「印象的なストーリをつくるには?」TEDxKyotoのコーチが伝える、スピーカーの魅力の引き出し方

パワフルなアイデアやストーリーが語られるプレゼンテーションのショーTEDx。あなたはスピーカーがステージに立つまでに専属コーチがつくことはご存知だろうか?

彼ら彼女らの魅力をいかに引き出し、印象的なストーリーを創っていくのか。TEDxKyotoの専属コーチ(@yucariyonezawa)がそのエッセンスをお伝えします。スライドダウンロードはこちらから。個人セッションご希望の方はこちらから。


Teach vs Coach

「コーチ」と聞くと、あなたは何をする人だとイメージするだろう?
教える・・?指導する・・?命令する・・・人?

どれもあっているのかもしれないし、どれも違う。

一般的に「TeachとCoach」は混合されやすいようだ。
Teachとは「教える」。イメージとしては先生と生徒という上下関係の中、先生からの一方通行なインストラクション。一方Coachとは、対話を通して「その人の本質(=らしさ)を引き出していく」。その人の行きたいゴールに向かい、そのひとを理解し、応援し、見守り、大局的には先導する共同創造者、伴走者とも言えるだろう。

TEDxの場合のゴールは、スピーカーが当日のステージに立ち、彼ら彼女らのトークが世界へ広がること。そして、余波的にそのトークに触れた人達の心が動き、世界が少しでもすばらしいものへと変わっていくこと。そう思いながらわたしは携わらせて頂いている。

星座をつくる

では、TEDxのコーチをするとはどういうことか?比喩的にイメージしてみた。

宇宙には星がたくさんある。
宇宙がスピーカーの方の世界観と考えてもらいたい。その中にある輝く星たちを選び出し、星座をつくっていく。スピーカーの方と一緒に世界で一つの神話をつくっていくこと。これがコーチの役割だとわたしは思っている。

そこで何が重要か?
「いかに星を集められるか」。それと同時並行して「その星たちで形づくる星座をイメージできるか」そうして、その星座が神話になっていくのだ。

コアコンピテンシーは「聴くこと」

その星たちを集めるたった一つの方法。

それは、スピーカーの話を「聴くこと」である。「聞く」ではなく「聴く」。字の如く、耳と十の目と心、耳だけではなく体全身、五感をフルにつかってその人の存在そのものを感じとっていくことである。傾聴やアクティブリスニングと言われている聴き方をする。

残念ながら、これが苦手な人は、コーチとしては向いていない。

TEDxKyotoスピーカーコーチのミッション

以下の二つだ。

意外に思われるかもしれないが、スピーカーが当日のステージで120%のパフォーマンスが出せる環境をデザインすること。わたし自身はこれもコーチの大切な役割だと思っている。

全体の流れ

およそ二か月でこの一連の流れを行っていく。

まず、最初にスピーカーのプロフィール、スピーカー自身が作った最初のスクリプトがコーチの手元に来る。それをもって訪問インタビューを行う。わたしは出来るだけ実際お会いするようにしている。

ここで大事なことは、三つ。

①聴く→②受取る→③質問する。このサイクルを繰り返すこと。当然と言えば当然なのだが、これを続けることでどんどんスピーカーのコアな部分、本質が引き出される。コーチが質問することによりスピーカー本人が大事にしていることを思い出す。コーチは「気づくことをサポートする」役割だ。このプロセスを経て、二人の間に信頼関係が築かれていく。

80:20

この割合は何か?

インタビュー時の話している時間の割合だ。スピーカーが話している時間が80%、質問をする、つまりコーチが口を開くのが20%。それぐらい、聴いてほしい。しつこいようだが心で聴いてほしい。もう一つ、コーチは、じぶんを「無我」にして聴いて受取ってもらいたい。じぶんを透明にして、ただただ目の前の相手の話を受取る。つまり、コーチ自身の考え方、価値観を捨て、偏見も捨てさり聴くこと。これができて初めて、意味のある質問ができる。

語りの中にある事実とその奥にある心理や背景が何であるか?それを尋ねる。そうすることでスピーカーが本人の核(コア)に気づき、自分の言葉で語りだす。これが星を集めていくところで最も重要だ。

言葉にならないときは「待つ」

その中で気をつけてもらいたいことは、こちらから核心をつく質問をした際に、すぐには答られないこともしばしばあるということだ。その時に大切なのが「待つ」姿勢。これはスピーカー本人に考えてもらう時間を託すということでもある。スピーカーにとって人生の棚卸とも言える貴重でとても愛しい時間なのだ。

そして、インタビューを元にスクリプトを再構築し、そして演出へと移っていく。

カウンセラー、編集者、演出家の顔をもつ

このように言語化していくことで、これまでわたし自身、コーチをする中で無意識に行ってきていたが、TEDxスピーカーコーチをする人が持っておくとよい三つの視座に気づいた。

それがこれだ。

一つ目がスピーカーの視点。二つ目がコーチの視点。三つ目が視聴者の視点である。場面場面で切り替えたり、混ぜて使ったり柔軟に使っていけることがただのプレゼンテーションの発表の場ではなく「SHOW」としてのTEDxにおいてコーチが持っておくとよい視点、視座だと思う。

まずスピーカーの視点。これは冒頭から述べてきたインタビューをする時、実際はイベントが終了するまで全体を通してなのだが、特に「話を聴く時」「質問する時」。スピーカーの考えや思いを知るために耳を澄ませ、それが深まるための質問をする。つまりもうひとりのスピーカになる。相手側の目線で物事を見るということ。透明なじぶんで相手を受け入れる。

二つ目は自分(=コーチ)の視点。これは「質問をする時」、「スクリプトを再構築する時」、「演出をかけていく時」などだ。

さらにその中でポイントが二つ。それは子供の感性と大人の知性である。

子供の感性とは?

コーチは、その道のプロフェッショナルであるスピーカーの話を聴くわけだが、その世界のことをコーチが知らないことも、もちろんある。それは言うならば、当日会場に来てその世界に触れるパーティシパント(TEDxではお客さんのことをそう呼ぶ)の心境とも同じだと言えるのではないか。

子供はわからないことがあると「なぜ?なぜ?なぜ?」と聞くだろう。純粋な気持ちや感覚がそこにはある。スピーカーと向き合う際、純粋に疑問に思ったことは質問してみるとよい。スピーカーにとっては当たり前すぎて普段すでに意識していないことを言語化することにより、その世界に初めて触れた時のような新鮮さを思い出す。そしてそれはパーティシパントにとっても新鮮な発見のある風景となるだろう。純粋で無垢な質問は、パワフルな質問となり、結果、わかりやすいストーリへと転化し人々へ伝わっていく。

大人の知性とは?

スクリプトを再構築していく時、スライド化していく時は、特に全体性を意識しながら、客観的、論理的、構造的な力が必要である。一言でくくるとメタ視点を持つことだ。「木を見て森も見る、森を見て木も見る」コーチをするならば、この感覚を是非持っていてほしい。

三つ目は、視聴者の視点。TEDxは当日のパーティシパントだけでなく、Ustでネット中継され、YOUTUBEで全世界のひとが視聴可能となる。この人たちの存在も忘れてはならない。ステージ上でどのように見えるか、また文脈がどのように伝わっていくかも意識できるととてもよい。

最初はスピーカーの心や頭の内側にある思いや考えなので見える形にはなっていない。それを、スクリプト化(文字おこし)することで、平面上にでてくる。そしてステージに立ち、語ることで立体的な世界へと移行していく。

例えるならば、スピーカーコーチは、最初は話を聴くカウンセラー、そして編集者、さらには演出家にもなる。場面場面でその表情が変わっていく。

では、ストーリーができたら、具体的に何をしていくか?

この三つだ。

一つ目は、全体のディレクション。スライドデザインなどは専門デザイナーへ、実演がある場合はカメラワークをどうするかなど、各分野の専門家と相談して実現していく。TEDxKyotoには様々な方面のプロがおり、その仲間の力はすばらしく、どんどん洗練されていく。驚く程に。

二つ目は、発表技術のアドバイス。フィードバックを行うこと。もしかするとTEDxのスピーカーコーチと聞くと大半の方が、この部分をイメージされるかもしれない。実際ステージに立つ上でここが最もと言ってよいほど重要なのも確かだ。練習すればするほど、必ず上手くなる。そして適切で具体的なフィードバックを貰うことで磨きがかかり自信がつく。結果、当日ステージを楽しむことができる。実に理想的だ。実際、TEDxのスピーカーは多忙を極めている方が多く、なかなか発表練習に時間をさけないという現実もある。・・・がそこはコーチがしっかりと手綱を引いてほしい。

三つ目は、これらを含みスピーカーのモチベーションを維持していくことだ。さまざまな提出期限を乗り越え、ほっとするタイミングもあるが、相手を気遣いながら次なる目標に向けモチベーションを高めていく。時に迷いを受け止め、励まし、時に叱咤しながら。

意外と重要なメンタルケア

さあ、ここまでくればゴールまで目前だ。TEDxKyotoには必ずリハーサルがある。リハ前はスピーカーの緊張度は高まり、センシティブ度は加速していく。ここでもコーチの存在は重要だ。

リハ当日、スピーカー一同、初めて顔合わせをするのだが、ご本人以外のスピーチを目の当たりにすることになる。他の方の様子と比較し焦ることも大いにある。その時、コーチも一緒に焦ってしまっては元も子もない。

コーチは、あくまで、スピーカーが120%の力を発揮できるように集中と安心できる環境を準備する。もしこの時点で怪しいとなれば、猛特訓を一緒に行う場合もあれば、一旦クールダウンしてもらって、間を与えることもある。ステージに立つ基本が固まっていれば更なる表現に磨きをかける為、ブラッシュアップのアドバイスを行うこともある。ケースバイケースだ。一番は、スピーカーにとってどういう状態がベストかを判断し、コーチはその空気や場をつくっていく。ここまで共に歩んできた同志のような存在。この頃にはスピーカーにとってのよい環境がどういうものかコーチも大体わかるようになっているだろう。

そして迎える本番。

二か月間を共にしてきた、そのスピーカーの晴れの舞台である。スピーカーのアイデアやストーリーが世に出ていく。緊張度もクライマックスだ。わたしはステージ発表前まで側でサポートしている。彼ら彼女らがじぶんを信じて、楽しんでステージの上に立ってもらう。これが実現するように、祈りにも似た心境で見守っている。

さあ、ステージ上でスピーカーの名前が紹介された。ステージ袖から「いってらっしゃい」と見送り、晴れ姿を観客席の端から見つめ、そして再びステージ袖で「おかえりなさい」と迎え入れる。ステージ袖に戻ってくる彼ら彼女らの達成感と満足感に満ちた表情に出逢う度、わたしは嬉しくてうれしくてたまらなくなる。よく一緒にここまで頑張って下さった。ありがとう!という気持ちでいっぱいになる。

ああ、これを書いている今もその時のことを思い出すと涙がでてくる。この涙はなんだろう。母のような、お産婆さんのようなとても不思議な気持ちなのだ。

かくして、二か月に渡るコーチの仕事は終了する。創造的な共同作業、感無量である。時間にしてわずか10分(最長で18分)のトークの為に、これだけの時間と熱量を伴い行っていたのか。と改めて気づかされた。

コーチが行うこと。それはスピーカーの魅力を引き出し、その人をより輝かせていくことだ。

TEDxの精神である【Ideas worth spreading 】-価値あるアイデアを世界に広める-。もしも、このストーリーがあなたにとって、少しでも価値あるものであれば、わたしにとり、これほど幸せなことはない。(本記事は筆者の主観と経験を通じた内容でありTEDx、ならびにTEDxKyotoの見解ではありません。)



* スライドデザインを担当してくれたRyo SHIMIZU氏が今回のデザインプロセスを公開している。「TEDxKyotoのデザイナーが伝えるスライドデザインの方法」もおすすめです。


Q&A

Q1 :普段心がけていることは?

A1 : クリアなじぶんでいれるよう「瞑想」をしています。じぶんを静かな状態にし、心の声を聴くことができるようになると、人の話も聴きやすくなります。あと、コーチは五感を働かせて行うことなので、できるだけ自然に触れるようにしています。季節の変化で日々の光や風など自然の移り変わりや植物の成長、旬の食べ物を感じることは、コーチをする上でも役立つと思います。

あとはじぶんのからだのコンディションを整えること。これは非常に大事です。

Q2 :事前準備は?

A2 :担当させて頂く方のプロフィールをもとに、ご活動や作品をWEB等で拝見します。ご本人の出版物(ブログ含む)がある場合、そちらも目にするようにします。わたしの場合、全体的に目を通し、基本的な情報を押さえるぐらいにしています。なぜならば、実際ご本人とお会いしてから、ご本人や生まれてくる対話から感じていくことが大事だと考えているからです。

もし、これからコーチをされる方で事前に入念に調べた方が安心して携われるという方はそうされた方がよいと思います。

Q3:登壇を止めるのは誰?

A3:エグゼクティブプロデューサーです。事前リハーサルに出席できない、またはリハーサルの状態が著しく芳しくないと判断された場合、登壇をご遠慮することもあります。


written by

TEDxKyoto Speaker Coach:Yucari YONEZAWA

Special Thanks

TEDxKyoto Designer: Ryo SHIMIZU、TEDxKyoto Curator:Ichi KANAYA