場の発明企業「ツクルバ」が考える Premium Analog な体験デザイン―働く・住む・つながるの観点から

#PremiumAnalog 4/6

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2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「 テクノロジー時代における『Premium Analog』な体験デザイン」と題して行われたセッション(全6回)の4回目をお届けします。

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登壇者情報

  • 内山 博文氏:u.company 代表取締役, Japan.asset management 代表取締役
  • 松田 正臣氏:アルティコ 代表取締役 PERFECT DAY 編集長
  • 中村 真広氏:ツクルバ 代表取締役 CCO エグゼクティブ・プロデューサー / モデレータ

ツクルバが仕掛ける、多様な“場の発明”

中村 やはり案の定、皆さんの話が面白すぎて、若干押しております。よしなにやりたいなと思っていますけども、僕はサクッと行きたいんですが、結構スライドの数を作ってしまったので、パッパと行きます。

改めて、ツクルバ中村です。われわれツクルバという会社をやっていまして、場を作る、でツクルバ。今はメンバーが150人ぐらいで、創業して約7年です。

全体として何をやっているかというと、一つは働く軸でコワーキングスペースだったり、スタートアップ向けのオフィスソリューションをやったりしています。

住まい軸でいくと、内山さんにもかなり関わっていただいているんですけども、リノベーションしたマンションの流通プラットフォームで「cowcamo」(カウカモ)をやっています。

クリエイションのチームとしては、エンジニアとデザイナーとアーキテクトがいる「tsukuruba studios」というチームがあって。そして最近仕掛けている新規事業がこのコミュニティテック事業「KOU」ですね。

そういうラインナップでやっているんですけども、今日はPremium Analogを意識しながら、この事業を読み解いていくとどんなことが言えるのかなということを持ってきました。

co-ba」はコワーキングスペースで、今でこそco-baはいろんなところにありますけれども、渋谷にもうちのスペースがあります。

(渋谷からみて)南のほうの恵比寿のほうにco-ba shibuyaがありますし、あとは(渋谷の)アップルストアのほうにco-ba jinnanもあります。全国各地のco-baは今20ヶ所を越えていて、渋谷以外は直営ではなくてオーナーさんが別にいて、フランチャイズでやっています。

そして、特に都心部のスタートアップにとっては、自分でオフィスを構えようと思うとなかなか与信が弱くてオフィス借りにくいとか、そういう事情があるので、スモールチーム向けのオフィスソリューション事業「HEYSHA」もやっています。

今言ったようにスタートアップ1〜2年目だと、売上もなくて赤字垂れ流しながらプロダクト開発をしているケースも多い。けどメンバーが増えてきちゃったからオフィス物件を借りたい。オーナーさん、あまりいい顔しないですよね。そういうときに、オフィスのソリューションを僕らがやっているという感じです。

(スタートアップ企業は)2〜3年ずっといるのではなくて、半年とか1年で規模拡大してポンポン引っ越していっちゃうので、かっこいいオフィスにしたいんだけどなかなか初期投資できない事情があるので、なかなかいいデザインにもしにくいと。そういうときに、オーナーさんからわれわれが借りてリノベーションをして、そのオフィスをSaaSのように貸していくことをやっています。

あとは、そういうスタートアップ向けだけでなく大きなところでいくと、中国企業のテンセントさんの日本支社のオフィスをやらせてもらったり、日本交通さんのオフィスとか、あとメルカリさんとか。ベンチャーといってもかなり大きなベンチャーのオフィスソリューションもうちでやってます。

なので、このco-baが2〜3人で始めるところから、20〜30人になっていって、メルカリさんみたいに大きな会社になっていくというところの、この一貫した生態系を作っているのがこのオフィス周りのうちのサービスですね。

それ以外にもいろんな、それこそ内山さんがやられているような一棟リノベーションでシェアオフィスにしていきましょうとか、スタートアップの拠点を作ろうみたいなことを青学脇の渋谷2丁目とか、あとは神宮前でやったりとか、地方の廃校とかでやったりもしています。

“働く場”におけるPremium Analog

こういう働く場所におけるPremium Analogな体験っていうとどういうことが言えるのかなと思ったんですが、やはりどこでも働ける時代になっているんですね。どこでも働けるとみんな言いますけど、とはいえオフィスも必要だという人もいれば、いやオフィスなんかいらないんじゃないかという人、そこは結構論争あると思うんですね。

僕はオフィスは必要だと思っている派で、なぜ必要かというと、そこにリアルな場があって、そこに集うコミュニティがあるというのが一番重要だからなんです。

あと会社のオフィスだと「その会社のアイデンティティをちゃんと象徴しているのか」が、会社案内のパンフレット作るよりも、その場に行ったら空気でわかるというオフィスを作ることも重要だと思っているんですね。なので、アイデンティティを象徴していること。

あとはそのメンバーだったり、一人ひとりのユーザーさんが自分の働き方を編集する余白があるだろうかみたいなところも、手触り感で伝わるんじゃないかなと。例えば、最近でこそ副業とか出社義務ないよという会社もありますけど、じゃあ自分はどこで働くのかというとき、いろんなコワーキングスペースを転々としながら自分なりの居場所を作っていったりするわけですよね。

そのときに自分で自分の環境を作れるかというのが、ノマディックに働く人もそうだし、自分の会社・オフィスがあるとき、そのオフィスに自分で何か手を加えられるというか、自分の居場所をそこで体現できるかどうかというのも重要かなと思っています。

なので、このようなキーワードで、働く場というのはこれから、Premium Analogという切り口でいくと、そういうところで切れるかなと思っています。

“住まい”におけるPremium Analog

住まい軸でいくと、cowcamoをわれわれやっているんですが、先ほど言ったように中古マンションのリノベーションになるんですね。この領域は、これまでの新築が世の中の供給のメインだった時代は、大きな資本の大手デベロッパーが新築マンションを作って供給していました。それが小さなプレイヤーでもリノベーション住宅だったら供給できるんじゃないかというのが一番面白いところだなと思っていて。

Amazonができたとき、世の中で年間10冊しか売れない本でもAmazonは取り扱っているんです、みたいなことができましたけど、そういうことが中古の二次流通市場でも起こり得ると。

住まいのロングテールモデルをわれわれ考えているんですけど、この二次流通市場の、本当に一点物の二ッチなものでも、たぶん世の中には一組ぐらいほしい人いるでしょうと。そこをマッチングさせましょうということをcowcamoではやっています。

メディアやって、いわゆる不動産仲介業もやっているんですけど、そこで得てきたマーケットデータをしっかりcowcamoに蓄積して、そこで不動産のデベロッパーと一緒になって本当に求められているマンションを一緒に作っていくことをやっています(編注:「2018年リノベーションオブザイヤー」で不動産のデベロッパーと一緒に開発したマンションが賞を受賞)。それを、テクノロジーを使ってぐるぐるサイクルを回しています。

一点ものの住まいと出会うためのメディアとしては、「cowcamo.jp」やアプリを用意しています。cowcamoって「買うかもしれない」ぐらいのタイミングから見てほしいので、アプリはSpotifyとかApple Musicのような体験を参考にして作っています。

なので、ニュアンスで家を探しましょうと。自分がどんな住まいがほしいのか、わからないですよね。音楽聞くときも、どの曲聞いていいかよくわからないと。ただ、音楽アプリなら、ジャズな感じのちょっとスローなやつ、みたいなので選べるじゃないですか。それが今の体験としては面白いと思っていて、それを不動産に持ち込もうとしています。

リノベーションといっても、いろんな種類のリノベーションがあると思うんです。デザインにめちゃくちゃこだわったものもあれば、新築のスタンダードな仕上げに近いものもあったりしますが、そこにちゃんとお客さんが手を加えて、もう一度編集してもらうところが重要かなと思っています。住まい手が住みながら、自分たちらしく住まいを作っていくと。で、そのバトンパスを回す、というところですね。

そこの住環境領域だと、じゃあPremium Analogって何なの?っていうところなんですけど、ロングテールであるところが非常に面白いなと思っていて。

本当に一点物なので、網羅しようと思ったらしんどいわけですよ。なので、網羅性は諦める。そうじゃなくて、セレクトショップ感を作りましょうということで、一点もので僕らが目利きしたものだけを厳選して置いています。

その中でレコード発掘のような手触り感という、さっきのアプリもそうですけど、ずっと初めはニュアンスで選んでいるんですけど、自分の好みがわかってくるとちゃんと発掘し始めるんですよね。そういうような、これまでアナログな体験としてわれわれが用いていたものを、アプリの体験のデザインに落としていくことを考えています。

究極、このPremium Analogで手触り感があるものって家だと思っているので、生活者が自分の家を、壁を貼り変えてみるとか一つだけでもいいので何か自分で関わり始めると、一気に暮らしが広がっていくと思っているんですね。なので、生活者と共に育っていく住まいも大切だと思ってるのが、住環境領域です。

“コミュニティ”におけるPremium Analog

あと今日はもう一つネタを持ってきたんですけど、最後に「KOU」というコミュニティテック領域。コミュニティコインのアプリを今立ち上げている最中なんですけども、せっかくですからお見せしたいなと思います。時間はないですが、1分だけお時間ください。

たまたま会社編で編集したんですけど、今slackとかChatworkとか、いろんなグループウェアがあります。その中で感謝の気持ちを伝えるのももちろんあるんですけど、業務上のやりとりでずっとタイムラインが流れていってしまいます。

誰かからもらった感謝・助け合いを、感謝専用で送り合えるコミュニケーションツールがあると、組織の関係の質がどんどん変わっていってチーム力が上がっていくかもと思ったんです。そういうものを、法人向けだけではなく、様々なコミュニティ向けのコミュニケーションツールとして開発しているのが「KOU」というサービスですね。

会社以外のコミュニティでも使っていただけると思っていて。いくつか皆さん、コミュニティを使い分けて日々生きていると思うんです。草野球のコミュニティでもいいですし、自分の住まいのマンションコミュニティでもそうなんですけど、その中で助け合い、絶対あると思うんですよね。誰かが誰かに貢献するとか、困っている人がいたら仲間内だから助けるよっていう。

そのときに、感謝の気持ちを一番重たくやるのであればご祝儀とかありますけど、日常ではあまりないですよね。あとはオンラインコミュニティだったら、いいねとかスタンプとかもありますけど、なんかもうちょっと間ぐらいにあるもの、何かないのかな?というのが「KOU」のサービスのきっかけでした。

さっきも言ったように、コワーキングスペースをうちも運営をしていて、そのコミュニティをもっと活性化したいなと思ったんですね。そのときに、コミュニティを自分たちで作ってその中で流通するお金を生み出していって、そのお金を使っていくことによってやりとりがどんどん深まっていくと。

さっきのありがとうみたいな気持ちって、全部公開されてしまいます。タイムラインに乗っていて、誰と誰がどんな取り引きでどのぐらいの気持ちを交換してるのかが全部わかると。

そのランキングも見えるので、例えば営業成績だけで評価する組織ではなくて、もうちょっとメンバー間のコミュニティの助け合いも評価に入れたいんだよねという会社がもしあるとしたら、ここで見れるんですね。なので、法人の中でも結構使えます。

こういう損得の“得”ではなくて、人間の心の“徳”で動く経済システムがないかなと思っています。それを最近「感謝経済」と呼んでいるんですけども。

今いろんなところでコミュニティという言葉を聞かない日はないぐらいコミュニティと言われています。そのときにどういうことを注目しているのかというと、今ビジネスモデルもどんどんサブスクリプションモデルになっていって、コミュニティ化しているんですね。

今は本当にいろんなサブコミュニティが乱立している状態になっていて、それぞれ自分の居場所は違うと。その違うものも認めつつ、どこに所属するのかを自分で選択している。もしくは所属するところを自分で作っていく、という時代になっているなと。

そのときに、今のSNSだとどうしても、ちゃんとインスタ映えしなきゃいけないとか、かっこいいこと言わなきゃいけないとかで、どうしても映えから入っていってしまうんです。だけどそうじゃなくて、弱みを見せるところから入っていくコミュニティってすごい素敵だなと思っています。頼ることから始めるものだと。ちょっと困っているので助けてください。で、助けてもらってありがとうの気持ちを送る、ということですね。

あとは、持っていることに意味のないお金と言っているんですけど、この「KOU」の中で発行されるお金って、天から降ってくるんですよ。別に原価も掛かってないし、円と交換もできないんで、いっぱい持っていようが少なく持っていようがほぼほぼ意味ないですね。意味のないお金を記号としてやりとりするんです。

なんかもう本当に子ども銀行券みたいなもので、なぜそれが意味があるのかというと、誰かを助ける・先輩が後輩を助けてあげるといったとき、何か言い訳がほしいわけですね。後輩はずっと助けてもらっちゃって申し訳ないなと。

申し訳ないなと恐縮する代わりに、この意味のないお金を渡すと、それでなんか円滑になる気がすると。フェイクのお金を交換し合っているふうになっている。それによって気持ちは満たされるという。

そういうような、交換経済に慣れてしまったわれわれだからこそ、お金のリハビリ的なツールが必要かなと思って作ったのがこのKOUというサービスですね。

なので、Premium Analogと言っていますけど、さっきの松田さんのお話でもあったようにフィジカルな部分とデジタルな部分がいかにオーバーラップするのかというところが、これからの肝になると思って、このデザインでやっています。

今、こういう全体像でツクルバという会社は活動しています。すいません、長くなっちゃいました。

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