FinTech新規事業は総合格闘技―技術も法律も資金調達もできるスーパーマンはいるのか?

# FinTech 6/7

--

2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13個のセッションの中から、『FinTechを活用した新規事業開発』と題して行われたセッション(全7回)の2回目をお届けします。

第1回から読む

登壇者情報

  • 伊藤 充淳氏:KDDIアセットマネジメント 営業企画部部長
  • 松永 亜弓氏:カブドットコム証券 イノベーション推進部 ビジネス・デベロップメント
  • 木本 雅也氏:じぶん銀行 決済・商品開発ユニット IT戦略部 調査役
  • 吉田 知広氏:アビームコンサルティング 金融・社会インフラ ビジネスユニット シニアマネージャー/モデレーター

孤独との戦いなくして、法規制の強い金融サービスでイノベーションは起こせない

吉田 次のテーマに移ります。スタートアップ企業と色々な新しい協業や実証実験を行い、チャレンジしていくことが重要になっています。

一方で、事業会社の方がよく言われるのが、①そういう新しい技術やアイディアを持つ方々と出会う機会がない、②スタートアップ企業が本当に優れているのか否かが判断できない、というご意見をいただくことが多いです。さらには、PoC実施にあたり、①何に注意するのか、②サービス化に向けた課題が何か、というご質問も相当数いただきます。

パネラーの皆さんは、いつもどういったお考えの中で、PoCを実施したり、スタートアップ企業と接点を持っているのかについて教えてください。

木本さんからお願いします。

木本 新規事業を立ち上げる部分でまず一番難しいのが何かですかね。

お伝えしやすいように言葉を選ばずにいきますが、まず企画担当者はめちゃくちゃ孤独なのです。

新しいことをやるというのは前例がないため、ビジネスとして成り立つのか、法的に問題ないのか、セキュリティリスクは大丈夫なのかなど、様々な懸念があります。それを「一人で説得する」ぐらいの心構えでないと、周りを巻き込んでいけないからです。そのため、金融関連の法令を読み込んだり、セキュリティリスクがどの程度あるのか定量的に整理したりなど、自分の専門外の知識を身につけることが必要になる場面が多々あります。

孤独なスーパーマンにならないと、まず新しいサービスは作れませんというのがひとつありますかね。あとは技術やアイディアを考え評価する目利きがないというのは、これも日々、自分が勉強するしかないですね。

新しい技術を使って本当に提供価値があるものを生むためには、たくさん勉強して、多くのサービス・ビジネスを知り、自分の引き出しを増やすことがすごく重要だと考えています。

吉田 ありがとうございます。以前、私も銀行の企画担当だったので、非常に共感できます。スーパーマンとまでは言いませんが、そういう企画担当の方を育てていかないといけませんね。

金融以外の事業会社でも、イノベーションチームを組成しているケースがありますが、自分たちが何ができるかよくわからないとご質問されることがあります。私は「みなさんがチームを組成する前(=異動する前)にご担当した領域や分野で自分がやりたいことが何かなかったのですか?」と問いかけます。まずは身近な成功体験を得ることが大事だと思います。

スタートアップとの協業は、価値提供を測るKPIの設定までを求めるのか

じゃあ続いて松永さん、お願いします。

松永 企画担当という立場では、当社の場合、社長の齋藤がもともとシステム出身のエンジニアということもあって新しい技術には非常に明るく、社内もいろいろと挑戦してみてほしいという感じで、結構ベンチャー精神が残っていてスタートアップ企業との協業も非常にやりやすい雰囲気です。

私が所属している部署もイノベーション推進部ということで、新しい試みをどんどんやっていけと会社が推奨しているので、動きやすくはあります。

一方で独特な悩みかもしれないのですが、課題を解決するためにこういうサービスを提供するということももちろんやってはいるのですが、スタートアップ企業等の技術の進展が早く、〇〇という技術を使ってなにか先進的なサービスを開発できないか考えてみてほしいという案件もあるので、技術ベースで考えて、それをどうお客様の課題を解決することに役立てるかを考えるのが難しいところです。

そういったところをスタートアップで若くて優秀な方からのアイディアをいただきながらサービス化を進めている状況です。

ただ、サービス化する上でKPIを設定して最終的にはROIという話になってくるので、PoCの段階でROIを求められると、どれだけ先進的な技術を使った良いサービスでも実サービス化には至らず終わってしまうことが残念だなと感じています。

実際どれほどのお客様の役に立って、それが最終的にはどれだけ会社の収益につながったかが成果としてすぐに現れないことが今の課題にもなっています。

1勝100敗のFinTechで新規事業を成功させるには、明確なROIと道筋を描き切るべし

吉田 ありがとうございました。伊藤さん、お願いします。

伊藤 木本さんがおっしゃったような企画担当者のしんどさでいくと、スタートアップに限らずFinTechの新規事業開発は総合格闘技みたいです。

法律面も詳しくなければいけないですし、最新のテクノロジー動向にも詳しくなければいけないですし、何よりもビジネスとしてロジックが立つのかという点で、企画担当者のスキルは結構フルスタックで求められます。

特に金融系の法律で行くと、例えば何かの法律を守っていくと何かの法律と矛盾してしまうような、業務範囲規制に横串しが通りつつあるような機運があります。例えば銀行と電子決済代行会社が融合するような法整備が整いつつあります。

しかし、まだまだ追いついておらず、そういったところを整理できる人間が必要です。

テクノロジーについても既存の自社のシステム部門と対等に、あるいはそれ以上に話して、例えば「クラウドを使ったほうがいい」「SaaSを使ったほうがいい」といった柔軟な発想ができる人間が担当する必要があります。

あとは新規事業なので特にFinTech系だと1勝10敗・1勝100敗という世界観です。

そういったところでいくと、例えばタイムスパンは5年でも10年でもいいのですが、ROIを説明できて会社からお金を投資してもらえる存在が必要になってきます。

--

--