015 | 201801 | 特集 : 「造」と「材」

木造/木材のあわいを剖く
Strcuture and Material: Critiques of Timber Buildings from the Perspective of Production and Distribution
目次・前言

小見山陽介
建築討論
3 min readDec 31, 2017

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「木造であること」と「木材を使うこと」は、重なり合うが、同じではない。その曖昧さのうちに隠れていた可能性の鉱脈を描く。

目次

◼ 磯達雄/日本らしさをめぐる葛藤:新国立競技場における木造と木材
◼ 隈 太一/不揃いな木のパフォーマンス
◼ 千種成顕/新しい木造技術と廉価な建築の美学について
◼ 伊藤 暁/市場の規定力をバイパスする/異化する
◼ 権藤智之/在来構法住宅にどう向き合うか
◼ 浦部智義 + 芳賀沼整/福島県内の仮設住宅の現状と再利用に関する報告

特集前言

小見山陽介(建築討論委員会/京都大学助教)

木の構造体を不燃材で覆い隠すことで建設可能になった木造耐火建築、逆に構造体ではなく内外装に木材がふんだんに施された木質化建築。技術とともに「木の建築」の裾野は広がり、「木造らしさ」は揺らいでいる。適材適所による木「材」と他材料とのハイブリッド構造は木「造」か否か、構造種別としての木造の意味も薄れている。21世紀を象徴する建築材料として「木は新しいコンクリート」と期待され、木材に関する分野横断的な研究成果が社会に与えるインパクトを推し量るために、実験的な木造建築が世界中で次々と構想されている。そんな今だからこそ、木材/木造建築を見直したい。

森林資源の豊富な日本では、木「材」の需要を喚起する都市木「造」の隆盛は林業再生・地方創生の切り札とも捉えられている。一方、木材は世界規模でダイナミックに貿易される材料でもあり、木「造」に関わるものはみな、木「材」をめぐる複雑で広大なエコシステムの一部となる。現場に運びこまれたその木「材」は、どこから来てどんな人が携わったのか。好むと好まざるにかかわらず建築はその「物語」を背負い込む。物語の登場人物は多岐に渡り、いまや木材をプラットフォームとした協働の重要性は増すばかりだ。

木「材」の生産と流通をめぐる複雑なエコシステムに木「造」設計者は否が応でも引き込まれるが、逆にそのシステムへ主体的にコミットすることで建築と社会の関係を新しく構築することも可能だろう。長い伝統の中で培われ標準化された流通材による在来木造建築はマニエリスムに向かい豊穣と限界を迎えている。ブラックボックス化した生産・流通・施工技術の中には「再発見」の可能性が秘められていないか。木「材」の軽量性や、木「造」の解体可能性などは、現代の社会状況を背景に改めて価値を持ちつつある。

木造/木材が「新しい技術」として再発見され、建築の/建築家の概念を変えつつある今、「造」と「材」のあわいを剖いて多様かつ複雑な関係性を描く6つのレポートとともに、議論を喚起したい。

ICADA / 岩元真明+千種成顕「節穴の家」2017

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小見山陽介
建築討論

こみやま・ようすけ/1982年生まれ。構法技術史・建築設計。京都大学助教/エムロード環境造形研究所。著作:「CLTの12断面」(『新建築』連載)ほか。作品:「榛名神社奉納額収蔵庫&ギャラリー」ほか。