海まで電車で5分、歩いて30分。この春から、そんなところに住んでいる。きっかり18年間、東北の山奥で育った。その後いろいろな街で暮らした5年間も、海には縁がなかった。けれどずっと、憧れていた。23歳になった私は幸運な偶然が重なり、初めて海の近くで暮らしている。
ここに越してすぐ、海の近くでアルバイトをはじめた。週に2.3回、朝の6時から9時まで。私は海を見ながら働いている。それ以外でも気ままに海に出かける。こんなにたくさん、海に出会える生活!
『かずき、来週帰ってこれるか?』
携帯電話が鳴り、手に取ると父からだった。父から電話が来る時は、大好きな横浜DeNAベイスターズが劇的勝利を収めた時か、“かぞく会議”の開催が決まった時だ。
私の家族では、“かぞく会議”がごくたまに開催される。私が記憶している中で最初に開催されたのは、私が小学3年生の夏だった気がする。当時大阪で単身中の父が、家族の住む埼玉の家で開催したものだった。その時の議論は、全員で大阪に引っ越さないか、という話だった。それ以来、私たち家族の間では、“かぞく会議”が開かれるようになった。祖父母と共に2世帯で暮…
私は、ここ最近シェアリングエコノミー(以下、SE)という分野に関心を抱いている。定義はまちまちで、主に日本では
「家で余っているものや使えていない遊休資産を活用できる」「家にあるいらないものを使ってお小遣い稼ぎができる」
このはなしの主役はハル。ぼくが約2年前から関わっていたプロジェクトを仕切る団体の代表(つまりはぼくのかつての上司であるのだけれど)の一人息子だ。
ぼくがハルを初めて「知った」のは、彼がまだ“ママ”のお腹の中にいるときだった。初めて「会った」のはこの世に生まれてから二週間後のとき。余談だが、ぼくはそのとき生まれて初めて沐浴なるものをした。指の先まで緊張しながら、一方でその重みとぬくもりを冷静に感じながら、ゆっくりとお湯をかけたことをよく覚えている。ハルはこの7月に3歳になる。
僕は散歩が好きだ。散歩はいろんなものが見られる。自分とは全く違う価値観や生活をしている人の暮らしを感じられる。…
私の母は最近、マンションの4階のベランダにプランターを並べ、野菜を育てることに凝っている。アブラムシをひとつひとつ手でつぶす。日当たりを考えてプランターを移動させる。そんな細やかな愛情で母に育てられたトマトたちはよく熟れて、毎朝10個近く収穫される。
料理をつくることと食べることが大好きな母。母のことを語ろうとすると、まっさきに浮かぶのは「弁当」なのである。
「いただきます」「は〜い!こういうの、久々だね」
日曜日の夜。久々に家族が全員揃って食卓を囲んでいたので、母はご機嫌だった。今日のメインは冷しゃぶ。我が家の定番メニューのひとつだ。茹でた豚肉にゴマだれをたっぷりつけて頬張る。
食事中に喋るのは、主に妹と私だ。学校で起きた事件の話だとか、最近ハマっていることだとか、たわいもないことを話す。母と父がそれに相槌をうつ。22年間ずっと続いてきた、我が家の日常だ。
かつて私が通っていたロンドンのフィルムスクールの授業で、“Life in a bag”という課題があった。 学校の近くの公園に行き、そこでくつろいでいる人にカバンの中身を見せてもらい、それについてのインタビュー映像を制作するというものだ。ファッション誌などで、「おしゃれ女子」や「デキる男」のカバンの中身に注目するという企画はよく見かけるが、私たちの課題では、そういう「イケてる人」ではなく、公園にいる「ふつうの人」のカバンの中身に注目することが求められた。