イノベーションは都心では生まれない? 今見直される「スキマ」の価値

#都市経営 7/8

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「これからの都市デザイン&都市経営」と題して行われたセッション(全8回)の7回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 山口 堪太郎 氏:東急急行電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業統括部
  • 小泉 秀樹 氏:渋谷未来デザイン 代表理事, 東京大学 教授
  • 石田 遼 氏:MyCity 代表取締役 CEO
  • 林 厚見 氏:SPEAC 共同代表, 東京R不動産ディレクター /モデレータ

スキマはイノベーションの発信源だ

イノベーティブ○○みたいなおしゃれなスペースに行くと本当に何も考えられなくなる。それはいろいろだと思うんですけど、スキマのような空間をたくさんつくっていくほうが生産性も上がるし楽しいし、そういう都市のつくり方は何だろうということを考えると、ゾーニングは極めて厄介なんですよね。

小泉 日本のゾーニングはさっきのたまプラーザで問題になった一低層(編注:第一種低層住居専用地域。13種類の用途地域の中でもっとも厳しい規制がかけられている)が少しそういうところがあるけれど、商業地域をはじめほとんどのところがなんでも建てられるから、はっきり言ってあんまり問題にならないです。

一低層で離れた郊外住宅地は確かに問題なんだけど、それ以外で日本は本当に、地域の特色に合わせて13種類の用途地域に区切る都市計画がうまくいかなかったので、ほとんどの用途地がmixedなんですよ。だから例えば日本の戸建て住宅地は、団地が大体均質にできるけど、文京区の住宅地はもともとはすごくいい住宅地なんですよ。そこに木賃住宅がポコポコポコポコできたりして、混住してる。商店もできちゃって。

そういうのが供用されているのは、やっぱり日本の都市計画がルーズだったからなんですよね。都市計画がルーズだったからこそ、いろんなおもしろいものやイノベーションが生まれてきている。つまりスキマなんですよね。

渋谷区で見てみると、神宮前周辺のマンション街が70年代、80年代にずっとイノベーションを引き起こしていたんです。服飾産業だったりデザインだったりいろいろな産業を生み出しきたインキュベーションの源になっていたんだけど、あれもある意味ゾーニング違反をしているんですよね。

あれはもともと二低層(編注:第二種低層住居専用地域。13種類の用途地域の中で2番目に厳しい規制がかけられる)で2階以上は基本的に住居系のものしかつくれないんだけど、みんなそれ違反している。でも、それは区も都もそんなに厳しくは取り締まらず、「住みながら商売しているからいいじゃない」と認めてあげてたんですよ。

だからスキマをつくってあげていたところがあって、それがイノベーションの源泉になっている。なので、空間的に見るとそういったスキマとか少し外れるものを許容してあげるところを、どうやってリアルにつくっていくのか気になりますね。

ゾーニングよりも、できるモノがゾーンをつくっちゃってるのがむしろ最近の都市の問題で、分かりやすく言うとGated Communityみたいな、江東区にある高層マンションなんて特定の人しか入れない空間になってるじゃないですか。

だからできあがるものがむしろゾーンをつくっていることのほうが、都市計画のゾーニングよりも問題だと思っています。どうですかね?

僕は渋谷でガンガン頑張るのが正義だと思って、要するに競争はあったほうがいい。だけど競争しようと思うと差別化すべきって話になるじゃないですか。

だから例えば駅から600メートルの場所で個人店オンリーみたいな無理やりなゾーニングを設けたとしたら、それがバリューを上げるかもしれない。そういうようなことをロビーイングして、それでビジネスチャンスをつくって、社会課題を持っておくというトライアルをいろいろしようと思っています。

要するに社会課題を解くようなルール設定によって、プレイヤーはとりあえずフロンティア利益は取ってよしというパターンにして、多様な状況をそれぞれにカスタムルールをつくっていく。全員にとってチャンスに思えるんですけど、昔からあるといえばあるある話なんですよね。

小泉 最近のイノベーションはやっぱりサプライサイド(供給側)の理論のイノベーションを起こそうとしているように見えてしまって。

例えば石田さん、どうやってこのサービスを思いついたのかがポイントだと思うんですよ。

「どうしてそれに気がついたの?」って。こういう人がどうやって育ったんですかというとこがポイントだと思うんですよ。

例えば海外のイノベーティブだと言われているような都市を見てみても、イノベーションが起きてるのは都心じゃないですからね。住宅地の中を勝手に用途転用してそこでガチャガチャやってた人たちが、何かおもしろいことを考えついて事業を始めたら、少し事業展開していて大きなオフィスを持つという話ですから。

あとは、大学の寮でやっていて、最初は全く無報酬の大学にサービスといって無料でやっていたものが「これいいじゃん」となって、事業でスピンアウトして、それでお金儲けする話。だから、イノベーションを整備されたところから起こすのはむしろ難しいと思っていて。

本当のイノベーションはスキマから生まれてくるので、「どうやってスキマ残すの?」のほうが実は渋谷にとって大事だし、これから地方都市を考えるときも、むしろあまりやり過ぎないほうがいいと思ったりするんですけどね。

俺たちのスキマを守れ!

僕もスキマ主義者なので、いつも夜はスキマにどんどん入っていっちゃうタイプなんですけど、経済論理的にいったら横丁はタワーになるわけです。それが単に日本の借家権の強さによって何とかじりじり頑張っていることになるんだけど、このあいだいろいろ勉強したら、やっぱり容積移転という方法があるのかなと。

空中権を売ってタワーを少し建て増してあげればこの横丁の人たちは経済的にはペイして、開発を免れられるみたいな。

その方法で、立石(編注:葛飾区にある京成立石駅周辺。商店街などがある駅前の密集木造地帯を再開発して高層タワーを建てようとする計画。武蔵小山や三軒茶屋なども同様で「再開発=駅前の高層タワー」といった金太郎飴のような手法の是非が問われている。)に相談に行こうと思っていたんです。区や市の戦略からすると、スキマがなくなるのはいろいろな意味でつらいはずだし、駄目人間モードになれる場所がないとかかなりバリューダウン。イノベーションも生まれない。

ということは、「絶対スキマ」みたいな感じで「道路幅4メートルなくていいです」みたいな区域を指定して、それによって経済ロスが生じるんであれば、それを社会システム的に解くぐらいにやっても一歩前進だと思うんですが、そういうのないですか。

小泉 大賛成。大賛成だし、京都市とか、中央区でも月島はゾーンを分けていて、再開発するところと路地を残すところと仕分けてたりするので、やってないわけではないんです。ただ、例えば谷中とか千駄木あたりの路地空間とかも、どんどんなくなっています。

マンションの開発圧力に対して、「スキマをどうやって残すのか」は自治体の戦略として大事だし、さっきおっしゃったような特区も、容積を使えるところで使うんだけれど、何のために容積を取るかといったら、やっぱり文化的な場所や活動を残すことに使う。

「使ってあげるからこれが残るんですよ」という都市スケールの視点の中で本当は使われるべきだと思っていて、そのあたりの新しい都市計画の仕組みが必要になると思います。

今、東京都もそういう方向で考えていますけどね。少し可能性出てきたなと思ってます。

産官学民のチャンスシナリオを描こう

小泉先生とディベロッパーの方、Techの方、あとは行政の方で、要するに「みんなにとってのチャンスシナリオって何?」みたいなことを揉む場がもっとあったほうがいいですよね。公民連携と言っても、今は施設活用における連携のレベルで留まってる感じがある。あまり中長期戦略を一緒につくっていこうぜという感じじゃないから、そこは新しいアプローチがあるなと思っています。

小泉 さっき事前のトークで、ディベロッパーの経営戦略をもう少し考えていいんじゃないって話があったじゃないですか。それはそれでおもしろいけど、もう少し開かれた場で考えて、ディベロッパーも自分の経営戦略を考えつつ、地域のエリア戦略をいろいろな人と議論するともう少し少し広がりがあると思って聞いてました。

渋谷未来デザインは具体的なアクションとしては、まずは作戦会議から始まるんじゃないですか。

小泉 やってます。だからさっきの創造文化都市は、行政もいれば民間の東京電鉄さんのようなディベロッパーさんや、我々もいて、商店街に詳しい先生もいたりして、そういう共創的な場をつくりながら議論します。そういうのが産官学民の連携の新しい戦略、先ほど言ったストラテジックプランニング的アプローチを取ろうということですよね。

あとは福祉のテックはわりと早そうな気がするんだけど、そちらはあまり考えてないの?

石田 見てはいるんですけど、プレイヤーが多いので、直接にはやってないです。見守りや転倒したときの対応、独居老人が孤独死しないとかのレベルの話をやってます。

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