私が大学に入ったとき、ダンスの練習場所として先輩に案内されたのは、地元の公民館施設の敷地内の空地だった。住宅が完全に隣接しているわけではないが、少し歩いただけで大通りだ。
1人ではどうがんばってもできない技をしつこいくらいに教えてもらったり、プロのダンサーの動画を見て一緒に研究したり。こわい先輩につかまって嫌というほど基礎練したことも絶対忘れない。この場所のことを考えるといろんな人と過ごしたたくさんの時間が思い起こされる、愛着のある場所だ。
ふとした瞬間に、それまで誰もいなかった空間にいろいろな人の動きが広がってくる。そこにあるものが、その場所にたどり着くまでのストーリーを語りはじめる。あとはひたすらに耳を傾け目を凝らすだけ。
これは、私が少し前に神奈川県の「根府川」というところで寄り道をした時のこと。その日は、猿被害に困っている柑橘農家のお話を伺いにいく予定だった。集合時間までまだ少し時間があったため、散歩でもしようかと駅から出てみることにした。根府川駅のホームに降り立つと、眼下には海が広がっている。降りる人もほとんどいないようで、波と電車の去っていく音が響いている。私がいつも使う駅とはかけ離れたその景色に、気持…
私の母校は中高一貫の女子校で、軽井沢に山荘を保有している。この山荘は、主に中学一年生が宿泊して親睦を深めるためにあるが、その他の期間は卒業生が宿泊することもできる。この夏休み、部活の友人達と7年ぶりに2泊3日の山荘生活を送ることにした。
この友人達とは、6年ものあいだ、女子校という少し特殊な空間で、クラスに部活動と、たくさんの時間を共にしてきた。その中で、お互いのことをよく知り合い、素で接することのできる、気の置けない仲になっていった。一緒に旅行へ行ったことも何度もある。しかし、今回の旅はいつもとは少し違ったものとなった。
スマホが主要ツールとなって数年が経過した。
これまで「ケータイ」と呼ばれていた電話機が「ガラケー」と名付けられ、少数派に追い込まれていく。それと共に、最近行方不明なものがある。携帯ストラップだ。
かつて電車内では、ストラップつきのケータイが日常的に見かけられた。キラキラしたチャームを大量にぶらさげる女子高生、高級そうなレザーアクセサリーとしゃれこむ中年男性、手のひらサイズのキャラクターマスコットをつけた若者などなど。老若男女問わず、誰かしら何かしらのストラップを付けていた。
鎌倉は佐助に、ちいさな味噌料理屋がある。20人も入れば満席で、シェフと私とアルバイトがもうひとり、従業員はたった3人。だけどここには、いろんな人がやって来る。週末は日本全国、時には海外からの観光客でワイワイにぎわうし、平日は地元のおばあちゃんがゆっくり味噌を買いに来る。昼間は近所のママたちがランチでホッとひと息つく場所になるし、夜には仕事帰りの人々がちょっと一杯たのしんで帰れるバルにもなる。そして夕暮れ時には、彼らがやって来る。
「味噌のおじちゃん、いますかー!」
現在開催中のKENPOKU ART…
百貨店は高級品が並ぶイメージがあるが、デパ地下のお惣菜やお菓子なら私にでも手が届く。地方の銘産が並ぶ特設コーナーが開かれていようものなら吸い寄せられずにはいられない。威勢の良い掛け声や匂いに釣られてついつい足を運んでしまう。
恩田陸の『夜のピクニック』という小説が好きだ。中学生の頃に初めて手にしてから、何回も繰り返し読んだ。主人公たちの人間関係も羨ましく思ったが、何よりも「24時間をかけて友人たちとただただ歩く」というシチュエーションに憧れた。著者の恩田陸が通っていた高校には実際に「歩く会」という行事があったと聞いて、さらに憧れは強くなった。高校生になったら、私にもこんな青春が訪れるのだろうか…と胸をときめかせながらページをめくったものだ。