ブロックチェーンゲーム市場レポート:NFT取引(2019年5月)
前回に続き、5月末時点のブロックチェーンゲーム市場(NFTのセカンダリー取引)について各種データをもとに考察していきたいと思います。
なお、本レポートでは、下記抽出対象に基づくブロックチェーンのトランザクションデータを参照しております。(参照データ:Etherscan、BigQuery)
*抽出条件*
- NFTのユーザー間取引により発生(OpenSea、Auctionityなどのマーケットプレイス及びCryptoKittiesなどのゲーム内マーケットのトランザクションを対象とする)
- 独自トークンによる取引はETH・USD換算にて算出(MANAなど)
- Decentraland を除く取引を算出
- Ethereum上で発生
- 2018年5月1日〜2019年5月31日に発生
目次
- セカンダリーマーケット取引高
- タイトル別比較
- ユーザー動向
- 総括
セカンダリーマーケット取引高
取引高推移
【全期間の月次推移(2018年6月1日〜2019年5月31日)】
−ETH建−
−USD建−
4月に引き続き5月もETH建で下落傾向となった月でした。
しかしながらUSD建では4月から転じて上昇傾向となり、3月の取引高を除くと年明け以降USD建では右肩上がりの推移となっています。
さらに5月の日次推移が下記となります。
【5月の日次推移(2019年5月1日〜2019年5月31日)】
−ETH建−
−USD建−
日次推移では多少の上下はするもののETH建・USD建 共に横ばいの推移となりました。
平均取引高
【取引あたりの平均取引高(ETH・USD)】
ETH建では4月に引き続き取引単価は下落傾向となっていますが、USD建でみると2018年12月以降ずっと上昇傾向にあることがわかります。
【ユーザーあたりの平均取引高(ETH・USD)】
こちらもETH建では4月に引き続き下落傾向となっていますが、USD建でみると4月から転じて上昇となりました。
これはUSD建で4月と比較して5月は高額取引ユーザーが取引額を増加させたことが平均取引高を上昇させた要因ではないかと考えられます。
【取引高上位10ユーザーが全取引高に占める割合】
実際に4月と5月の大口取引ユーザーの割合を見てみると5月は4月に比べて大口取引ユーザーの取引割合が増加しているのがわかります。
取引額ランキング
【取引額ランキング−前月比較−(TOP 15)】
取引額ランキングを4月・5月で比較してみると、4月の取引額上位の大半を占めていた My Crypto Heroes(以降 MCHと表記)が5月には1件にとどまり、それとは対照的に5月の取引高上位にランクインした新たなタイトルにPLANET(以降 0xUniverse またはPLANET(0xUniverse)と表記)がありました。(0xUniverseの概要については次項のタイトル別比較で解説します)
タイトル別比較
*OpenSea、Auctionityなどのマーケットプレイス上で発生したタイトル別の取引についても、各タイトル取引高に仕分けして算出しております。
タイトル別 全体取引高
【全期間の月次推移(2018年6月1日〜2019年5月31日)】
−ETH建−
−USD建−
タイトル別に見ていくとETH建・USD建 共に5月は多くのタイトルで取引高の下落が見られました。
そんな中、「Blockchain Cuties」「0xUniverse」の2つのタイトルがETH建・USD建共に大きく取引高を上昇させました。
【2タイトルの4月・5月取引高推移】
2つのタイトルの4月と5月の取引高を比較してみると急激な高騰を見せたのがわかります。
先月、取引高の高騰を見せた「ZED」「Neon District」のような新作タイトルとは異なり、両タイトル共にゲームがリリースされて1年以上となり、前回のレポートでも取り上げたMCHと同じようにゲームリリース後に取引高を向上させたタイトルとなりました。
- Blockchain Cuties:https://blockchaincuties.com/
Blockchain Cutiesは、猫、犬、クマ、トカゲをモチーフとしたキャラクターを育成・バトルするブロックチェーンゲームで、2018年4月にリリースされたタイトルです。
開発チームはこれまで6年間に及び、オンラインゲームなど様々なゲームの開発を行ってきたメンバーで構成され、その経験をもとに生み出されたのがBockchain Cuties だったようです。
ゲームリリース以降、これまでの経験を生かして作り上げられたゲームストーリーとバトル構成に加え、MCHなど様々なゲームタイトルとのコラボの実施や、EOS・TRONといったEthereum以外のブロックチェーンへの対応など、様々な施策により多様なユーザーを着実に増やしてきたタイトルと言えます。
これまで、ゲーム内での取引が多くを占めていましたが、OpenSeaに加え直近では下記の2つのマーケットプレイスで取引を開始しました。
- 4月:Auctionityで取引開始
- 5月:SpiderDEXで取引開始
【Blockchain Cuties のマーケットプレイス別 取引高推移】
特に5月に取引を開始したSpiderDEXでの取引が活発に行われ、今回の取引高の高騰につながったと言えます。
*SpiderDEX:5月にリリースした中国発のマーケットプレイスです。取り扱いのタイトルにはCryptoKittiesやMCHはもちろん、先月高騰を見せたZEDやNeon Districtなど人気の新作タイトルを次々とリストし、今では20タイトル以上を取り扱うマーケットプレイスとなっています。
- 0xUniverse:https://0xuniverse.com/
0xUniverseは、宇宙船を開発し惑星探索を行うブロックチェーンゲームで2018年6月にリリースされました。
大きな特徴に、ゲームを楽しむだけでなく惑星を所有していると配当がもらえるという点が挙げられ、惑星探索によるレア度の高い星を見つけることに加えて、アセットを保有して利益を得たいというユーザーも存在するユニークなゲームと言えます。
0xUniverseの開発チームでは、他にも0xUniverseの拡張版シューティングゲームの「0xBattleships」や、EOSのブロックチェーン上で展開するRPGゲームの「0xWarriors」などを展開し、独自のエコシステムを構築していくとのことです。
また、各種カンファレンス(BLOCKSHOWなど)へ参加するなど、外部での露出も積極的に行っており、業界内での知名度も高いチームと言えます。
【MAU推移】
Twitter、Discordの更新頻度も高く、ゲーム開発・外部露出に加え、SNSの運用など様々な活動を通じて着実にユーザーを増やしてきたタイトルと言えます。
その他、4月急激な取引高の高騰を見せた「ZED」と「Neon District」を見ていくと、いずれもETH建・USD建共に下落となりました。現状、両タイトル共にゲームリリース前の段階のため、リリース以降動向を注目していきたいと思います。
タイトル別 累計取引高 TOP 15
【全期間の累計取引高(2018年6月1日〜2019年5月31日)】
−ETH建−
−USD建−
先月のレポートと比較してUSD建におけるMLB Champions(以降 MLBと表記)とMCHの順位が逆転しました。
【直近3ヶ月毎の取引高比較】
−ETH建−
−USD建−
直近3ヶ月毎に取引高を比較してみると、ETH建・USD建ともにMCHだけ他のタイトルと比較して圧倒的な伸びを見せているのがわかり、この短期間での取引高の増加が先ほどの順位の逆転の要因であると言えます。
タイトル別 平均取引高(取引高TOP3タイトルを比較)
【取引あたりの平均取引高】
−ETH建−
−USD建−
ETH建・USD建、共に3タイトル全て4月に引き続き下落となりました。
【ユーザーあたりの平均取引高】
−ETH建−
−USD建−
ETH建・USD建、共に4月に引き続き下落しており、大口のユーザーが3月以降 減少傾向にあると考えられます。
ユーザー動向
購入ユーザー数の推移
【MAU(monthly active user)】
【New user】
MAU、New user共に前月比で若干の増加となりました。New userについては毎月大きな上下もなく毎月一定数の新規流入があり、その新規流入分がこのMAUの緩やかな右肩上がりにつながっていると言えます。
取引高TOP20タイトルのHolder状況
下記事由により、ここで示す数値はあくまで参考値としていただけたら思います。
*ここではアセットを保有する1アドレスを1Holderとして算出しています。そのため、1ユーザーが複数アドレスを保有する場合であっても1アドレスをもとに1Holderとして算出しております。
*MCHの様にゲームプレイをオフチェーン で実行するために、特定のアドレスにアセットが集約されている場合、累計取引高とHolder数のタイトル順位に大きく異なる場合があります。
*Gods Unchianedの様にアセットがロックアップされてセカンダリー取引ができないタイトルの場合、累計取引高とHolder数のタイトル順位が大きく異なる場合があります。
【タイトル別 Holder数−前月比較−】
4月時点と比較して5月は1位のCryptoKitties以外ほとんどのタイトルの順位に変化がありました。
CryptoKitties以外のタイトルは皆、Holder数が1万以下と均衡しており、今回のPLANET(0xUniverse)のように単月であっても取引高の高騰が 順位を大きく変動させる要因となります。
【複数タイトル同時保有状況 −前月比較−】
4月時点と同様に、1つのタイトルのみを保有するユーザーが94.6%と大半を占めている状態と言えます。
【保有タイトルの組合せ −前月比較−(TOP 15)】
4月と比較して順位を上げた保有タイトルの組み合わせに「CryptoKitties・Blockchain Cuties」「CryptoKitties・ PLANET(0xUniverse)」が挙げられ、反対に順位を下げたのが「GodsUnchained・Neon District」「CryptoKitties・Gods Unchained・Neon District」の組み合わせでした。
順位を上げたの2つの組み合わせに共通する点として、5月に取引高を高騰させたBlockchain Cuties、PLANET(0xUniverse)の2つのタイトルが絡む組み合わせであったのに対し、順位を下げた組み合わせに共通する点には、取引高の低下が見られたNeon Districtが絡む組み合わせであったことがわかります。
総括
5月は4月に引き続きETH建の取引高は下落となり、反対にUSD建では上昇に転じた月となりました。実際にユーザーがアセット購入する際、ETH建ではなくUSD建でアセット価値を見積もる傾向にあり、ETH価格そのものが上昇している現状の相場環境の場合、今後もこのような状態が起きると想定されます。なお、日次でETH建の推移を見ると、月初から横ばいの推移を保っており、来月どのように変化するか注目したいと思います。
タイトル別に見ていくと、「Blockchain Cuties」「0xUniverse」といったゲームリリースから1年以上経過したタイトルの取引高の高騰が目立ちました。
Blockchain Cutiesは、新たなマーケットプレイスで取引を開始したことが急激な高騰要因と言えますが、それを除いて両タイトル共通している点は、多少の増減あるものの一定の取引高で推移しているという点です。
これはHolder数ランキングからもわかる通り、取引高の高騰を見せる前の4月時点から両タイトル共に上位に位置しており、ゲームリリース以降も着実にユーザー数を増やしてきたことがわかります。こうしたユーザー数の確保が安定的な取引高推移につながったと考えられます。
毎月、新規タイトルの取引高の高騰が注目されがちですが、長期的な取引高推移に影響する既存タイトルの取引高・Holder数の変化にも今後注目してその動向をお届けしたいと思います。
6月はいよいよ注目の国内タイトル「Cryptospells」のクラウドセールが行われます。トレーディングカードゲームという巨大なユーザー人口を持つジャンルのブロックチェーンゲームが国内から誕生する月ということで、大きな期待が集まる月と言えます。