仮想通貨が資本市場に突きつけた課題―若い世代が利用する金融サービスは登場するのか?

# FinTech 5/7

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13個のセッションの中から、『FinTechを活用した新規事業開発』と題して行われたセッション(全7回)の2回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 伊藤 充淳氏:KDDIアセットマネジメント 営業企画部部長
  • 松永 亜弓氏:カブドットコム証券 イノベーション推進部 ビジネス・デベロップメント
  • 木本 雅也氏:じぶん銀行 決済・商品開発ユニット IT戦略部 調査役
  • 吉田 知広氏:アビームコンサルティング 金融・社会インフラ ビジネスユニット シニアマネージャー/モデレーター

FinTechで成し遂げるべきは、勝率を可視化するサービスを作ること

吉田 最初のトークテーマとして、現状のサービスやニーズに対する課題をお伺いしたいと思います。各社のサービスの課題、あるいはそれを取り巻く事業の課題は何かあるのでしょうか。木本さんからお願いします。

木本 銀行は結局、消費か運用か融資かその3つをどうやってブラッシュアップするかという話です。消費に関しては、かなり多様化しました。

キャッシュレスと騒がれて、基本的に多くの選択肢があって、「あとはお選びいただくだけです」という感じになっています。

融資もキャッシュレス化じゃないですが、ネットでキャッシングしてそのまますぐその辺のATMで下ろせるので、ニーズは満たせています。

やはり私が注目しているのは資産運用の部分ですね。

資産運用の部分で、結局それをやることでどうなるかとお約束するサービスはひとつもないじゃないですか。要は「元本割れする可能性があります」というリスクを言っています。これは夢物語かもしれないのですが、私はそこを約束するサービスを出したいのです。「これをやったら絶対にお金が増えます」と言えるサービスを出したいです。

個人的にはそうじゃないと提供価値がないとすら思っているぐらいですね。

なので絶対、αを取っていく資産運用サービス(簡単に言うと収益率が高いということ。β値で表されるリスクを調整した後の個別証券の収益率が、どれだけ市場平均の収益率を上回っているのかを示す数値)というのを今後作っていかないと、銀行は生き残れないのではないかと考えています。

というのも決済は、クレジットカードやQR決済といったFintechプレーヤーが続々と現れているし、融資も今後ソーシャルレンディングが普及し、個人間融資が実現するとユーザがそっちに流れていく可能性が高いと考えています。

そこで「資産運用」をもっとブラッシュアップして、「銀行はお金を安心して預けられるだけでなく、預けたお金を増やしてくれる」という新たな提供価値を生み出せるように頑張りたいと考えています。

吉田 ありがとうございました。最近「Tポイントを活用した資産運用のサービスを開始予定」というような話も出ており、金融機関も若い層に対して積極的に手に打って出ています。まだまだ少額とはいえども木本さんがおっしゃってくれたような、色々な若い層に対する経験をサービスとして展開していくのもあり得るのですかね。

木本 始めやすいというのは大きいですよね。まず始めてみないと投資はどんなものなのかと理解できないですから。

自分の資産の大きさからするとポイントでたまっている分というのはたいていの場合、すごく小さくて、なくなってもいいものと考えやすいと思うので、それで試しに始めるみたいな、投資の入り口になり得るサービスはすごく尊いと思いますね。

仮想通貨で証明された、若者の投資ニーズを喚起する金融サービスを

吉田 ありがとうございます。では続いて松永さんお願いします。

松永 今の木本さんのお話の延長にもなりますが、やはり我々も資産運用の分野で悩みは同じです。

銀行にお金を預けていても増えない、老後の年金も国が用意しているものは期待ができない中で、若者世代にどれだけ資産運用を広げるか。

国もつみたてNISAやiDeCoの制度を作って推進に動いていますが、やはり我々も苦労しているのが本当に入り口の部分です。

証券会社として多様なコンテンツやサービス・ツールを開発したり金融リテラシー教育等で啓蒙を行っていながら、より多くのお客様に資産形成をと苦労している中で、これがいいか悪いかは別の話ですが、昨年は仮想通貨が一気に若年層中心に広まって、これはすごいことだと思っています。

元本保証もなく株式より価格変動の高いリスク商品に対して、若年層を中心とした投資未経験者にあっという間に広がりました。これまで、リスクをとるのが怖いから入口のハードルが高いのではと考えていた私たちの概念は一気に覆され、ユーザーが興味を持つおもしろそうなサービスであればリスクをとった上で一気に普及するということを学びました。資産形成を推進する立場として、宣伝や広告なしに利用いただける良いサービスを提供するということはミッションとして感じています。

吉田 ありがとうございました。

金融サービスの発展と育成のために、金融機関はオープンAPI化に踏み込むことが至上命題

伊藤 まず現在の国内の預貯金額がどうして投資に回っていないのかという課題認識で話すと、やはり既存の金融機関が提供するサービスがこれからの資産形成層のニーズにマッチしていないと考えております。

特にじぶん銀行さんやカブドットコム証券さんだと、すでにスタートアップ向けに簡単に自社のサービスと接続できるAPIを公開しています。

APIの何がいいかというと、銀行や証券会社のインフラがSaaSのように使われることで、既存の金融機関にはないテクノロジーを保有するプレイヤーが、自社のサービスに取り入れて重たい基盤設計をショートカットしてスピーディにサービスが創造できる点です。

そういった形で多様なプレイヤーが多様なUXを提供する、例えば証券会社や銀行だとちょっと開発投資にとまどってしまうサービスも作っていただいて、多様なものが生まれてきて、それが失敗しても証券会社や銀行のAPIには響いてこない点でいくと、昨年、銀行法の改正で各行はAPIの開放を努力義務化されている認識です。

けれど、まだまだ積極的に取り組んでいらっしゃるところも少ないです。

例えばスタートアップで「証券会社を始めたい」「銀行を作りたい」はなかなかないですが、「銀行のサービスをマッチングさせたアプリを作ってみたい」といったときに、いちいち車輪の再発明をさせる必要がなく、スピーディにサービスを作れる環境を、既存の銀行や証券に限らず金融機関が用意することが大事だと考えております。

先ほど松永さんが言った仮想通貨の広がりは、私もすごく注目しております。

仮想通貨自体、ビットコインの相場がどうなるかなどははっきり言ってわからないのですが、仮想通貨が資本市場に突き付けた課題というか、資金調達のあり方やあるいはトークンにのせることができるさまざまな付加価値が、例えば株式に例えるとICOでいうようなユーティリティトークンやセキュリティトークンは株式市場における配当と株主優待のような形でデジタルに再定義するような議論もできると思います。

仮想通貨が提示した課題が、今の株式市場や銀行のあり方にどう変わっていくべきかという点を、すごく解像度を高めてくれていた。この10年ぐらいはそういったところにより緻密に取り組んでいくフェーズだと考えております。

吉田 ありがとうございました。

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