POST2020の新しい社会を支える、テクノロジー・社会システムとは?
#POST2020 5/6
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「POST2020―2020年以降の社会問題とどう向き合うか」と題して行われたセッション(全6回)の5回目をお届けします。
登壇者情報
- 松本 勝氏:VISITS Technologies CEO/Founder
- Lin Li:DiDiモビリティジャパン 取締役副社長, Didi Chuxing 北アジア担当ジェネラルマネージャー
- 梅澤 高明氏:A.T.カーニー 日本法人会長
- 坂根 工博氏:国土交通省 大臣官房審議官(総合政策局担当)/モデレータ
中国ですでに始まっている、21世紀の交通革命
坂根 時間の関係で3つ目の話題にいきたいと思います。
今、2つのテーマについてお話しを進めてきましたけれども、最後にこれを統合する話題として、新しい社会、これからの日本の社会、あるいは世界を考えてもいいかもしれませんけれど、これを支えるテクノロジーとか社会システムは何かについて、話を進めていきたいと思います。
また、これも3つ出していただきました。「テクノロジーによる融合」「エコシステム」そして「訪日対応のソリューション、健康なライフスタイルを実現するソリューション」という形でいただいています。
Linさんいかがですか? 他の方の言葉に対する感想でもいいですし、自分の言葉についてなぜこれを出したかということでもいいですが。
Lin もちろん。話をしたいことがもう1つあります。生産性の観点からタクシー業界で何をしているのかと、利便性の観点から消費者の権利を活用して何をしているのかについて少し話します。
実は、DiDiが中国で今まで構築してきているものより大きな狙いがあります。私たちが“スマートシティー”と呼ぶものが世界中に広がることを目指しているのです。
なので、梅沢さんが主導しているNEXTOKYOのプロジェクトには本当に感動しました。この活動は未来のための非常に素晴らしいコミュニティコンセプトだと思います。そこには文化的要素や、テクノロジー要素があります。さらに、生活、交通、スポーツなど色々なことに影響が生じるでしょう。
DiDiは「交通×テクノロジー」領域に適していると思います。それが何を意味するのか。例を挙げましょう。
中国では、様々なステークホルダーや政府と協力して、スマートシティーの推進に取り組んでいます。基本的には、AIシステムとビッグデータ機能を様々な関係者に提供し、彼らが交通システムをより適切に管理できるようにしました。
もっと具体的な例を挙げましょう。いくつかの都市では、“Smart Traffic Light”と呼ばれるプロジェクトを実施しています。
実際、この会場に来るときに良くない移動体験をしました。というのも、六本木ヒルズ周辺で大きな交通渋滞があり、事前集合時間に間に合わなかったのです。
では、どのようにしてその混雑を減らすのでしょうか。私はこの問題提議は、民間企業だけではく政府にとっても、そして全ての人たちにとっても、非常に重要な質問だと思います。
我々は中国のいくつかの都市で、ユーザーの行動や行動習慣についてのリアルタイムデータをたくさん持っているので、需要予測ができます。つまり、我々は信号機の設定を最適化することができます。
なので、道路が混んでいる時は青信号の時間を増やして、空いている時は逆にします。信号色の切替を需要に合わせて動的に変更するのです。通常の信号機の色は需要に関係なく静的に変更しているため、あまり効率的ではありません。信号色の切替を需要に合わせて動的に変更することで、中国のいくつかの都市で混雑を10–15%減らすことができ、今でも改善し続けています。これらは全て、データを収集し、そのデータを非常に効率的に利用する能力にかかっています。
もう1つの例は、中国の混雑した都市の多くで提供しているカープールサービスです。基本的に同じ方向に行く人たちであれば、同じ車やタクシーをシェアすることができます。そうすることで、我々は道路からたくさんの車を効率的に取り除いています。そして、土地を人々に返しています。駐車場に駐車されるだけで使用されていない車が多すぎませんか?(編注:東京における自動車の稼働率は3%という試算がBCGから出ている。つまり、90%以上は使われていない。出典: https://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20141201/274521/ )これは無駄です。車をシェアすることで、車の総量をへらしながら今ある車の稼働率を効率的に上げることができます。そして、最終的には空間と時間を人々に還元します。それらが人々の幸福度を高めますし、梅沢さんが指摘したように、より良い社会と都市を創り出すでしょう。
新しい価値の組み合わせこそが、イノベーションの本質
松本 私は「エコシステム」と書きました。
2番と3番のことを繋げて、単なる「イノベーションのエコシステム」ということです。短期的、中期的なところで言いますと、「イノベーション」は結構ふんわりした言葉で、「じゃあ具体的に何なんですか?」ということです。日本語に訳す時に「技術革新」と訳してしまったのが、致命的なのではないかと、実は私は思っています。
イノベーションでは、シュンペイターさんという経済学者が有名でして、「新結合」というのが「イノベーション」の本当の訳なんです。新結合とは、今まで組み合わせなかった物を引きつけることによって、新しい価値を組み合わせるというのが、本当のイノベーションの目線であると。
イノベーションを起こすためには、実は「クリエイティビティ」は当然必要です。では「クリエイティビティ」とは何なの?というと、もしかしたら「デザイン思考」とかみんな聞いたことがあるかもしれません。これが万能とは思わないけど、一つのメッセージ性があると思っています。
まず、「目的を作る」ところが重要ですね。先ほど、日本の教育が「答えがあるこの問題を解きなさい」という目的が与えられている中のソリューションの練習しかしていないので、適応できないというお話をさせていただきました。
実は目的を作る力はすごく重要です。では目的はどうやってできるのかというと、人に共感する。自分の心に客観的に共感するでもいいんですけど。その人の気持ちになった時に、何に困っているんだろうと共感することによって課題を見つけられるんですね。
課題を見つけたものを、じゃあどうやって解くのか。課題があっても、もしかしたら目的が見つかっていない場合もありますし、もしかしたら目的は見つかっているんだけれども解き方が分からないというところもあると思うんですね。
その時の組み合わせ方というのが、先ほど言った「イノベーション」。今までに無かった組み合わせ。先ほどの大学の研究で見ると、大学の先生はずっとこれをやっているので、「これ(だけ)をやるものだ」と勝手なバイアスがかかってしまっている。でも実は、その技術を全く違うところに入れたら、解けなかった問題が解けたりとか、新しいソリューションが出てきて、イノベーションが起こることがあります。
もう一つは、今までになかった目的を見つけて、今までにあるものを組み合わせて解いてしまったこともあるんです。なので、「イノベーションの源泉にはクリエイティビティがあって、クリエイティビティは、人に共感して目的を作り、今までに無かった組み合わせをすることによって新しいやり方を見つける」。これが、実はイノベーションなんです。
長期的な問題をいうと、日本の教育が今の時代にあっていない。変えていかなければならない。
この問題でいうと、実は経産省はめちゃめちゃフットワークが軽いんです。教育を変えようと思ったら、5年かかる感じです。
教育と経済界には落差があります。本当に世界で今求められている教育と、経済界がフィットしていないと。これが長期的に変えていかなければいけないところですね。
イノベーションのエコシステム。エコシステムとは教育のことを変えなければいけないと。短期的に変えられるところで言うと、実はいろんな技術の組み合わせによってできるんじゃないか。
最近はオープンイノベーション。日本も、今まで自前主義だったところを他の会社が持っている技術でもいいので、それを組み合わせることによってできるんじゃないかというところに対して比較的オープンになってきました。
「比較的オープン」が何かというと、CEOクラスはやらなければいけない危機感を強く持っています。100年以上残っている会社のバトンを得て、自分がCEOの時代に破綻させてはいけないというすごい重責の中で、やらなければいけないという自分ごと感が強い。
一方、では現場はどうなのか?イノベーション推進室とか、経営企画とか、新規事業室とかはどうなのかというと、今までは「ウチのビジネスはこう」と与えられた中で、そのやり方が上手い人がプレイヤーとして経営企画とかで出世しているわけです。その人たちは、今までのやり方のオペレーションを1とか10を、またさらに言うと1,000を10,000にするのが得意な人たちが上にあがってきています。いきなり「0〜1をやりなさい」と言われたら、 今までボクシングをやっていた人が、いきなり戦ったことのない柔道をやりなさいと言われるようなもの。やり方が分からないので困惑していたり、経営者が思っているほど速く動こうとしないんです。実際の経営者の危機感が、現場になかなか伝わらなかったりします。
組織の中の問題があります。経営者はかなり動き出している。でも、組織の中の自分ごと感が、企業が巨大化しすぎて伝わりきっていない。
企業も個人も「脱・平均」化するために
あとは教育のところであったりとか。先ほど仰いましたけど、日本は起業家が成功してアメリカン・ドリームみたいな、GoogleとかAppleみたいな歴史が浅いところはあまりないんですね。そうしたロールモデルになって、すごいという人が出てきたら、もっとそっちがメインプレイヤーとしてなるのかなと。
海外でいいますと、一番優秀な学生はスタートアップに行って、次がプロフェッショナル職に行って、最後に大企業なんですけど、日本だと全然逆です。
梅澤 結構、今はそうなっている。
松本 日本もですか?
梅澤 今はそうなっています、日本も。
松本 確かに、東大生は起業も多いですね。
梅澤 東大、京大の最優秀層とか、結構みんな起業思考で。(東京大学のキャンパスがある)本郷周辺のラボをウロウロしていて、チャンスがあればと狙っている若者は多い。すぐに起業というところまではできない学生も、有望なスタートアップに就職して修行しようかな、という感じです。こんなキャリアパスが、ここ3年くらいで一挙に出来てきましたね。
松本 どっちかというと、そうかもしれませんね。ちょっとずつですね。
ウチみたいなスタートアップとかが、コンサルとかGoogleとかから、その中でも優秀層を採れるのは、一昔前では考えられなかった。給与が半分とかで、なんで来るの? みたいな。でも、ストックオプションがあれば、自分ごととして自分がやれば、変な話、給与のキャッシュは少なくても自分の会社を大きくするみたいなオーナーシップを持っている人は、少しずつ出てきた感じですか? そういった人たちがもう少しずつ増えていけば、日本にもそういったイノベーションという意味で何か可能性があるのかなと思っています。
梅澤 はい。松本さんが、私の言いたかったことを全部言ってくれたので、一つだけ付け加えると、内閣府が「知財戦略ビジョン」を昨年出して、延々と超発散の議論を続けています。メンバーもすごいんですけど。
この「知財戦略ビジョン」のテーマは「価値デザイン社会」。まさに新しい価値をデザインしていく社会をみんなで作ろうよと。さっきのデザイン思考の意味合いも含めたテーマです。このビジョンが打ち出した方向性で一番大事なのが、「脱・平均」というキーワード。これは企業も個人もです。これからの社会には、平均的に全てが上手にできる優等生はもういらない! と。レーダーチャートを描いたら、一つのところだけが飛び抜けている人を、どれだけ持てるかが大事だと。しかも、その飛び抜け方もなるべくバラけていて欲しいと。というのが、「脱・平均」という言葉に込めた思いです。
さっき教育の話をされていましたけど、日本の教育システムってまさにその平均点が高く、かつレーダーチャートでトゲがない人を育てる教育システムです。なので、これは早く変えましょうと、我々からも声を上げ始めているところです。
企業も学校と同じように運営されている。いかに、大企業に「脱・平均」的な舵取りをしてもらうかというのが本当に大事です。いま育ち始めている若い子たちが企業の経営者になるまでって、そうは言っても20年くらいかかるわけで、20年間我々は待っていられないです。やっぱり今いる大きな会社も、もっとエッジを尖らせてくださいよと。よその会社と同じKPIを、他社より5%ましに実行するような競争をやめようよというのが、私から皆さんへのお願いです。