【UX Vol.2】〜BlockchainにおけるUXの課題と対策:第二回〜

Hiroyuki Narita
Metaps Blockchain JP
19 min readJan 31, 2019

前回のテーマに続き、「周辺プロダクト」におけるUXの課題と対策について見て行きたいと思います。

※今回、下記一覧表の中から特に注目すべき課題を取り上げています。

目次

  • 取引所でトークン取得が必要
  • ゲーム外で使用用途が少ない
  • 多様なトークンを扱うことで単位表記がバラバラ
  • アカウント残高・取引履歴が第三者から閲覧可
  • アセット売買後に取引所でトークンをFIAT転換する必要あり
  • トランザクション発生時にGasFeeが発生/署名が度々発生

取引所でトークン取得が必要

前回の記事でも触れた通り、Blockchainゲームへのアクセス、ウォレットの準備が完了した後、次にユーザーの利用ハードルとなるのが、トークン取得の部分です。(My Crypto heroesGods Unchainedのようにフリープレイを導入していないBlockchainゲームの場合、ゲームを行う上でトークンの取得が必須となります。※フリープレイの導入事例は前回記事を参照ください)こうした課題に対し、簡易的にトークン取得を可能とする下記のようなプロダクトが存在ます。

すでにETH以外の多様なトークンを保有している場合、異なるトークン同士を交換可能とするサービスとして下記があげられます。

  • ShapeShift:BTCとETH等異なるBlockchain同士のトークン交換が可能
  • Bancor X:ERC20とEOSの異なるBlockchain同士のトークン交換が可能

その他、ETH以外のトークンを用いて直接キャラクター購入を可能とするプロダクトも存在します。

Kyber NetworkはERC20のトークン同士を瞬時に交換するプロダクトです。このKyber Networkと育成・バトルゲームのEtheremonが提携し、下記のようなキャラクター購入時にETH以外の多様なトークンで直接購入することが出来ます。これにより、ETHを新たに購入せずとも保有のトークンでBlockchainゲームを楽しむことが可能となります。

https://www.etheremon.com/mons/114

ゲーム外で使用用途が少ない

保有キャラクターがゲーム内でしか使用できなければ、既存ゲームと変わりがなく、あえて乗り越えるハードルが多いBlockchainゲームをはじめたいというユーザーは限られてきます。そこで現在、既存のゲーム業界ではあまり見られない異なるゲーム同士のコラボレーションや、周辺プロダクト向けにSDKの提供が積極的に行われていたりと、ゲーム外での使用用途拡大に向けたユニークなアプローチが行われています。

KittyVerse

CryptoKittiesが提供する周辺プロダクト向けの開発支援プログラムです。KittyVerseで開発されたプロダクト内では、保有キャラクターを登場させてゲームがプレイ出来ます。そして、すでに下記にような様々なゲームが開発されリリースされています。

  • Kitty Race:保有キャラクターをレースに出して競うゲーム
  • Kitty Hats:保有キャラクターの着せ替えゲーム
  • Kitty Battles:保有キャラクターでチームを組んでバトルするゲーム

※開発支援プログラムへの参加は下記のページで随時行われ、希望者にはCryptoKitties本社にいってデベロッパーと一緒に開発を進めることもできるようです。

Decentraland上でEtheremonのキャラクターが登場

Decentralandは分散型VRプラットフォームを展開するプロダクトです。DecentralandはEtheremonとのコミュニケーションを発表し、VR空間上でEtheremonのキャラクターを登場させる世界を目指しています。

このコラボの注目すべき点は、単純にキャラクターを登場させるだけでなく、EtheremonのゲームがVR空間で体感できるという点です。ユーザーはVR空間を散策しながら新しいキャラクターを発見したり、そこで出会った他のプレーヤーとVR空間上でバトルを行うことが出来たりと、とてもユニークな体験を提供してくれます。

EMONT Alliance

Etheremonがメンバーが主導となり、他のBlockchainゲームと一緒にBlockchainゲームのエコシステムを構築する目的からEMONT Allianceが設立されました。

Allianceの加盟ゲームにはEtheremonの他、My Crypto Heroes、EMONT FrenzyCubegoがあります。Alliance内で活用されるEMONTという独自トークン(Radar Relayで取引可能)も存在し、Alliance内のコラボレーションが活性になるよう独自の取り組みが行われています。

※実際にMy Crypto HeroesではEtheremonとのコラボヒーローをセールする際、このEMONTを支払いトークンとして採用しました。

本来、競合となる他のBlockchainゲーム同士が、一緒になってエコシステムの構築行うとてもユニークな事例と言えます。

Axie Infinity内外での使用用途の拡大

育成・バトルゲームのAxie Infinityでは、今後他のBlockchainゲームキャラクターを用いて特殊なアイテムを作り出すCrafting Systemの実装や、周辺プロダクトがAxie Infinity上で自由にミニゲームが開発できるLunacia SDKの提供を予定しています。

また、このような公式の動きとは別に、すでにキャラクターを使用したお寿司の早食いゲームが周辺プロダクトからリリースされ、公式の動きだけでなく、周辺プロダクトも含めゲーム内外での使用用途の拡大へのアプローチが行われているBlockchainゲームとなっています。

Gods UnchainedとCryptoKittiesのコラボ

2019年1月17日〜2019年1月28日の間に、期間限定でGods UnchainedとCyptoKittiesのコラボ企画が実施されました。この企画は、CryptoKittiesのキティを保有していると、限定版パックが購入できるというものでした。限定パックでは、カード5枚に加えて、猫の彫像(ERC721トークン)を特典として1体がもらえるようになっていました。

限定パック購入画面

このコラボは、下記のようにGods UnchainedとCryptoKittiesの双方のプレーヤーに対してゲームアセットの購入を促す仕掛けになっていたと考えられます。

  • Gods Unchainedのプレイヤー:限定パックが欲しくてCryptoKittiesのキティを購入
  • CryptoKittiesのプレイヤー:既に保有しているキティを活用してみたくて限定パックを購入

さらに、コラボ限定のキティを保有していると、限定版パックでもらえる彫像が、特別な見た目をしたものになるといった仕掛けもされていました。

このコラボ限定のキティは、コラボ期間中にCryptoKittiesで特別な配合をすると産まれるものでした。そのため、特別な見た目の彫像を手に入れるためには、CryptoKittiesで配合をする必要があり、Gods UnchainedとCryptoKittiesの双方のプレイヤーに対して配合を促す仕掛けになっていたと言えます。

また、CryptoKittiesでは、Gods Unchainedとのコラボ限定キティが380体限定で販売されました。このコラボ限定キティを保有していると、さらにレア度の高いコラボ限定キティ(1体限定)を入手できるチャンスが得られるという仕掛けがされていました。なお、この1体限定のキティは、Gods Unchainedで3枚しか存在しない最上級のレアカードのキャラクターを模しており、レア度の高さが伺えます。

限定キティ

このように異なるゲーム同士のコラボレーションにより、下記のような新たな需要を生み出すきっかけとなったユニークな企画と言えます。

  • CryptoKittiesの新規キャラクター購入
  • Gods Unchainedの新規カード購入
  • CryptoKitties上でのキャラクター配合の活性化

CryptoGoods

保有キャラクターを用いたTシャツやマグカップなどのグッズが作れるプロダクトです。利用方法はサイト上でキャラクーとグッズをそれぞれ選択して注文すると、後日郵送で届けられるという流れです。

これは、保有キャラクターを現実世界のグッズに変換することができるユニークなアプローチと言えます。

https://medium.com/r/?url=https%3A%2F%2Fwww.cryptogoods.co%2F

多様なトークンを扱うことで単位表記がバラバラ

マーケットプレイスの中には、ETH以外の多様なトークンが利用されているところがあります。現在、取引高が上位のOpenSeaではETHの他にDAI、USDCといった多様なトークンが使用されています。その為、ユーザーは売却時に「受付トークンの選定」に注意する必要があります。

例えば、あるキャラクターをETH建で売却したいのに誤ってDAI建で出品し購入されてしまった場合、ETHとDAIの価格差の分だけ損失が発生してしまいます。(例えば1ETH=1万円、1DAI=100円の場合、価格差は9900円となり、この価格差が損失となります)。

また、OpenSeaで出品されるBlockchainゲームの中にはDecentralandの様に独自トークン(MANA)を持つものも存在し、その場合は先にあげたトークンに加え独自トークンが売買に使用されます。このように、多様なトークンが使用され、その単位表示もバラバラとなるととても使いにくく、Blockchainそのもに慣れていないユーザーにとってはマーケットプレイスを利用するハードルとなりえます。

こうした課題に対して、多様なトークンを使用する場合でも表記単位を統一する、または使用トークンを1つに限定するなどの対応がマーケットプレイスに求められます。実際に下記のマーケットプレイスではこれらの対策が行われています。

OPSkins

OPSkinsはPCゲームを主に扱っているゲームアイテムマーケットプレイスです。PCゲームでは世界トップクラスの取引量となっていて、週に200万件の売買が成立しているマーケットプレイスです。そしてOPSkinsでは既存のPCゲームに加えてBlockchainゲームのアイテムも取り扱いをはじめました。(CryptoKitties、Etherbotsが現在取り扱われています)

ここではキャラクターの販売表記はドル建てに統一されています。これはOPSkinsのユーザーの多くが既存のPCゲームユーザーということもあり、Blockchainゲームのアセットであっても表記はドル建てに統一しているようです。

https://opskins.com/?loc=shop_search

Rare Bits

Rare BitsはOpenSeaと同様のBlockchainゲーム専門のマーケットプレイスです。扱われているBlockchainゲームもOpenSeaと類似していますが、Rare Bitsでは利用トークンがETHだけとなっています。その為、初めてキャラクター売買を行うユーザーでもシンプルで使いやすい設計となっています。

https://rarebits.io/item/CryptoKitties/1333165

アカウント残高・取引履歴が第三者から閲覧可

Blockchainならではの特徴でありユーザーの利用ハードルとなりうる点として、アカウント残高・取引履歴が第三者から閲覧可という点があげられます。

例えば、CryptoKittiesの場合、下記のようなエクスプローラーでCryptoKitties全体のデータはもちろん、アカウント(Ethereumアドレス)を検索すると所有キャラクターの数や種類、そして取引履歴まで様々なデータが第三者から閲覧可能となっています。

https://kittyhelper.co/

これはBlockchainの良い点でもあり、プライバシーの観点からユーザーの利用ハードルにもなりえる点とも言えます。

現状このような課題に対し有効な周辺プロダクトはなく、今後も議論の必要がある課題と言えます。

アセット売買後に取引所でトークンをFIAT転換する必要あり

アセット売却後のトークンをFIATへ転換するためには、トークン取得時同様に取引所を使用する必要があります。すでにトークン取得時に越えたハードルとはいえ、ウォレットから取引所にトークンを送信し、取引所板で売買を成立させ、その後自身の銀行口座に出金をするといった手順を再度踏む必要があります。

こうした課題に対し、取引所を介さずともトークンをそのまま決済に利用できたり、そのまま現金として取り出せるプロダクトが存在ます。

バンドルカード

手持ちのBTCをウォレットから直接チャージし、VISA対応店舗で決済に使えるプリペードカードです。カードの種類は「インターネット専用のバーチャルカード」「リアル店舗でも使えるリアルカード」「利用できるお店が多いリアル+(プラス)」の3種類あり、用途に合わせて使い分けれる仕様となっています。このカードを使用することでアセット売却後に取引所でトークンをFIAT転換しなくとも実利用が可能となります。

※一部で利用が制限されおり、公共料金・宿泊施設・定期支払いまたは定期購読 ・高速道路・ガソリンスタンド・保険の支払い・畿内販売では利用することができません。

その他、発行条件や利用規約についてはサポートページよりご確認ください。

https://vandle.jp/

Bitcoin ATM

Bitcoin ATMでは、BitcoinをはじめETHなどの売買が行え、その場でFIATとして引き出せる機械です。現在、ETHが引き出せるATMは世界で2,134台(2019年1月25日時点のCoin ATM Radarを参考)存在します。

使い方はいたってシンプルで、ウォレットと本人確認証を用意し画面上で指定売却量を申請し、売却完了後にFIATが引き出せます。

https://coinatmradar.com/

トランザクション発生時にGasFeeが発生/署名が度々発生

Blockchainゲームを利用する上で、度々発生するのがGasFeeの支払いと署名行為です。これはユーザーにとってシームレスな体験を毀損し、利用ハードルとなりえる課題です。

しかしながらこれはBlockchainのプロトコル上の課題といえ、ゲーム設計で発生箇所を極力抑えるなどが主な対応策と言えます。この対策とは別に現在、下記のようにGasFeeをユーザーに代わって支払う仕様が提案され話題となっています。

メタトランザクション

メタトランザクションとは、トランザクション発生時のGasFeeをユーザーの代わりに第三者(ゲームディベロッパー、または周辺プロダクト)が間に入ってGassFeeを支払う仕様です。この仕様により、ユーザーはETHを持たなくともBlockchainゲームを楽しむことが可能となります。

現在ユーザーの利用ハードルを下げる有効なアプローチとしてゲーム以外の様々なアプリケーションでの活用検討が行われています。

また、周辺プロダクトとしてユーザーに代わってGasFeeを代行する下記のようなプロダクトも出てきています。

Uniqys Transaction Proxy

ユーザーのトランザクションを代理発行するプロダクトとして、株式会社モバイルファクトリーの100%子会社である株式会社ビットファクトリーが発表しました。

これはゲームディベロッパーは秘密鍵やETHの管理をする必要はなく、ユーザーはUniqys Transaction Proxyが発行するトランザクションにウォレット上で署名をするだけでGasFeeを支払うことなく、ゲームを利用することができるプロダクトです。これによりユーザーはETHを保有しなくともBlockchainゲームを利用できるようになります。

https://tx-proxy.uniqys.net/%C2%A0https://www.mobilefactory.jp/newsrelease/2018/20181221/

Ethless

ユーザーが支払うGasFeeを無料化するためのプロダクトとして株式会社volvoxが発表しました。

これも先であげたUniqys Transaction Proxy同様にGasFeeの支払いをゲームディベロッパーが担う形で実現させます。まだ、事前登録中の段階ですが、Github上で仕様が公開されています。

大きな特徴として、ユーザー負担の軽減に加え、アプリケーション検証が高速化する点があげられています。これは、Ethlessを用いると本来テストネット上で検証する際にユーザーが用意する必要のあったテストネット用のETHが不要となり、仮説検証がスピーディーに行えるといった内容です。

https://ethless.v4x.co/index.ja.html

ここまで、BlockchainのUXについて「周辺プロダクト」における課題と対策を見てきました。次稿で「トークン」「オフチェーン」「サイドチェーン」における各課題とそれぞれの対策について見て行きたいと思います。

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