日本のPOST2020は、カルチャー・観光・都市力の勝負だ―NEXTOKYOが描く都市のグランドデザインを紐解く

#POST2020 3/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「POST2020―2020年以降の社会問題とどう向き合うか」と題して行われたセッション(全6回)の1回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 松本 勝氏:VISITS Technologies CEO/Founder
  • Lin Li:DiDiモビリティジャパン 取締役副社長, Didi Chuxing 北アジア担当ジェネラルマネージャー
  • 梅澤 高明氏:A.T.カーニー 日本法人会長
  • 坂根 工博氏:国土交通省 大臣官房審議官(総合政策局担当)/モデレータ

A.T.カーニー日本法人会長が掲げる、これからの日本が賭けるべき3つのポイント

坂根 梅澤さん、お待たせしました。梅澤さんからは、この言葉を出していただいています。

「文化産業立国、観光立国、都市の魅力度向上」。いかがでしょうか?

梅澤高明氏(以下、梅澤) お二人は間違いなくテックの話をされるだろうと思ったので、僕は違う視点を投げたいと思ってこの3つを持ってきました。

梅澤 高明:A.T.カーニー 日本法人会長。東京大学法学部卒、MIT経営学修士。日米で20年にわたり、戦略・イノベーション・マーケティング関連のテーマで企業を支援。テレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。クールジャパン、デザイン、スタートアップ、インバウンド観光・ナイトタイムエコノミー、税制などのテーマで政府 委員会の委員を務める。クールジャパン機構社外取締役。建築、デザイン、アート、スポーツ、サービスなど各分野のイノベーターチーム「NEXTOKYO Project」を主宰。 東京の将来ビジョン・特区構想を産業界・政府に提言し、様々な街づくりプロジェクトを支援。著書に「NEXTOKYO」(楠本修二郎と共著、日経BP社)、「最強のシナリオプランニング」(東洋経済新報社)など。

テック産業ももちろん勝ち残りたいんですけれど、米中の激しい市場争奪戦になっていて、中心的な産業分野は中国あるいはアメリカがリーダーになるのはほぼ確定かなと思っています。

一方で日本は、規模的には中規模で、非常に成熟した国で、昔から豊かな文化がある国なので、米中とは違う日本ならではのポジショニングを作っていこうと。文化を軸にした国を作っていくというのが、いよいよ大事なテーマになってきていると思います。

もちろん、漫画やアニメが世界中に広がっているのは、皆さんご存知の通りですが、「クールジャパン戦略」で一番の稼ぎどころとして押しているのが、実は「食」と「インバウンド観光」です。

ミシュランのレストランガイドでは、三ツ星レストランの数が世界で一番多い都市は東京、二番が京都・大阪です。ミシュランを出しているフランスのパリは、3位なんですね。

自国の文化に対して極めて高いプライドを持っているフランスが出すガイドブックが、世界の食の首都は関東と関西だと言ってくれているくらい、日本の食は高いポテンシャルを持っています。

あるいは現代アートの直島と瀬戸内国際芸術祭。世界の富裕層の間で、大変高い評価です。まだ訪れていない人も結構いるんですけど、一度来た人は、友達の富裕層にどんどん口コミで広めてくれているのが、過去数年に起こっている状態です。

観光立国。ご存知の通り、過去5年で訪日客が約3.4倍に増えました。2012年に812万人だったのが、昨年2,870万人。中国を含め、アジアに対してビザ緩和をして、官邸が旗を振ったら、あっという間に3.4倍になったと。

こんな産業、他に日本には無いわけです。なぜかと考えると、これは『新・観光立国論』で有名なデービッド・アトキンソンさんがいつも言っていることですけど、「観光立国として成功する要件は4つある。気候と、自然と、文化と、食事。この4つが高いレベルで揃っていれば、観光立国として成功しやすい」と。日本には揃っています。

世界の他の国でどこが揃っているかと考えると、せいぜいフランスとアメリカぐらい。アメリカは、「そもそも食事が美味しいか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。ニューヨークやサンフランシスコに行けばいろんな世界の食が揃っているので○だとすれば、アメリカとフランスがこの4つの要件を満たしていて、かつ観光立国としてすでに成功を収めています。

日本は、それを追っかけるポテンシャルが十分ある国です。だから、国をちょっと開いて、本格的な観光立国を目指そうとしたら、あっという間にこれだけの成果につながったということです。

3つ目の都市の魅力度。観光立国の4つの成功要件のうち、特に文化とか食という意味においては、都市の集積力はとても大事です。「都市間競争」という言葉がありますが、例えば森記念財団が毎年出している「世界の都市総合力ランキング」だと、東京はロンドン、ニューヨークについて3位。

もう一つ面白いランキングがあります。「モノクル(MONOCLE)」というイギリスのライフスタイル雑誌で、特に文化人がとても信頼している雑誌です。モノクルが毎年出している、「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)調査」というランキングがあるんですけど、東京は今年2位。昨年までの3年間は、実は連続1位でした。イギリスを代表する文化雑誌が、東京は世界で最も住みやすく魅力的な都市だと評価している訳です。

そのくらい東京が持っている文化力は評価されているので、この都市の文化力を磨き上げて行くのと同時に、観光立国を推し進め、結果的には文化産業立国になると。こういう連関かなと考えています。

東京の都市力を磨き上げるための具体策

現在の私の活動の内から、「NEXTOKYO」という活動を簡単にご紹介させていただきます。これはTOKYOというキーワードがある通り、東京の未来の姿を考えていこうという民間プロジェクトです。将来都市ビジョンを構想し、政府・自治体、不動産デベロッパー、都市のコンテンツを提供する企業など、いろんな方々に提案をして回っている11人のチームです。

構成を見れば、私以外は建築、デザイン、アート、スポーツ、あるいはメディアや弁護士など、いわゆるマルチファンクショナルな、30代、40代を中心とするイノベーターチームです。

このチームが持っている問題意識。先ほど申し上げたように、東京の都市力をさらに高めていきたいということなんですけれど、オリパラの招致が決まって以降、様々な大規模再開発プロジェクトが立ち上がっています。

3つの問題意識を持っています。

1つ目、東京といえども、労働人口のピークアウトを迎えようとしています。新しいキラキラした高層のオフィスや住宅が、これからそんなにたくさんいるのでしょうか?

2つ目、それぞれの再開発のプロジェクト、中身を聞けば聞くほど似通っていないか?

それから3つ目、そもそも箱を作れば何とかなる時代ではなくて、中身がないとしょうがないよねと。だから、中身を先に作りつつ、それに合わせて必要な箱を作る方法で、これからの都市開発は進めていくべきではないかと。

裏返して言うと、文化都市としての東京が何に支えられているかって、東京のそれぞれの街が持っているユニークなキャラクターであり、ストリートから湧き起こってくる文化力なんです。ストリートを完全に壊して、ゼロベースで巨大なビルを東京中に建てまくるって、それは違うよね、という問題意識があります。ストリート、ボトムアップ、文化力、この辺を特に強調した提案をするのが、我々の活動です。

東京全体のビジョンということで、3つを打ち出しました。

都内の、渋谷を含むいくつかの再開発プロジェクトにディベロッパーさんと一緒に取り組んで、コンセプト作りのお手伝いをしています。なので、東京全体をこの3つのキーワードで同じ様に染め上げるつもりではありません。東京全体として見たときに、どういう都市として伸びて行く必要があるかという意味です。

1つ目が、文化産業が集積しているクリエイティブ・シティ。

2つ目が、先端技術産業が集積し、街にいろんな先端技術のソリューションが実装されているテック・シティ。

そして3つ目が、高齢化時代も踏まえてより健康なライフスタイルを享受できるフィットネス・シティ。

実際、例えば渋谷だったらどのエッジを立てていこうかと、秋葉原だったらどうなんだろう? と、「街ごとになるべくユニークなエッジを立てていってください」というのが、我々のキーメッセージです。

個別の街作りに関しては、今日は時間がないので申し上げません。

風営法改正でダンス規制を撤廃ーNEXTOKYOの成果

いくつか横串のテーマでやってきたこともあります。一つは規制改革です。我々のチームが、まあ勝手な民間チームなんですが、規制改革推進室や国家戦略特区のワーキンググループに、いろんな提案をしてきました。その結果として2つ、我々の戦果として得た物があります。

1つ目は、クリエイティブ産業の就労ビザ緩和。これは国家戦略特区法の改正ということで、昨年実現しました。

それからもう一つは、夜間経済の創造。俗称「風営法」という法律があって、実はダンスクラブの深夜営業が最近まで禁止されていたのです。12時以降にお客さんが踊っていたクラブに警察の手入れがあって、クラブのオーナーが逮捕され、営業停止になるということが続いていました。

とても時代遅れでとんでもない法律なんですけど、これを法改正するということに、やっと一昨年こぎつけました。深夜のナイトクラブなどの営業がやっと合法になったので、夜間も当たり前に楽しめる街作りをしようという動きに繋がっています。

それからあと2つ。

一つ目はすでに実現している取り組みです。日本の文化立国を進める上で、デザインを大事なドライバーとして活用していきたいと思っています。そのための国際的なデザイン拠点を作りたいという議論を3年前からしていました。

イギリスにロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)という世界ナンバーワンのデザイン大学院があります。RCAと東京大学生産技術研究所が共同で、RCA-IIS Tokyo Design Labを東大駒場キャンパスの中にスタートしました。これが約1年前の仕事。

二つ目は、現在進行形で2020年に実現する話です。東京都心部に、日本最大級のスタートアップキャンパスを作ろうということで動いています。ケンブリッジ・イノベーション・センター、略称CICという会社があります。スタートアップの集積拠点として米国最大規模のオペレーターです。この会社を東京に誘致して、都内に大規模拠点を設立することになります。

その前哨戦として今取り組んでいるのが、Venture Café Tokyo(ベンチャーカフェ)というNPO活動です。虎ノ門ヒルズの2階にある虎ノ門ヒルズカフェで、毎週木曜日の夕方に必ずイベントをやっています。それを仕掛けているのがこのベンチャーカフェ。平たく言うと、東京により濃いイノベーションコミュニティーを作ろうという活動です。

このベンチャーカフェの活動を通じて出来たコミュニティーが、ケンブリッジ・イノベーション・センターの大規模拠点をオープンする時のベースになるという考え方で取り組んでいます。

坂根 梅澤さん、ありがとうございます。

非常に夢のある話でありながら、着実な取り組みを紹介してくださいまして、本当にありがとうございます。

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