POST2020の日本が、豊かな社会を築いていくために何が必要か?

#POST2020 4/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「POST2020―2020年以降の社会問題とどう向き合うか」と題して行われたセッション(全6回)の4回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 松本 勝氏:VISITS Technologies CEO/Founder
  • Lin Li:DiDiモビリティジャパン 取締役副社長, Didi Chuxing 北アジア担当ジェネラルマネージャー
  • 梅澤 高明氏:A.T.カーニー 日本法人会長
  • 坂根 工博氏:国土交通省 大臣官房審議官(総合政策局担当)/モデレータ

日本が豊かな社会を築いていくために必要なものは?

坂根 今、松本さん、Linさんからは、テクノロジーが人の行動や考え方を変えるのではないか。あるいは逆に、変わっていく考え方や行動を支える物として、これからテクノロジーの発達に非常に大きな期待ができるのではないかというお話をいただきました。

また、梅澤さんからは、少し違った切り口で、都市や地域の魅力作りには何が必要かということ。街のコンセプトを明確にして、それぞれの街ごとにユニークなエッジを立てることが大事だと。要は街ごとのストーリーを大事にしないといけないんだというように感じました。

また、かなり時代を遡りますが、かつてアメリカのジェイン・ジェイコブス(編注:『 アメリカ大都市の死と生 』が有名で、都市の地区や街路に多様性を生み出す条件などを指摘している)が言っていたことも敷衍(ふえん)しながらのお話だったというようにも感じました。

いずれにしても、これからの日本や街にとって人が最大のコンテンツであることはお三人の話に共通していたと考えています。こういった中で、今から2つ目、3つ目の話題に転じていきたいと思っています。

「日本が豊かな社会を築いていくために必要な物は何か?」、これもお三方からキーワードを出していただきました。ここでは、3人のキーワードを並べてしまっています。

梅澤さんは先ほどと同じキーワード、松本さんは「イノベーション」、そしてLinさんは「海外テックカンパニーの融合」ということなんですけども。

ここからはそれぞれ自由にお願いできればと思うんですけど、いかがですか? ……松本さん、目があったので。

日本企業とGAFA、BATH、時価総額格差の背景にあるもの

松本 じゃあ。私は「イノベーション」。先ほど梅澤さんがおっしゃっていました。

私は観光では全然触れていなかったんですけど、そこのところではちょっと重なっているな、とか。デービッド・アトキンソンは元同僚で一緒に働いていたな、とか。ベンチャーカフェは、Jスタートアップで僕もよく行くな、とか。近場を結構うろうろしているんだと思ったりしています。

「イノベーション」でちょっとお話しさせていただくと、私たちにイノベーションが必要だというところ。ちょうど先日、東京大学の総長とイノベーションについて議論することがありました。

お伺いした時に、ご丁寧にも結構資料を用意していただいていて。ビックリしたのは、東京大学がフォーカスしていく領域に、まさにイノベーションが明確に入っていた点です。

実は私たち、先ほどのコワーキングスペースみたいなイノベーションハブみたい物を、全国15ヶ所ぐらい持っています。ほとんどの主要な国立大学の周りに持っていて、産学連携を推し進める。大学の中にある知見を、いかに産業に結びつけていくかにおいて、さまざまな取り組みをやっています。

先日総長がおっしゃっていて、またデータを見せていただいて面白いなと思ったことがあります。

日本の会社とシリコンバレーの会社と中国の会社と3つを比べた、時価総額と売上高の比較を見ると、日本のトヨタさん、日立さん、パナソニックさんって、売上が時価総額の約2倍あるんですね。これがFacebookさんとかGoogleさんとかになると、時価総額が売上の約10倍あるんです。で、中国はもっとすごくて、アリババさんとかテンセントさんは売上の約20倍あると。

この比率はどういうことかというと、今売上があります、と。売上というのはdelay、いわゆる遅行指標なんですね。どちらかというと、市場というのはもっと先行指標で、その将来性に対して値付けをしているというところです。日本だと非常に良くないことで、「今は大丈夫だけど、君たち将来性が無いよ」というメッセージを市場に送られているということだと思います。

それを指をくわえて待ちますか? と。問題となっているのはイノベーション。どんどん新しい物を作っていく取り組みが必要。そんな中で先ほどの(ベンチャー)カフェとか、いろんなことが手がけられているわけです。

そういった意味ではまず、大学、最高学府の中にある知見を、産業界が全然活用しきれていないという問題があります。なぜ活用できていないのかというと、そもそも、どの技術にどのくらいの価値があるかを目利きできないというテクノロジーに対するリテラシーの低さがあります。

目利きできない物には投資できない。投資しないと市場がぜんぜん評価しない。そしてどんどん弱くなっていく。負のサイクルが始まってしまうのが、私的には結構微妙だと思っています。

これはイノベーションだけではなくて、例えばいま金余りがあって、銀行が例えばベンチャーとか技術を持っている中小企業にお金を貸そうと思っても、目に見える担保にしかお金を貸さないんですね。(今までの)普通であれば、工場に行ったら機械があって、社員が楽しそうにやっているから、「これはいいに違いない。お金を貸そう!」とできたんです。

ですが、今銀行の融資の人は、テックカンパニーに行ってみたら、数人でパソコンだけタタタっとやっている。「すごい技術なんです」と言われても、全く見えない。テクノロジーであったり知見であったり、そう言った物に対するインプットのリテラシーが低くて、判断ができない。

だからまた、市場にお金ができない。ベンチャーも資金調達ができない。銀行もお金が余っているのに貸すところがない。このサイクルを断ち切っていきたいなと。

梅澤 まあ、お二人みたいに金融からテックに身を投じる方がどんどん増えれば、その問題は解決するということでしょう。

松本 そうですね。ただ数があまりにも……。

日本のテックスタートアップには金融業界出身者が足りない?

松本 私が危機感を感じているのは、ゴールドマン(サックス)の時に、チームに5、6人しかトレーダーがいないわけですよ。向かい側に座っていたのが、 bitFlyer の加納くん(編注:現在はビットフライヤーホールディングス)という僕の同期なんですね。後輩が、 FOLIO (代表取締役CEO)の甲斐くん。

梅澤 みんな出ちゃったっていう話ですよね。

松本 そうなんです。逆に言うと、私が心配なのは、出て行った人より、世の中で知られているスタートアップが本当に身近な人だけで出来上がっているということ。「どれだけマーケットが小さいんだ!」「いいプレイヤーがいないんだ!」という危機感です。

梅澤 だから、CFOに金融業界とちゃんとコミュニケーションを取れる人材が必要。そういう意味においては、投資銀行の一流の人材がドンピシャリでした。だからみんなババっとそういうロールで出て行ったというのが見えています。結果的にそれでお金が集まって、スタートアップが非連続に成長することができるのなら、OKじゃないですか?

松本 OKなんですけど。私が言いたいのは、供給人口が少なすぎるということです。本当に、確かにGS(=ゴールドマン・サックス)に入っている人間とかは、優秀だとは思います。普通の世の中では。

でもビジネスで言うと、初めは素人のはずなんですね。画面の中でしか取引をしたことのない人が、ユーザーを集めて資金調達をして、ビジネスのネゴシエーションをして。素人の人が例えば起業して数年で名だたるベンチャーに知名度が上がるということといい、この日本には大企業のエリートで頭のいい人がたくさんいるはずなんです。その人たちが、そもそもリングの上に上がっていないという。リングの上に上がらないとイノベーションは起こらないですし、エコシステムができないので。

梅澤 それは、松本さんのように先に気がついて飛び込んで、うまく行って大きく稼いだ人たちが成果を見せることで、大企業の若者たちも「あんなに素敵な世界があるんだったら、僕もやりたい」と思うようになるので、背中を見せていただくしかないですよ。

松本 まあ、そうかもしれないですね。がんばりましょう、証券会社出身者で。そういったイノベーションの大切さ。大企業の人たちにもっとチャレンジして欲しいです。

そもそもイノベーションは数を打たなければいけないので、PDCAのサイクルとか、パンチを打つスピードを速くしなければいけないのに、承認フローみたいな昔のゆっくり動くところは組織が適応していなくて、「ゆでガエル」状態になってしまっている。

あとは、引き算の減点法だと、(イノベーションでは)チャレンジして失敗することのほうが圧倒的に多いので、引き算をしないようにするとか、そういったところから始めなければいけないかなと思っています。

打開策は、「異業種間コラボ」と「海外技術の輸入」にある

坂根 Linさん、今のお二人の話を聞いていてどうですか?

Lin 非常に興味深い話です。偶然にも、私のトピックはこれらのキーワードの両方と関係があると思います。

私が言いたいのは、異業種間での協業や協力が人々に最高の体験を生み出すためのベストな手段であることを強く信じているということです。それが何を意味するのか。

例えば、1つ目はイノベーションに関連しています。松本さんがすでに指摘していますが、日本は多くの分野で非常に強いです。しかし、ここ数年でアメリカや中国などの国はおそらく特定の分野、特にAI関連技術で日本よりも少し進んでいます。ですから、海外から最先端の技術を持ってきて日本にローカライズすることによって、日本市場で大きな価値を生み出せると信じています。

それはSoftbankとDiDIの間の共通のビジョンであり、これが私たちが日本でj事業展開している理由です。特に今日の交通業界に限ると、日本以外の他の多くの国では、基本的にアプリをタップするだけで乗車依頼ができ、料金支払がアプリ上でできるため、財布を持たずにタクシーに乗ることができます。このような非常に快適なユーザー体験ができるのは、イノベーションのおかげです。

この体験は、多くの国・地域で当たり前のように起きていますが、日本ではまだ一般的ではありません。(一般的にするために)他の国からの成功こと例やプロダクトを持ち込んで、日本にローカライズする必要があると考えています。それが一つ目の観点です。

別の観点で話します。かつては世界時価総額ランキングTOP50に日本の企業が32社入っていた時代がありました。しかし2018年ではTOP50に入る日本企業は1社のみで、日本企業よりも先端を走っている企業が他の国・地域に多くあるようです。だからこそ、その変化を受け入れて、日本に最高のテクノロジーを持ってくることが重要だと思います。

しかし、その一方で、日本には非常にユニークなものがあります。たとえば、非常に優れたインフラがあります。将来のAI革新のための非常に良い基盤を持っています。梅沢さんが指摘した通り、日本には文化的にハイレベルなサービスがたくさんあります。これらは他の国・地域で一般的に見かけるものではありません。

私たちが日本のタクシー業界でやろうとしていることは、最高のサービス品質・基準であることを自負しています。また、AI製品を通じて最高のユーザーエクスペリエンスを提供します。質の高いサービスに簡単にアクセスできます。

たとえば(9月から実施している)大阪での実証実験で得たデータから分析をいくつか行いました。私たちがローミングユーザーと呼ぶユーザー(編注:今回は、「日本国外からくる観光客」が相応しい)から多くの肯定的なフィードバックを受けました。他の国・地域から来た人々は日本のタクシー運転手とコミュニケーションをとる方法を知りません。タクシーをどうやって利用するのか、どこで乗るのか、“乗り場”はどこか、“無線”システムをどう使うのか、など彼らは知りません。でも大丈夫です。なぜなら(そんな彼らでも)アプリからタクシーの乗車依頼ができるからです。

さらに、私たちは自動翻訳機能を実装し、タクシー運転手には自動配車システムを提供します。そうやって、サービス体験をずっと良くします。彼らはコミュニケーションさえする必要はなく、マッチングすることができます。その後、自動支払いはオンラインで自動的に行われます。これは日本を訪れる外国人や観光客とタクシー業界がスムーズにいく一例です。この事例は、2020年の東京オリンピック時にはますます重要になるでしょう。

そして交通分野は私達が専門としている分野ですが、テクノロジーの活用によってより良い繋がりが必要とする分野が他にもたくさんあります。他の国・地域で伸びている需要に対して、この国が最も適したものを提供することによってより良い繋がりが作れるでしょう。

もちろん、その地域のコミュニティのためにもこのマッチングと接続性がよくなるための手段のすべてを行うべきであることも知っています。だから、何度も言いますが、私はコラボレーションを信じています。他の国・地域から最高のテクノロジーとノウハウを日本にもたらすことを信じています。私たちはそれをうまくローカライズし、それをこの国の大きな可能性と結びつける必要があります。

梅澤 今のポイント、私もまさに同感です。

日本はプレイヤーが少なすぎるとさっき松本さんに話してもらって、それを打破する一つの道は、“海外で起業したんだけれども、やっぱり市場あるいは日本の技術があるので、日本でオペレーションを拡大したい人たち”にどんどん来てもらうことだと思っています。

さっきご紹介したケンブリッジ・イノベーション・センターはアメリカの会社だし、世界6都市に拠点があります。ロッテルダムにも展開しているので、米・欧・日を繋ぐネットワークになります。

なので、海外のスタートアップで東京に拠点を持ちたい人にも来て欲しいし、それから日本発で海外に出て行きたいと思っている、成長意欲の強い日本のスタートアップにも、支援のネットワークの中に入ってもらえれば、すぐにアメリカやヨーロッパへ行くパスができる。こんな形で繋げようと思っています。

それから、文化産業や観光産業に関しても全く同様で、例えば「クールジャパン」で言えば、日本人がいいと思って投資をして世界に持っていったものには、結構空振りしているものが多いんです。

一方で、外国人にひょんなことから発見してもらって、「それ、一体どこがいいの?」みたいなものが、結構ジワジワ広がっていくケースが、特に文化の領域ではたくさんあります。

そういう成功例をたくさん作ろうと思ったら、やっぱりたくさんの「よそ者」の目に、日本に入ってもらうしかないと思っています。文化のキュレーションをする人、観光体験の設計をする人、日本に興味のある海外の多くの人に、日本に入ってもらう。それでいろんなイノベーションを起こしていきたいなというのが、さっきお話をした国家戦略特区での、ビザ緩和の話です。

坂根 海外の都市なんか見ていますと、例えばアメリカのニューヨークでもシリコンバレーでもボストンでもいいですし、イギリスのロンドンとかケンブリッジとかオックスフォードとかでもそうかもしれませんが、都市の魅力というのは、これからの日本を考えるに当たっての大きな要素になるかもしれませんね。

これは私の独断ですけれども、解放的で寛容性の高い都市、いろんな人を受け入れて多様性を尊重する都市、あるいはさまざまなチャレンジをする都市というのが、これから伸びていくのかなと思います。

そういう意味で、海外の多くの人の目で日本を見てもらうという梅澤さんの話と、国際的な視野でイノベーションにチャレンジするという松本さん、Linさんの話は、相当親和性を持つのではないかと思って聞いていました。

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