【プライベートLTE】
第2回:プライベートLTEのユースケース~音声通話(VoIP)デモのご紹介~

Yohei Motomura
nttlabs
Published in
8 min readMar 29, 2019

■ はじめに…

こんにちは,NTT研究所の本村です.私はプライベートLTEに関する研究開発に取り組んでいます.

前回の記事でプライベートLTEの概要とデモ環境をご紹介しましたが,「Wi-Fiで良いのではないか?」,「具体的にプライベートLTEは何に使えるのか?」というご質問をいくつか頂いています.

そこで第2回の本記事では,プライベートLTEがどのようなユースケースに適用できそうか説明した上で,具体的なユースケースの1つである音声通話(VoIP)のデモ環境をご紹介します.

■ 【おさらい】プライベートLTEとは何か?

プライベートLTEとはモバイルキャリアの設備を利用せず自営の設備で自社/個人専用のLTEネットワーク(≒オレオレLTEネットワーク)を構築する仕組みです.(参考:下図赤枠内)

Wi-Fiと比較したLTEの利点としては,「SIM認証による高セキュリティ」・「移動時に接続が途切れにくい」の2つが一般的に挙げられています.

  1. SIM認証による高セキュリティ
    Wi-Fiを使用する場合は SSID/パスワードによる認証を実施することが多いかと思われます.一方LTEは,SIMカード内の書き換え困難な情報(ハード情報)を元に認証が実施されます.そのためパスワード流出等による不正アクセスの危険性が少なく,Wi-Fiよりも強固なセキュリティ性能を持つと言われています.
  2. 移動時に接続が途切れにくい
    LTEはそもそも端末が移動することを想定した規格であり,移動時も接続断が起きないための仕組み(ハンドオーバー)を有しています.そのため,基地局が切り替わる場合も通信断の影響を受けることなく継続して通信を続けることができます.

プライベートLTEはこれらLTEの利点を”モバイルキャリア非依存で”利用可能にする仕組みとなります.

■ プライベートLTEのユースケース

おさらいの内容を踏まえますと,プライベートLTEが必要となる場合は「LTE特有の機能」を利用したい,かつ「モバイルキャリアの設備が使用できない」ケースとなります.

例えばプライベートLTEの具体的なユースケースとして「空港内無線設備」や「工場内IoT機器制御」,「農業用機器制御」,「病院内PHS代替(音声通話)」などが取り上げ挙げられていますが,いずれの場合もWi-FiよりLTEが適しており,かつMNOやMVNOの設備が使用できない事情があるようなケースです.このようにプライベートLTEが適するユースケースは多く存在しています.

※MNOやMVNOの設備が使用できない事情としては「MNOやMVNOの電波が届きにくい山間部や農業地域等で利用する場合」,「セキュリティの事情でインターネットや他社設備に接続したくない場合」,「モバイルキャリア非依存で,災害時も自営設備で接続を維持したい」等があります.

■ 病院内PHS代替(音声通話:VoIP)のデモ環境を構築してみた

ユースケースが本当に実現できるか検証するため,前回の記事で作成したデモ環境をベースにプライベートLTEのユースケースの1つとして知られている病院内PHS代替(音声通話:VoIP)のデモ環境を構築してみました.

デモ環境の前提条件として以下の要件を想定しています.
・Webサーバに患者情報を含むため外部インターネットに接続したくない
・SIM認証によりセキュリティを担保したい
・携帯電話で安定した音声通話を実施したい

□ 手順1. 機器の準備

今回は上図のような構成を準備しました.
・基地局:Baicells社 pBS1109

・EPC:NextEPC
⇒・OS:Ubuntu18.04
⇒・PCスペック:Core™ i5–7300U/8GBメモリ
⇒・IP:192.168.0.3

・スマートフォン:ZenFone3,iPhoneX
⇒・SIMカード:PLMN 00101(MCC 001,MNC01)

・構内交換機:FreePBX
⇒・PCスペック:Core™ i5–7300U/8GBメモリ
⇒・IP:192.168.0.20

・イントラネット(Webサーバ)
⇒・OS:Ubuntu18.04
⇒・PCスペック:Core™ i5–7300U/8GBメモリ
⇒・IP:192.168.0.30

□ 手順2. 機器の設定
まずは前回の記事を元にプライベートLTE環境を構築します.
その後に構内交換機とイントラネット(Webサーバ)を設定します.

  1. FreePBXのSTABLE SNG7-PBX-64bit-1805–2.isoをダウンロードし,構内交換機用PCにインストールします .
    ※インストール時の設定項目は全てdefaultで設定しました.
  2. FreePBXへログイン(http://192.168.0.20)し,内線情報を追加します.
    ※【アプリケーション】⇒【内線】を選択し内線情報を2つ追加
    タイプ:pjsip
    ユーザ名:1000
    ディスプレイ名:1000 ※内線番号になります
    パスワード:1000pass

    タイプ:pjsip
    ユーザ名:2000
    ディスプレイ名:2000※内線番号になります
    パスワード:2000pass
FreePBXログイン画面
内線登録情報
  1. 携帯端末にAGEphoneをインストールします.
    (https://www.ageet.com/agephone)
  2. AGEphoneを開き,SIPサーバを登録します.
    ドメイン:192.168.0.20 ※構内交換機のIPアドレス
    ユーザ名:1000 or 2000※1000をZenfone3,2000をiPhoneXに割り当て
    パスワード:1000pass or 2000pass
  1. イントラネット(Webサーバ:192.168.0.30)にUbuntu18.04, Apacheをインストールします.

□ 手順3. 動作確認
AGEphoneを用いてZenfone3(内線番号:1000)からiPhoneX(内線番号:2000)に通話してみました.設定に問題なければ正常に通話が実行できるかと思います.また,イントラネット(http://192.168.0.30)にブラウザからアクセスすることも確認できました.

■ まとめ

本記事ではBaicells社の基地局,OSSのEPCであるNextEPC,FreePBXを用いてプライベートLTE設備によるVoIPデモ環境を構築してみました.第3回の記事ではプライベートLTEを取り巻くOSSの状況について紹介いたしますので,是非引き続きご覧いただけますと幸いです.

>>プライベートLTE関連記事のリンク:
第1回:プライベートLTEって何?~概要&デモ環境の紹介~
第2回:プライベートLTEのユースケース~音声通話デモのご紹介~
第3回:プライベートLTE設備の構築~Open Air Interface(OAISIM)による端末(UE)・基地局(eNB)擬似環境の紹介~

■ おわりに

私たちNTTはプライベートLTEについて共に活動する仲間を募集しています.ぜひ弊社 ソフトウェアイノベーションセンタ紹介ページ及び,採用情報ページをご覧ください.

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