【プライベートLTE】
第1回:プライベートLTEって何?
~概要&デモ環境の紹介~

Yohei Motomura
nttlabs
Published in
12 min readDec 20, 2018

■ はじめに…

こんにちは,NTT研究所の本村です.私はプライベートLTEに関する研究開発に取り組んでいます.

皆さんはプライベートLTEを知っていますか??
「LTE(Long Term Evolution)ならスマホで使っているけれど,プライベートLTEって単語は聞いたことがない…」
という方も多いのではないでしょうか.

普段皆さんがiPhone等で利用されているLTEサービスは,基本的にモバイルキャリアにより提供されているものです.一方で,現在では免許不要で設置可能な無線基地局の商品化コア網設備のOSS開発が進み,個人や企業などの非モバイルキャリアでも自営でLTE設備を構築可能となりつつあります.このようなモバイルキャリアの設備を利用せず自営の設備で自社/個人専用のLTEネットワーク(≒オレオレLTEネットワーク)を構築する仕組みがプライベートLTEです.

プライベートLTEは「情報保護の観点から自営設備で社内に閉じたLTE無線環境を構築したい」,「WiFiのセキュリティが不安なのでLTEのSIM認証をシステムに導入したい」など,様々なユースケースでの適用が期待されており,海外では既に空港や工場などでプライベートLTEの導入が広がりつつあります.

第1回の本記事ではプライベートLTEの概要やデモ環境についてご紹介します.

■ プライベートLTEとは?

「はじめに」で述べたように,プライベートLTEとはモバイルキャリアの設備を利用せず自営の設備で自社/個人専用のLTEネットワーク(≒オレオレLTEネットワーク)を構築する仕組みです.

LTE設備を構築する主な要素として無線基地局(eNodeB:上図の赤色部分)とコア網機能(Evolved Packet Core:上図の青色部分)の2つがあります.モバイルキャリア(MNO)は無線基地局とコア網機能全てをモバイルキャリア自身で所有し,これら設備によるLTEサービスをユーザーへ提供してきました.一方で,フルMVNOはコア網の一部機能(HSS,P-GW)を自前の設備で運用し,その他の設備についてはモバイルキャリアの設備を利用することでLTEサービスを提供しています.では,プライベートLTEはどのようになっているかというと,無線基地局まで含む全ての設備を自営で用意することで個人/自社専用のLTEサービスを実現しています.

(参考) Evolved Packet Coreの各機能について

ここまでの話を聞くと「プライベートLTEってなんで最近まで実現できていなかったの?キャリアの設備をコピーすれば良いだけなのでは?」という疑問が生じるかと思います.結論を先に述べますと,プライベートLTEがこれまで導入が進んでいなかったのは1.無線基地局の帯域問題,2.個人/企業に適したコア網機能導入の難しさの2つの要因があったからだと考えられます.

□ 問題1 無線基地局の帯域
モバイルキャリアの無線基地局はライセンスバンドと呼ばれる各モバイルキャリアに割り当てられた帯域が利用されています.しかしながら,非モバイルキャリアでは法的な問題もあり,これら帯域の無線基地局を設置することはできず,また,免許不要な帯域(アンライセンスバンド:WiFiの帯域等)を利用して無線基地局でLTEシステムを構築することも容易ではありません.結果として,非モバイルキャリアでLTE対応の無線基地局を設置することは非常にハードルが高い状況でした.

これら帯域の課題を解決するものの1つが近年規格化されたsXGPです.sXGPはshared eXtended Global Platformの略で,PHSの標準化等を実施していたXGPフォーラムが自営通信用向けとして規格した方式です. sXGPの周波数帯はこれまで自営PHSで使用されていた帯域(1893.5 ~ 1906.1MHz)でアンライセンスバンド(免許不要の周波数帯)となっています.そのため,sXGPに関する技適を取得済みの無線基地局であれば,免許等を取得することなくWiFi機器のような手軽さでLTE対応の無線基地局を設置することが可能となりました. 2018年12月現在,日本国内で既に技適取得済み製品(Baicells社のpBS1109,Accuver社(QUCELL社)のSC-120J)も登場しています.

□ 問題2 個人/企業に適したコア網機能導入の難しさ
これまでLTEのコア網(EPC)はモバイルキャリア(MNO)もしくはMVNO事業者が設置・運用するものであったため,非常に多数のユーザを収容する想定の大規模,高性能,高コストなものを中心に開発されてきました.これらキャリア向けEPCは個人や企業向けとしては過剰スペックであり,購入・導入することは非常に難しい状況となっていました.

一方,最近では企業向けに適した商用のEPC(Athonet, Quortus, Amarisoft等)やOSSのEPC(Open Air Interface, NextEPC, srsLTE等)など,様々なEPCが開発されています.これらの中にはRaspberry Piのような小型PC環境下でも動作するEPCもあり,個人でも手軽にEPC環境を構築することが可能となっています.

■ プライベートLTE環境を構築してみた

上記の課題1,2が解決されたことにより,既に個人や企業で,かつ日本国内でプライベートLTE設備を構築できるようになっています.そこで,本記事では実際に簡単なデモ環境を構築してみました.

□ 手順1. 機器の準備・接続

今回は上図のような構成を準備しました.
・基地局:Baicells社 pBS1109
・IP:192.168.2.10
・TAC( Tracking Area Code):1
・EPC:NextEPC(OSSのEPC)
・IP:192.168.2.3
・OS:Ubuntu18.04
・PCスペックの概要:Core™ i5–7300U/8GBメモリ
・スマートフォン:ZenFone3
・SIMカード:PLMN 00101(MCC 001,MNC01)

□ 手順2. NextEPCインストールおよび環境設定
NextEPCはOSSのEPCの1つで,導入が非常に簡単なため本記事では使用しました.Ubuntu18.04を導入済みのPCに以下のコマンドを入力するだけで手軽にインストール可能です.

$sudo apt -y install software-properties-common curl gcc g++ make nodejs
$sudo add-apt-repository ppa:acetcom/nextepc
$sudo apt update
$sudo apt -y install nextepc
$curl -sL https://deb.nodesource.com/setup_8.x | sudo -E bash -
$curl -sL http://nextepc.org/static/webui/install | sudo -E bash -

また,今回用意した環境に合わせてNextEPCの設定値をいくつか変更します.変更後の設定ファイルは以下になります.

$sudo cat /etc/nextepc/mme.conf### For reference, see `nextepc.conf`logger:
file: /var/log/nextepc/mme.log
trace:
app: 1
s1ap: 1
nas: 1
diameter: 1
gtpv2: 1
parameter:mme:
freeDiameter: mme.conf
s1ap:
addr: 192.168.2.3           ←←←EPCのIPを設定
gtpc:
gummei:
plmn_id:
mcc: 001                 ←←←MCCの値に設定
mnc: 01                  ←←←MNCの値に設定
mme_gid: 2
mme_code: 1
tai:
plmn_id:
mcc: 001                 ←←←MCCの値に設定
mnc: 01                  ←←←MNCの値に設定
tac: 1                   ←←←TACの値に設定
security:
integrity_order : [ EIA1, EIA2, EIA0 ]
ciphering_order : [ EEA0, EEA1, EEA2 ]
network_name:
full: NTT-LAB               ←←←任意の名前に変更
sgw:
gtpc:
addr: 127.0.0.2
pgw:
gtpc:
addr:
— 127.0.0.3
— ::1
$sudo vim /etc/nextepc/sgw.conf### For reference, see `nextepc.conf`logger:
file: /var/log/nextepc/sgw.log
trace:
app: 1
gtpv2: 1
gtp: 1
parameter:
no_ipv6: true
sgw:
gtpc:
addr: 127.0.0.2
gtpu:
addr: 192.168.2.3 ←←←EPCのIPを設定

また,最後にInternetに疎通させるための設定( IPマスカレード設定)を実施します.

$sudo sh -c “echo 1 > /proc/sys/net/ipv4/ip_forward”
$sudo iptables -t nat -A POSTROUTING -o "NIC名" -j MASQUERADE
$sudo iptables -I INPUT -i pgwtun -j ACCEPT

□ 手順3. 基地局(Baicells社 pBS1109)の環境設定
基地局についても今回用意した環境に合わせて設定値をいくつか変更します.Baicells社のpBS1109はWEB UI(http://192.168.2.10)から設定を変更可能です.以下の図はログイン後の画面になります.

まず,「BTS Settings」⇒「Quick Settings」を開き,MME IP,PLMN,TACの値をEPCで設定した値に変更します.

設定変更後は基地局を再起動します.設定に問題がなければStatus InfoのCell StatusがActiveとなります.

□ 手順4. SIMカード情報の登録
ここまでの手順でLTE設備は構築できています.一方で,このままだとスマートフォンから接続することはできません.というのも,ユーザがスマートフォンからLTE設備にアクセスする際,SIM認証機能によりスマートフォン内のSIM情報とLTE設備側で登録しているSIM情報が一致している必要があるからです.そこで,NextEPCのWEB UI(http://192.168.2.3:3000)でSIM情報を登録します.以下の図はログイン後の画面になります.

右下の+ボタンを押下し、IMSI/Ki/OPCの情報を記入します.※これらSIM情報に関しては別途記事で紹介予定です.

SAVEを押下するとSIM情報が登録されます.

□ 手順5. 端末接続
端末にSIMカードを挿入して再起動します.手順4で登録した情報と挿入したSIMの情報が一致していれば下図のようにInternetに接続されます.今回は試しにYouTubeを再生してみました.

■ まとめ

本記事ではBaicells社の基地局とOSSのEPCであるNextEPCを用いてプライベートLTE環境を構築してみました.手順を見て頂くとわかるように,思ったよりも簡単にプライベートLTE設備が構築できるようになりつつあります. 将来的には既存のWiFiルータのような手軽さでLTEシステムを導入することが可能になるかもしれません.

第2回以降の記事ではプライベートLTEを取り巻くOSS開発や無線基地局設備の状況など,プライベートLTEに関するより詳細なトピックについて深堀していきますので,是非引き続きご覧いただけますと幸いです.

>>プライベートLTE関連記事のリンク:
第1回:プライベートLTEって何?~概要&デモ環境の紹介~
第2回:プライベートLTEのユースケース~音声通話デモのご紹介~
第3回:プライベートLTE設備の構築~Open Air Interface(OAISIM)による端末(UE)・基地局(eNB)擬似環境の紹介~

■ おわりに

私たちNTTは,オープンソースコミュニティで共に活動する仲間を募集しています.ぜひ弊社 ソフトウェアイノベーションセンタ紹介ページ及び,採用情報ページをご覧ください.

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