『世界の最も美しい大学』から知る多文化の世界 〜エクスナレッジ〜
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連載「素敵な本が生まれる時」Vol.4 その2
ウェブマガジン『フレーズクレーズ』の連載「素敵な本が生まれる時」では、海外の建築・デザインを日本に伝えたり、日本の建築・デザインを海外に発信している出版社さんで素敵な本が生まれる瞬間のストーリーを、“建てたがらない建築士”いしまるあきこが伝えます。
建築を軸に視覚に強く訴えるビジュアル本を多く扱うエクスナレッジでは、どのように企画がされ、本が生まれているのでしょうか。3回に分けてお送りする2回目は、大学キャンパスをテーマとした写真集『世界の最も美しい大学』について伺いました。
文・写真:いしまるあきこ
前回の「現代の都市に溶け込むスター・ウォーズの世界『ダーク・レンズ』が日本で出版されるまで 〜エクスナレッジ〜」から読む方はこちら
いしまる:2016年2月末に出た『世界の最も美しい大学』は、世界の23の大学が載っていて、1088年からあったイタリアのボローニャ大学という古くて歴史ある豪華なものから、現代のものまで出ています。
こちらも翻訳本ですので買い付けしたと思うのですが、どのようにして出版に至ったのでしょうか?
関根:ブックフェアの現場でゲラが飾ってあったのを見て、興味をもったのがきっかけです。
いしまる:扉ページに「本文、フランス語からの英訳、日本語訳」と翻訳した方のお名前がでています。フランス語を英訳して、さらに、英訳を日本語にしたようですが、なぜですか?
関根:元はフランスの出版社の本です。フランスやドイツのビジュアル書出版社は、英語版も同時に作ることもあるので。そういう場合は原語と英語のどちらか好きな方から選んで訳すことが可能です。
いしまる:フランスとかドイツの出版社さんの方も英語版で確認をとっているので、翻訳にあたって安心できるということですか?
関根:そうですね。『世界の最も美しい大学』の英語から日本語の翻訳者さんは、たまたまフランス語も堪能な方でした。
本来だったら、例えば、フランス語だけではなくロシア語とかスペイン語とかから直接訳せるといいですが、そうした言語の翻訳者はなかなかいないので、英語版があればそこから訳すことが多いですね。一般的に、他の言語と比べものにならないくらい英語の翻訳者さんは層が厚いので。原書の言語についても知識がある翻訳者の方だといいのですが、そういう意味でも今回はベストの方にお願いできたと思います。
ときどき、元にする英語訳がいい加減なこともあって、そうすると間違って訳されてしまうこともあります。文脈から考えると間違っていても、英語でそう書いてあると、訳者さんはその通り訳すしかないわけです。
いしまる:まるで、伝言ゲームですね。
関根:そうですね。日本語でも伝言ゲームだと最終的に伝わることがおかしくなるじゃないですか。
いしまる:翻訳本ならではの苦労ですね。
「世界で最も」とか「世界で一番」といった複数の書籍が出ていますが、これらのシリーズはどのように始まったのでしょうか?
関根:私の入社前なので定かではありませんが、おそらく最初に成功したのは2011年に出た『世界の夢の本屋さん』で、それがすごく売れたので、同じようなタイトルを付け始めたのだと思います。
『世界の夢の本屋さん』もそうですが、『世界の最も美しい大学』は、すべて撮り下ろしの写真です。大学に入って撮影というのはなかなかできないので、類書はないと思います。
いしまる:中に出てくる教室とか食堂とか図書館があまりにもすごすぎて。日本の大学のことを思い浮かべると、だいぶ文化が違うなと。
関根:そうですね。中には解剖台があったりね。
企画の段階では日本の大学もリストに入っていたみたいですけれど、残らなかったみたいで。
いしまる:どこですか?
関根:確か東京大学だったと聞いています。
いしまる:東京大学も日本の中では古くて立派な校舎や図書館がありますね。あと、東京大学などの旧帝国大学の卒業生のために1928年に作られた「学士会館」は、ビリヤード場とかがあって。今は一般にもレストランとかが開放されています。1920年代の校舎とか施設も持っていて、さすがだなとは思いますが。
この本は、どういう方に見てもらいたいと思いますか?
関根:誰でも名前を聞いたことがあるような大学が載っているので、多くの人が楽しめると思います。建物が好きな人には見てもらいたいのと、大学関係者にも、ぜひ、見て頂きたいです。
いしまる:パリ大学のソルボンヌ校の大講堂とか、まるで舞台のようなところで。ここで講義ができたら緊張感もあって、先生も嬉しいと思うのですよね。おもしろい授業をやらなきゃと気合いが入るでしょうし。
最近、アニメとかでもこういう中世的な場所が出てくるものもあるので、アニメーターの方にも参考になるだろうなと思いました。
関根:資料になるでしょうね。図書館とか美術館の本はよくありますけれども、講堂とか、食堂とか学校ならではの場所が出ていますので。
オックスフォード、ケンブリッジくらいはガイドブックにもありますけれども、プリンストンやスタンフォード、イェールなどは名前を知っていても、内部を見たことのある人はなかなかいないですよね。
いしまる: 歴史ある建築だけではなく、現代の、例えば、磯崎新さんが設計したカタール大学とか、SANAAが設計したロレックス・ラーニングセンター、2014年にできたザハ・ハディド設計のベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス研究所とか、シカゴ大学のところにはフランク・ロイド・ライト設計のプレーリー邸が出てきたり、古いものから現代のものまで載っていて、それも見どころでした。
プリンストン大学では、フランク・ゲーリーの設計したルイス図書館も出ていて。ちょうどお話しを伺おうと考えていた『フランク・ゲーリー 建築の話をしよう』にも出ていましたね。
(2016年3月4日、エクスナレッジにて)