事例紹介:JR東日本アプリ開発を振り返る<前編>

マネジメントの立場から見た Lean XP の現場

Mario Kazumichi Sakata
Product Run
12 min readMar 12, 2019

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Product Run をご覧のみなさま、こんにちは!プロダクトマネージャーの Mario です。この記事では、Pivotal Labs が東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)様と共に、2017年6月から半年に及んだ JR 東日本アプリ「GO! by Train」新規開発プロジェクトの当時の様子をマネジメント観点から振り返っていきます🚃 前編と後編に分かれており、今回はその前編になります。それでは、どうぞ!

話し手は左から:Onoさん、Takaさん(PM)、Itoさん

Ono さんのプロフィール
JR東日本に入社後、車掌の教育あるいはヒューマンエラーの研究などの業務を経て、マーケティング調査やサービス向上に資する研究業務に従事。現在はデータやICTを活用したビジネス展開を様々な角度から実施する業務を統括。

Ito さんのプロフィール
JR東日本に入社後、指定席予約販売システム(MARS)の運用や売上管理、旅行商品造成・観光開発などの営業部門に従事。現在はICTを活用したビジネス展開を志向した複数のプロジェクトに携わる。

Taka さんのプロフィール
JR東日本に入社後、運輸車両部門を経て、ICTを活用した情報提供やビジネス展開の研究・開発に従事。2014年3月に「JR東日本アプリ」をリリースし、リアルタイムの列車運行状況などをお客さまにスマホで提供するサービスを実現。

ーーまず簡単に、OnoさんとItoさんの当時のプロジェクトにおける役割について教えていただけますでしょうか?

Onoさん:私がプロジェクトの責任者で、うまく回るように温かく見守り後押ししながら社内にアピールする、そんな役割です。

Itoさん:私は Ono のサポートをしつつ、グループのリーダーをしています。私のグループの中でも、JR東日本アプリは一番大きな仕事です。他にも山手線の駅にビーコンを付けて案内や広告に活用してみようとか、 Suica を使ったいろいろなサービスを考えたりということもしています。

ーーPivotal Labs では基本、クライアントのプロダククトマネージャーとプロダクトデザイナー、エンジニアに弊社オフィスに来ていただくのですが、お2人も週に2,3回くらいお見えになったことを記憶しています。その当時の印象を教えていただけますか。

Ono さん:私は Pivotal オフィスへ行くと「お客様にダイレクトに届く仕事だけを集中して」やっている現場を見ることができるので楽しかったですね。集中するために仕事の仕方やオフィス環境が整っていることも含めて。どうしても当社の企画部門の仕事は、様々な関係箇所があるため調整業務に偏りがちなので、本当にお客様に役に立つにはどうすればよいかを徹底的に考え実行することに十分な時間とれていないのでは、と思うことがあります。そうはいっても(調整業務も)もちろん必要だとは思っているのですが。

ここではダイレクトにお客様に役に立つ仕事を皆で全力でやっている。そういった環境に身を置いていることが、非常に楽しかったです。勉強になりました。

Ito さん:彼(Taka さん)も含めて私のグループのメンバーは、当時5人いたのですが、極力全員と話す時間を作った方がいいだろうと思っていました。ここに彼が常駐することになったときも、コミュニケーションをメールだけで済ませるのではなくて、来られる限り来ようとは思っていました。

我々は、先ほど Ono が言うとおりで、資料を作って社内でどう説明するかということばかりやっているのですが、ここでは皆で意見を出し合って、共有して、その結果をプロダクトなりデザインにフィードバックさせる。それを更にユーザーを呼んでテストする。これまで我々が開発会社に頼んでいたことを、ここでは間近に見られる。そのプロセスが大変興味深かったと思っています。ここに来ることによって、直に体験することができたことがよかったです。

あと、やはりスピードの速さはもちろん感じましたよね。

(ユーザーインタビューの結果を整理するOnoさんとTakaさん)

Ono さん:いまは Pivotalで学んだことを元に自力で開発をしていますが、Pivotal に常駐していたメンバーが Pivotal を経験していないメンバーに教えている様子をよく見るんです。「黙って作業をするのではなく、ちゃんと何をするのか口に出さなくちゃいけないよ」「それによってこういうことを学ぶんだよ」という感じで。そういうことを教えている姿を目にしていると、やはり全然、今までと違ってきているなと思います。特にデベロッパーを見ているとそう思います。

その結果、アプリの動きが速くなったり、質が良くなったりしているのだろうと思います。質が良くなっているのは、見て分かりますよね。それがいい。

ーーあと、びっくりしたのですがプロジェクトの途中で役員の方が見学に来られたのを覚えていますが、なにがきっかけで来られたのでしょうか?

Taka さん:常駐当時の担当役員であった野口をとにかくここに連れてきたいと思って。元々デザイン思考や Lean XP には興味を持っていましたし。まずは夏に1回来てもらいました。

Ono さん:いろいろプレゼンをしたんだよね。

Taka さん:そうです。野口が来た際には Danny さん(Pivotal Labs Tokyo の当時のディレクター)とのミーティングも設けていただいて。その際に野口の想いも聞くことができましたが、前向きにチャレンジすることを歓迎してくれていて、非常に良かったなと思いました。

ーーTaka さんは私たちと一緒にプロダクトをつくっていたチームの1人ですが、お2人がプロジェクトのはじめから来ていただいていたことに、どのように思われましたか?

Taka さん:非常にありがたかったです。JR 東日本のオフィスから離れて仕事をしていましたが、そこでどれだけ真剣にやっていたかを理解してもらえていたと思っています。

JR 東日本に限らず、大きい会社は結構そうなのではないかと思いますが、自分たちの目の届かないところで仕事をやっている人たちは、仕事をちゃんとやっていないように見られることが多いんです。自分たちの通常業務の範囲外で何かをすることについて、「遊んでいるみたいで楽しそうだ」という表現が良く使われます。あまりポジティブでない感じで。

むしろ社外に出てこういうチャレンジをすることによって、会社の中で働いていることと同等以上の、大きな成果を会社にもたらす素地を作っているのだということを、知ってもらいたいと思っていたのです。

自分自身のスキルを身につけたいという気持ちも当然あって来たのですが、会社にとってメリットがあることをやっているのだ、という気持ちでも当然いたので。それを発信するためには、上司のサポートが絶対必要です。2人に週1~2回のペースでこちらの様子を見てもらい、社内のミーティングで「こういう感じでやっているよ」ということを、伝えてくれていたと思うので、非常にありがたかったし安心感はありました。

ーーなるほど、僕自身も非常に手厚いサポートをしていただいる実感はありました。みなさんにそれぞれお伺いしたいのですが、ここを卒業するまでに、これだけは持ち帰りたい、みたいなことって、当時ありましたか?

Ono さん:ここに来るまでにサービスのアイディアはあったのですが、それを実現するために、何が必要なのかが知りたかったですね。必要な要素は何か、そもそも実現可能か、といったこと。できるかもしれないという予感を確信に変えたい、それを持ち帰りたいと思って、来ていました。

Takaさん:JR東日本アプリという既存のアプリがあって、そのアプリを通じて自分たちの想いを具現化して、数年間運営をしてきました。その中でいくつか課題が見えてきていました。

その課題が何かと言うと、1つは、「アプリをダウンロードして開いてみたけど、ごちゃごちゃしていてよく分からないね」と言われることが多くなったことです。見せたいものを詰め込みすぎて、UI や UX がうまく機能していないよな、と。

実は、過去に何回か直そうという試みはしました。デザインワークショップをやってみたりしたのですが、どうもうまくいかない。根本的に改善された感じがしない。

もう1つは、システム的な課題です。通信が遅いとか、タップしてもなかなか画面が表示されないとか…。明らかにデベロップメントの問題なのですが、これも解消しようとミーティングで開発チームと何回も議論はしてきたのですが、うまくいかなかった。

(アプリのデザインをレビューするデザインクリティックの様子)

そういう技術的な問題やスキル的な問題というのがあって、解決する方法ないものだろうか、というのがずっと懸案事項でした。それを解決したいと思って Pivotal に来ました。ここのスタイルは、技術やスキルがある人がチームに入って課題を解決してくれるというのとは少し違っていて、今いる開発メンバー自身のスキルを高め、チームとして機能させる。今いるメンバーが自分たちで作れるようにする、ということですよね。

これは当初の想定とは違った手法だったのですが、 Pivotal とやると決めた時点で、自分たちがそのスキルをしっかりと持ち帰って、自分たちが今まで直したかった、解決したかった課題を自分たちの手で解決できるようになろう、と強く思いました。内製できるようになって帰るんだ、と。

JR東日本が担当しているのは、プロダクトを作っている上流部分での調整だけということが多いんです。「こんな感じでお願いします」みたいな。自分の想いが開発チームに届け、という感じで。比較的自分はこれまでもプロダクトマネージメントまで関わっていたと思いますが、それでも開発している様子を直接見る機会は無い。なので、ずっとモヤモヤしていて。

でも内製化することによって、自分が開発チームに入り込んで、自分の手でプロジェクトを動かせるようになった。自分が本当に作りたいと思ったものを、当然メンバーに助けてもらいながらですが、作ることができそうという期待が持てるようになったので、絶対これを持って帰ろうという感じでした。自分で変えられるようにしようという感じでした。そのためには上司の協力が必要でしたので、サポートが得られて本当によかったです。

Ito さん:観点を変えて考えると、仕事の進め方も来てみてすごく意外で。IT業界で自由に仕事をしている人たちというのは、勤務時間もフレックスだし自由奔放にやっているのかなという感じで思っていたら、意外とそうでもなくて、朝一緒に朝ご飯とるところから始まって、夜6時まで、お昼ご飯を含めて皆で一緒。重要だと思ったことは、皆で結構時間をかけて議論しながらとか。

あとタイムマネジメントとかすごくきっちりしているのも、新鮮味がありました。1時間と決めたら、1時間で終わらせる。終わらなかったことは宿題として残して、また別途改めてやる、と。そういったやり方が結構新鮮でした。我々の会社も「働き方改革だ」ということを言っていて、「自由にどこでも仕事ができる」とか、「リモートワークだ」とか言われていて実践しているのですが、それはそれでありつつ、こういうスタイルがあるんだなということが改めて勉強になって。

ときにはこういう感じ、ときにはこういう感じ、とアレンジしていろいろできるなというのは、私もここが終わってからも、マネージャーとしていろいろと仕事をしている上では活きているなと思います。

(後編へ続く)

「GO! by Train」について

お客さまの日々の列車での移動や駅の利用が、もっと便利で快適になることを目的として開発されたスマートフォン向けアプリです。必要な機能を厳選し、シンプルなデザインとしています。

主にできることは以下の通りです。

  1. ひと目でルートを選べる
  2. 運行情報がひと目でわかる
  3. 乗りたい列車がどこにいるかわかる

Pivotal Labs では、定期的にワークショップ型イベントを開いたり、ブログでプロダクト開発やチームビルディングなどについて紹介していきます。

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Mario Kazumichi Sakata
Product Run

Staff UX Designer based in Tokyo. Born in Brazil, raised in US. Father of two.