Work As Lifeを加速させるテクノロジーとは?
#WorkAsLife 4/6
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「Work As Life」と題して行われたセッション(全6回)の4回目をお届けします。
登壇者情報
- 山口 周:コーン・フェリー・ヘイグループ パートナー , 一橋大学 経営管理研究科非常勤講師
- 柳澤 大輔:面白法人カヤック 代表取締役CEO
- 林 宏昌:リデザインワーク 代表取締役社長
- 石川 善樹:Campus for H 共同創業者
- 武井 浩三:ダイヤモンドメディア 代表取締役 /モデレータ
新しい価値観より、心地いい価値観
武井 なるほど。山口さん何かありますか。
山口 新しい価値観ってどういうことを意図して書いていたのかがよく分からない。「新しい」と言われているものってだいたいすぐ古くなっちゃうので、ちょっと問いとしてどうなのかなって思います。
僕はその価値観というのは、お金持ちになるとかでかい家を買うとか、シャンパン飲むとか綺麗な愛人を持つとかという、昭和型の最後の価値観がすごく支配的だった。
平成のあいだも結局そこから抜けられなかった気がするんですけど、いま結構いい流れだなと思っているのは、そういうものにあんまり魅力を感じないというか、結局、外在的な「いいと言われていること」に対して、自分でいいと思っていないとあまり駆動できない人が増えてきているのは、いいことだなと思っています。
ただ困るのが、そういう人ってだいたいマウントしようとするんです。
僕のほうが年収が上だねとか、君は国産だけど僕はフェラーリだねとか。僕は全然それでいいと思っているんですけど、でもマウントされちゃうとムカつくんで、じゃあこっちもやってやろうじゃねえかって、泥沼の戦いになっているところがいろいろあると思うんです。
だから、新しいとか古いとか言っていること自体がもう古い気がしていて。どんどん価値観が多様化していって、その価値観の似た人が集まって働けるとすごくパワーが出るし、居心地のいいコミュニティになると思うんです。
柳澤さんが鎌倉で、僕は葉山なんですけど。僕は(以前は)東京に住んでいて、ある種の違和感が拭えなくて半ば(葉山に)逃げてきたんです。
それは、そのマウントを取ろうとする人たちが周囲にすごくいる空間で生きてきて、何で車の水準を上げていかないのかとか、あなたも当然そのものさしで戦っているんでしょという感じのコミュニケーションをされるのが、むちゃくちゃ違和感があって出てきたというのがあります。
ですから、新しい価値観というか、価値観そのものが多様化する。そしてその価値観の似ている人たちが集まって物理的に生きていける。
そこがやっぱりテクノロジーとすごく関わってくるところだと思うんです。
今は物理的にある場所に集まらないと、生産効率とか通勤の効率とか考えると生産性が上がらない世の中だったので、仕方なしにそれぞれ価値観の違う人たちが東京に一極集中で仕事をしていたんだけど、物理的に離れても生きていけるようになると、あるコミュニティとかある地域みたいなものを自分のセンスで選んで、かつそれがハンディキャップに全然ならない世の中がテクノロジーでできてくるようになると、これはすごく面白いんじゃないかとは思っています。
人間のメンタリティが変わらなければ、本質的には何も変えられない
武井 まさに今の問いが、次の3になりまして、これらの実現を可能にするテクノロジーは何か。
テクノロジーについて少し語りたいなと思うんですけど、まさに今のお話ですけれど、そのテクノロジーの中でも具体的にどんなことがあるとか、みなさんが既に取り組まれていることとか、いかがでしょうか。
林 それらが何を指すのかというのが、今までの議論の中で、夜這いからいろんな派生があるのでちょっと難しいのですけど。
もうどこでも働けるということは、相当に進んできていると思っています。そのためのチャットコミュニケーションやテレビ会議の仕組みもだいぶ出てきているので。
僕は比較的大きな企業の改革のサポートをさせていただいているのですけど、結局、最後の最後で変わらないといけないのは人間のメンタリティ。ここが一番難しいです。
例えばAIの話だって最終的には倫理の問題になるし、あるいは医療の人が人を作っていくクローン問題も結局は倫理の問題になってくるのと同じように、テクノロジー的に可能で実際に問題ないじゃないですかといっても、どこでも働けるようになるかどうかは、隣にいて欲しいというこの感覚そのものが変わっていかない限り、本当に自由にはなっていかないなというのがあります。
なのでテクノロジー側でやろうとすると、ホログラムなのか分からないですけれど、本当に隣にいるということが、会っているのと変わらないようなテクノロジー、というのはナンセンスかもしれないんですけど。一方で、人間のメンタリティー的にそれが必要かなというのは、僕の今の感覚です。
会おうよって言ったときに、「ごめんね、物理的に会おうという意味だったんだけど」ってことを説明しないといけなくなるくらい、オンラインで会うことが自然になっていくと、本当の意味で「働く場所からの解放」に繋がると思っています。
それらが何を指すのかというのがあれなんですけど。
柳澤 その垣根はびっくりするくらい下がっていますよね。一方で、オンラインで会うこととリアルで会うことには、やっぱりまだ差があるなとも感じます。
五感で感じ取っているものが、まだこぼれ落ちてしまうところがあるから。技術が進化すれば変わってくると思いますけど。
「移動」の速度とコストが変われば、生き方・働き方も変わる
石川 例えばですけど、あなたいくら欲しいですかって聞いたら、ほとんどの人は答えられると思うんですよ。
でも、あなたどうやって暮らしていきたいですかって聞いたら、多分あんまりクリアなイメージを持っている人っていないんだと思うんですね。
一昔前なら、いつかはセダンとか、いつかは一軒家というランクアップ方式ですよね。いわゆる正解とかシンボルがあった時代から、今はないというのがどうしてなんだろうとすごく思うんです。
テクノロジーというのは、いろんなテクノロジーがありますけれども、暮らしを最も変えてきたとか、生き方・働き方を変えてきたのは「移動」だと思うんです。
特に移動スピードを速くする、新幹線なり飛行機なりというのは、移動スピードをものすごく速くすることをテクノロジーで頑張ってきたんですよ。
なぜ東海道が五十三次もあったかと言うと、移動スピードがゆっくりだったからですよね。移動スピードがゆっくりになると、文化が栄え多様性が生まれるというのがあるんですけど、移動が速くなると均一化しちゃうんだと思うんです。
均一化すると選ぼうにも選べないというか、東海道五十三次で私はどれが好きみたいなのが分からなくなるというか。
だから何となくですけど、スピードを上げるというよりも、いかにスピードを落とすかというんですかね。スピードを落としながらも、移動のコストを劇的に下げるテクノロジーですかね。
例えば今週は巣鴨に住んでみようでもいいじゃないですか。で、来週は鎌倉に行ってみようかなというときに、今はこの移動のコストがかかりすぎているんです。それが不自由で選べない。
本当は多様性があるはずなんです。だからスピードを遅くして、かつ移動のコストを劇的に下げるテクノロジーなりサービスが出てくると。Airbnbじゃまだまだだと思うんです。高いですよね。あれはコストが高すぎる。
何かそういうものが出てくると、暮らしや働き方や生き方が変わる気がしますけどね。
生産性向上の先には生まれ得ない“幸せ”
柳澤 あの、さっきの問2から繋がっているんですよね。
新しい価値観を実現する意味でいくと、今パッと2つ思ったんですけど。1つはさっき話していた、今までは可視化されていなかったものを可視化して価値化して。人との繋がりがある人は幸せですとか、幸せ学とか見ると川の近くに住んでいる人は幸せですという研究が出ていたりするから、山と海の近くに住んでいる人のほうが、相対的には幸せ度が高いのかもしれないとか。
そういう幸せの尺度をお金以外で測るときに、今まで可視化していなかったものを可視化するから、そのものさしとして、おそらく今までのものじゃダメなので。そこにブロックチェーンを使ったり、今まで可視化していなかったものを可視化するというのにテクノロジーが役立つんじゃないかと思って。
それで、さっきの(鎌倉)資本主義はやっています。それはそれで補足という意味で伝えたんですけど、今パッと思って。LivingTechでいくと、鎌倉に田中浩也先生というSFCの研究所の所長が住んでいて。3Dプリンターを日本に持ち込んだ人です。
そしてGoogleストリートビューの前身を作って、Googleから買いたいと言われて断った人ですけど、その人が鎌倉の家の庭で100種類ぐらいの家庭菜園をやっているんです。
普通、家庭菜園というと10種類ぐらいしかできないんだけど、テクノロジーを使って全部の種ごとに水撒きを自動化したり日照をうまく工夫したり、全部自動化されていることをやろうとしていて。これは面白いなと思って、100種類を一人で家で育てられるのは。
これは何なのかなと思ったときに、さっきの話とちょっと矛盾するんですけど、一つのことを突き詰めることで人って成長するんだけど、面白さみたいなところって、いろんなことをやらないと面白くないんですよね。
うちも、エンジニアにはフルスタックを推奨しているから、性質上何か一つを突き詰めるというよりも、いろんなことがやりたいエンジニアが多くて。
面白法人ってつけているんで面白いことを基軸に考えていくんですけど、おそらくテクノロジーで「いろんなことをする」はどんどん可能になるんですよ。
だから「面白いのはどっちか」という観点でテクノロジーを使ったほうが幸せになる気がしますよね。生産性がどうかという話をしても、おそらく辿り着かないんじゃないですかね。
林 そうですね、さっきの面白いという話と、今のブロックチェーンの話とか含めて、まず軸が資本主義ってお金みたいなものがあって、尺度が強烈でシンプルで数字なのでわかりやすい。
それと対抗する社会的な価値が、可視化できないので対抗できない。
あるいは幸せレベルはポルシェに乗っているあなたよりもカーシェアリングしている自分のほうが高いみたいなことが、そっちの違う軸で戦えないのでなかなか難しいことがあると思うんですけど、やっぱり好きなものを突き詰めて行くことが換金ができる世の中になったのは結構面白いなと思っていて。
さっきの、これがものすごく好きなんですみたいなことをとにかく掘って、発信していく。そうするとSNSのフォロワーの数が増えてくる。
そうなってくるとクラウドファンディングもあるので。この中でこの人すごく面白いねってみんなから思われているニッチな人なんだけど、じゃあこのテーマでさっきの図書館を作りますとかって言ったら、クラウドファンディングで換金できることになるので。
好きなものを突き詰めていくことによる、フォロワーや換金するためのブロックチェーンを含めた技術、テクノロジー。あとはそのクラウドファンディングのパッケージによって、この後のお金の価値を、価値観とか考え方を換金できる社会になってきているので。
大きな企業で自分の価値観を殺しながら生きて行くよりは、自分の好きなことをが好きだと突き詰めていく。結果、それを換金する手段が出てきているのは面白い世の中だと思っています。