「不動産テックひとつください!」勘・経験・度胸の不動産業界に、テクノロジーが入り込む余地は?
#RealestateTech 4/5
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「不動産テックの現在地と未来」と題して行われたセッション(全5回)の4回目をお届けします。
登壇者情報
- 赤木 正幸氏:リマールエステート 代表取締役社長
- 落合 孝文氏:一般社団法人不動産テック協会理事 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー
- 川戸 温志氏:NTTデータ経営研究所 ビジネストランスフォーメーションユニットシニアマネージャー
- 森井 啓充氏:オープンハウス Chief Innovation Officer
- 池本 洋一氏:リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長 /モデレータ
“テクノロジー”の前に、“不動産”がある
池本 では続いては赤木さんお願いします。
赤木正幸氏(以下、赤木) はい、改めましてリマールエステートの赤木と申します、よろしくお願いいたします。
今日の4人の中で私の役回りは、不動産屋として不動産テック企業をしているため、そもそも不動産屋さんにとって不動産テックって何なのかという視点からお話をさせていただきます。
会社の概要は、立ち上げて2年目の会社であり、宅建取引業をもっている見た目は完全に不動産屋ですね。いわゆるハトマークの宅建協会さんや全住協さんに入ってるんですけど、中身は完全にIT会社です。
さきほど川戸さんが言われたみたいに、まさにスタートアップとして、自社サービスが上手くいくかどうか試しながら、アジャイル的に開発していくやり方で、不動産会社向けのシステムを作っております。ベンチャーキャピタルから出資していただいて、資金を使いながらシステムを作っていく会社です。
私自身はもともと不動産で特に不動産ファンドやJ-REITの運用会社で不動産の売買をやっていた人間です。ちなみに、父親も地元岡山で30年以上も売買仲介1本でやってる不動産屋で、血筋として不動産屋です。
その不動産屋が、たまたま不動産を全く知らないCTOと出会い、一緒に仕事をしてます。こういった不動産屋さんが始めた不動産テック企業はけっこう出始めてますので、何を考えているかをお伝えできます。
不動産売買に特化した業務支援システム「キマール」を提供しています。
不動産テックの特徴なんですけど、不動産業界は幅が広く、賃貸もあれば売買もあり、住宅もあればオフィスも商業もあるというので、全部をカバーするサービスは無理です。なので、特に弊社が一番強いところで勝負をしています。
不動産屋の不動産テックへの反応はこんな感じですね。
一昔前にインターネットが出始めた時に、なんかよくわからないけど電気屋行って「インターネットください」みたいな、乗り遅れたらまずそうだけどとりあえず買いに行こうという不動産屋さんが多いです。
反応は二手に分かれます。極端な楽観派と悲観派があるんですけど、これは私個人的にはもったいないなと。
これはよく使われるデータですけど、日米のIT投資の比較で、不動産業はアメリカの1割の投資しかないとか、労働生産性は4割しかないと言われてます。
我々も最初は勘違いしてたんですけど、TechとかITといえば、今までなかったものがいきなりバーンって現れて大きくなるイメージがありました。でも、不動産テックはやっぱり不動産あって初めてTechを活用できるので、ここをはき違えてしまうと迷走してしまう部分がある。
もちろん今までにない、例えばシェアリングとかは出てるんですが、基本的にはやっぱり不動産事業ありきですね。
不動産屋さんが何考えてるかというと、これ私も昔から教育されたいわゆるKKDですね。ここでKKDが何の略かわかってニヤニヤされてる方は不動産屋さん確定。KKDは、勘と経験と度胸です。
ルノアールに行けばいろんな話が聞けますし、相変わらずこの時代に捨て看板と投げ込みチラシ、あとガラケーとFAXですね。うちの親父もずっとガラケーです。なぜかわからないですけど、首からぶら下げるんですね。だいたい年に1回、ラーメンとかに沈めるのに相変わらず下げてますね。さらに、セカンドバッグと数珠。
これほんとの話ですが、先輩と一緒に会社行った帰りに、「あの会社やばいよ」って言われ、「なんでわかるんですか?」、「数珠増えてるだろ」。数珠が会社のバロメーターになるというまんざら間違ってない話です。
ちなみにセカンドバッグも、宅建の免許の切り替えって5年おきにあるんですけど、すごいですよ。真面目な話、机の上にセカンドバッグが並ぶんですよ。日本中のセカンドバッグが集まってる勢いで集まります。
何が言いたいかというと、不動産屋さんを馬鹿にしたいんじゃなくて、やっぱりまさに勘と経験に基づいた仕事をされてる不動産屋さんが、どうやってテクノロジーを活用していくかが肝になるということです。
私もITの人間と一緒に仕事するようになって気付かされたんですけど、不動産屋にとって情報の扱い方はどうやら特殊なようです。「不動産屋の欲しい情報は?」っていわれると、不動産屋さんは即答で「自分しか知らない情報」です。これをどうするのっていわれると、「仲の良い人だけに微妙に条件変えて出す」。これは、不動産屋にしてみれば当たり前ですね。
うちのエンジニアに「隠蔽とねつ造の世界だ」って言われるんですけど、これAmazonも全く同じことやってるんですよ。
例えばAmazonでPCを選んでたら、「これを買った人はこれも見てますよ」ってAmazonしか知らない情報を、そのお客さんのためだけに条件を変えて提案してきます。実は、不動産屋さんは昔からこれをやってるんだなということに気づかされました。
ただこれがちょっとアナログなだけで、ちょっと数珠があるってぐらいなので、そこをどうTechに切り替えるかなという問題です。
不動産オーナー置き去りのIoTが、業界の未来に影を落とす
私の場合はトラブルをいっぱい見ていますので、かいつまんでお話させていただきます。
例えば、IoTですね。「ユーザーとオーナーの問題」と私が勝手に呼んでるんですけど、IoTをつくるメーカーの方は使うユーザーのことしか考えてないんですね。
例えば、朝日とともにカーテンが開くIoTってありますが、個人で買うのは問題ありません。しかし、マンション一棟でこれを入れるかというと非常に難しいです。マンションで入れる場合は、お金を出すオーナーは何に興味あるかというと、賃料が上がるか稼働率が上がるかしか興味ないんですね。
入居者の快適性は長い目で見たら追及してるんですけど、やっぱり目先の投資をする時にはこういった部分はすごい重要です。
あと同じように、今までの不動産の世界ではあり得なかったスピードでモノが壊れます。そして、陳腐化も早いですね。IoTやスマートスピーカーをオーナー負担で入れているのを見ると、3年後とかどうするのかなと。3年前の機器を見れば「あっ懐かしい」となり内覧でとても不利になるのではないかと。
いろいろ他にもあるんですけど、これはちょっと社会問題に必ずなるなというのがクラウドファンディングです。私はJ-REITにいた関係もあって、この小口化問題がすごく気になります。
日本の場合は、分譲マンションが建て替えられないという古典的な小口化の問題を抱えてる中、またクラウドファンディングで小口化の問題をばらまくのかという懸念です。ちょっと怪しげな運営会社がまだ少なからずあるので、運営会社がなくなった場合は小口化の問題が噴出します。
もうそろそろ巻きが入る時間なので。
池本 よくお気づきで。
赤木 はい(笑)。
ひとつのサービスで全部まかなうのは無理です、そんなサービスないです、もうほんと、青い鳥を探す世界です。
自社のどこを伸ばしたいか、どこを塞ぎたいかを考えたうえでサービスを入れなければならないことは、どの不動産会社さんにもあてはまります。これは普通の企業がITを入れる時と同じですね。
また、「付加価値の高い仕事やれって」上からよく言われますが、無理ですね。そんな暇がないから付加価値高めれないんだという根本的な矛盾があります。今はいろんなサービスがあるので、まずは業務効率を上げるものを入れてから付加価値を上げるのが順番です。
あと、不動産屋さんから結構相談を受けるんです。AI使いたい、ビッグデータ使いたいって言うんですけど、データがないとそもそも始まらない。不動産屋さんってデータを持ってると思ってるんですけど、そもそも紙やPDFはデータじゃないです。AIに行く前にまずはデータ貯めなきゃいけないので長期戦になります。よくAIに負けそうって言うんですけど、やっぱり不動産業界のKKDの人たちは忖度の真っただ中にいる人たちなので、あれをできるAIはまだまだできないと個人的には思ってます。
でも、うちのCTOがコンビニの帰りにぼそっと言ったことがすごく引っかかっています。「100円のペットボトル買っても両手添えてありがとうございましたって言うのに、毎月家賃10万ぐらい払ってるのに一言のお礼も言わないって、この不動産業界はなんなの」って言われて。これAIとか必要なくて、ただメールを自動で送ればできるんですけど誰もやっていないです。こんな簡単なところから初めてみても面白いかもしれません。
この後は、不動産屋さんから見た不動産テックどうなのかという話を皆さんとさせてください。ありがとうございました。
(会場拍手)
池本 ありがとうございます。