未来の金融 Ⅳ

〜元ヘッジファンド・ポートフォリオマネージャー、ゴールドマンサックス為替トレーダーがみるWeb3.0の世界〜

Kenji Mitsusada
Secured Finance
Published in
May 11, 2022

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本稿は、第三章 非中央集権型の金融 -Web3.0が実現する未来の金融 (1)の続きです

第三章 非中央集権型の金融 -Web3.0が実現する未来の金融 (2)

前章までで見てきたように、一部にデータや権力が集中することにより、様々な弊害が明るみに出てきている。本章では、それを踏まえて、私が参画したSecured Financeがどういった物を提供していくのかを説明したい。

目指しているものは大きく分けて三つある。一つ目は既存金融にある物をCryptoの世界に導入する。具体的には、利回り曲線とそれらをトレードするためのプラットフォームの構築である。二つ目は、新しい価値の創造である。信頼できるシステムづくりを通して、既存の金融とWeb3世界の架け橋となりたい。そして最後の目的は金融の民主化である。中央に管理する組織が無い、参加する全ての人々に直接利益を分配できるような、分散型自律経済圏を作って行きたい。

では一つづつ見ていこう。

利回り曲線とプラットフォーム

既存金融にあり、現在クリプト業界に存在しないものの一つが利回り曲線、もしくはイールドカーブである。利回りを期間ごとに繋いだ曲線のことであるが、伝統的金融における様々な金融商品の基礎となっている。

from Secured Finace

そもそも中央銀行がいないし、債券も発行されていないので、金利なんてあるの?と思うかもしれないが、事実存在する。暗号資産業界での大発明の一つにプールシステムというものがあり、それを元に金利を付与するプロジェクトがいくつか存在する。裏側では金利というよりも手数料を分配しているのだが、それらを原資として短期金利を付与している。

そのような現状の下、我々は伝統的なやり方で、短期金利だけでなく、中長期の金利を取引できる場所を提供する。イールドカーブを描ければ、クリプトカレンシーを原資産とした金融商品が組成でき、様々な投資機会を提供できるであろう。

需要はあるのか、手法はどうするのか、などは別の機会に執筆したいと思う。

信頼できるシステム

クリプトカレンシーの世界では、毎日様々なプロジェクトが勃興しては消えて行っている。崇高なビジョンのもと、素晴らしいプロジェクトを優秀な人材と作っている会社もあれば、中身や経営者が見えないまま膨大な額の資金調達に成功しているプロジェクトもある。一方で立ち行かなくなって消えていった計画も数多あるし、事実、多くの詐欺案件も存在する。また、取引所や特定のウォレットから資金が盗まれた話も未だによく聞く。

Photo by Freddie Collins on Unsplash

問題は、規制が定まっていないため、透明性と法令遵守という観点が欠けている点であろう。前項で見てきたように、伝統的金融の方向性は、透明性と規制の強化である。

ではどうしたら良いのか。実はブロックチェーン技術と透明性というのは非常に相性が良い。というのも、誰から見てもわかるように、嘘をつけないように設計されているものがブロックチェーンだからである。情報をとりに行こうと思えば、誰にでも公開されているのである。実際、ハッキングされたお金の流れを追跡することが可能である。

一方で、各国での規制が未だ定まっていないので、弊社はISDA(International Swaps and Derivatives Association)という、既存の金融機関がデリバティブ等の金融取引をする際に遵守している基準をもとに、システムを構築していくつもりである。KYC(Know Your Customer)やAML(Anti-Money Laundariny)も当然行う。各種監査も受けて、強固なシステムを構築してゆく。必要とあらばハッキングなどに対しての保険を活用するのもありだろう。

Photo by Shubham Dhage on Unsplash

同時に、効率化も実現したい。可能な限りの全てをスマートコントラクト上で実行させることにより、人間の介在する要素を最小化してゆく。当然ブロックチェーン上に書き込まれているので、誰もが閲覧可能であるし、改ざんが不可能になる。取引履歴やコンファメーションの送付、担保管理などのオペレーション全般が代替可能だと考えられる。

既存の金融機関はそれぞれが独自のシステムを開発してきた経緯があり、互換性に乏しいため、オペレーションのコストは未だに小さくない。あるコンサルティング会社のレポートによると、ISDAのワーキンググループは業界全体で50%以上もの効率化が期待できるとできると試算しているそうだ。

以上のように、信頼できる効率の良いシステム構築を通して、クリプト業界だけでなく、既存の金融機関の発展にも貢献したい。同時に既存金融からクリプトへの参入障壁を取り払い、架け橋となるようなプロダクトを育ててゆきたい。

金融の民主化

AsterのFounderである渡辺創太氏が、昨今のWeb3のムーブメントを「フランス革命」となぞらえて解説しているのを拝見した。絶対王政を打倒し、主権を人民に取り戻す、これはGAFAMに代表されるような巨大プラットフォーマーから、個々人がDataを含めた本来あるべき権利を取り戻すことに他ならない。

David — Napoleon crossing the Alps from Wikipedea

我々が目指すのは、その金融版である。Chapter 2で触れたように、中央集権型の金融の弊害は、情報の不均一性や不透明性にある。Liborの不正操作などに見られるように、不透明性を利した談合により顧客を蔑ろにすることが横行していた。また中間搾取を通して、格差を助長させ、時として分断を加速させる一因となってきた。そういった中央集権の金融システムから解放され、個々人に直接利益を還元する、透明性を持ったプラットフォームを作ってゆくのが我々の使命である。

それを達成するための一つの手段として、DAOと呼ばれる、非中央集権型自律組織が挙げられる。中央で管理する組織はなく、コミュニティに所属する投票権を持った人々により、運営されてゆく組織。誰でも参加可能なのである。そのためには我々が作ってゆく経済圏に、色々な人が参加しやすく、またみんなで育ててゆく土壌を作り上げて行きたいと思う。

是非、我々と一緒に未来の金融を育ててほしい。

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Kenji Mitsusada
Secured Finance

Head of Markets @ Secured Finance. 18 years of interest rate derivatives trading experience. Former Co-Head of G10 FX Forwards and STIR Trader at Goldman Sachs