらって回せるかと言われたら、今後本当にそんなにオフィスや商業施設もいるのかという論点で、容積をもらえたからといって街が再生できるとは言えなくなくなるのが一つ。
もう一つが用途なんですが、大きな観点でいえば商業地、オフィス、住宅が分かれてきている。それは都心と郊外では少し散らばり方が違いますが、今渋谷で何が一番やれてていいかというと、かなりミックスユースをしていくことなんです、
用途地域の話でいくと準工業地帯みたいな、渋谷ストリームホール付近を流れる渋谷川あたりがそうですけど、なんでもできるようなところにはおもしろいことができる。ただし、それ以外のところだと、「実はこれつくれません」みたいなことが結構あちこちに出ていて。ダイバーシティアンドインクルージョンで人がいろいろ交われる場所をつくろうと思うと、用途は難しくなります。働く場所がもっと郊外にもあってもいいじゃないかという議論が出てきますが、実際にはつくれなかったり。そういったところが課題になると思います。
容積がいらない時代はそこまで
個人的な悩みのところも含めてですが、そういう中で我々が事業で得た原資を再投資して街の価値を上げていくのがグッドサイクルだと思います。しかし、実際はどう再投資をしていけばいいのかが難しくなってきていると感じています。
そして、それを供給者サイドの話から考えるより、街で生活している人の視点に立ってからやるべきなのではないかというのが今悩んでいるところです。渋谷だったらいろいろな人たちが渋谷の街に関わっているので、いろいろな人たちの意見を活用しながらやっていける。
ただし郊外だと、お住まいの方々が違うので、どういう意見を活用していけばいいのだろうか。さらに実践していくときに制度をいじらなければいけないので自治体や行政に相談するんですが、まとめて声をかけるのがなかなか難しくて。もっと包括的にみんなで一緒に考える輪っかをもっとつくっていきたいと思っています。
次世代郊外まちづくりが少し先行してやっていますが、もっと広げていくためにはどうすべきかという点が今悩んでいることですね。
小泉 容積はもう早晩いらない時代になると思うんですよね。局所的に本当に特殊なところを除いて。
全国的にみたらそうなんですよね。とにかく地方都市は全然だめ。容積タワーがほとんど意味をなさない状況なので、もってもあと20年程度。
東京の中でさえ選別がさらに行われてきて、「本当に容積必要」という場所は限られてくる。そうするとやはり空間の価値を高め、使うということをどうやって引き出していくのかですよね。そういう意味で石田さんにぜひお考えをお聞かせいただきたいです。
「容積に代わる何か新しいおもしろい事業モデルつくれるの?」という視点が問われているわけですよね。