巻頭言:建築の「再生活用学」試論
目次
- 巻頭言:建築の「再生活用学」試論(本記事)
小柏典華(芝浦工業大学) - 文化財修理経験者が考える民家の「復原」と「活用」と「記憶」
坂井禎介(奈良女子大学) - 文化財建造物の「活用」を見据えた日々の「課題」
高橋知世(公益財団法人明治村) - 文化財建造物の「積極的活用」と「防火対策」
稲垣智也(文化庁) - 地域資産の「活用」と既存コミュニティの「共存」
青木佳子(千葉商科大学) - 諸外国の「保存」と「活用」と「法制度」
大橋竜太(東京家政学院大学) - 文化財建造物継承への所有者の「思い」と「活用」
小柏典華(芝浦工業大学) - 編集後記:文化財学領域のPMrは必要か
小柏典華(芝浦工業大学)
[編集担当=小柏典華 ]
はじめに
我が国の文化財建造物に関する保護体制は、明治30年(1897)の古社寺保存法を基底とし、昭和4年(1929)の国宝保存法を経て、昭和25年(1950)の文化財保護法制定へと繋がっている。その後、現在まで法改正を伴いながら文化財建造物の保護は連綿として続いているのである。
文化財保護法のもとでは、木造文化圏である我が国独自の意匠・技術を体現した木造建築のほか、近代以降に形成されてきた木造以外の構造躯体を有する建築の保護にも取り組み、今日では多様な文化財建造物を我々は共有することができている。
これらの建築は、「特別保護建造物」として建築の「保存」を主体に始まった古社寺保存法から、「保存」対象の拡大を経て、「文化財」の概念形成と共に建築の「保護」を優先する文化財保護法がスタートした。「保護」の概念には、「保存」・「活用」の2つのステップが含まれてはいたものの、戦後や高度経済成長の時代背景から比較的「保存」に重きが置かれ、「活用」は自助努力といった感覚が強かった。
それが平成30年(2018)の文化財保護法改正で、「保存しながら活用」を推進する法的な枠組みが組み込まれることになった。つまり従来の「保存」を重視する体制から、「保存」と「活用」のバランスをとっていくことが必須となった。
明治期に建築保存・修理に取り組んだ伊東忠太や関野貞らは、古建築の修理や保存に正面から向き合うと同時に、自身も建築家として設計作品を残している。彼らの古建築に対する造詣は設計活動としてアウトプットされている。築地本願寺や奈良県物産陳列所をみると、単に歴史からインスピレーションを受けるにとどまらない、つまるところ古建築の「保存」と「活用」を踏まえた設計実務に、すでに取り組んでいたとも言い換えることが可能である。
明治期の日本は文化財建造物の表現において、形式ばらない「保存」と「活用」がせめぎ合う時代であったと思う。
試論集の提起
「活用」を考える時に、現在は個々の提案で完結しており、各種学会・研究会でも個別蓄積が大切である、という従来の見解の延長で留まっている。文化財保護法の改正より5年が経つことから、従来の「活用」の取り組みをまとめ、そのスタンスからどのような今日的課題があるのか、専門学問として検討を始める時期にあるのではないだろうか。
そこで本特集では、平成30年の文化財保護法改正から「活用」待ったなしの状況である現状を踏まえて、『建築の再生活用学』と題し、将来的に新たな学問領域の提案に挑戦することを目標とし、様々な視点から試論を展開する記事を寄稿いただいた。
従来の「保存学」に対して、「活用学」にはどのような展開の可能性があるのだろうか。例えば、保存と活用を共存させると言いながらもそのゾーニング(物理的境界や生活空間の境など)は複雑である。また、指定文化財は建築基準法3条適用除外ではあるものの消防法との関連は不可欠な課題であり、規制緩和が設けられつつも意外と縛りが大きい。さらに、文化財の「保存」概念を西欧諸国から学んだ我が国は、「活用」についてもう一度西欧諸国から学ぶ機会を得るのも有効である。
『建築の再生活用学』を考えていくにあたり、そのきっかけとなる知見が見つかれば幸いである。■
目次
- 巻頭言:建築の「再生活用学」試論(本記事)
小柏典華(芝浦工業大学) - 文化財修理経験者が考える民家の「復原」と「活用」と「記憶」
坂井禎介(奈良女子大学) - 文化財建造物の「活用」を見据えた日々の「課題」
高橋知世(公益財団法人明治村) - 文化財建造物の「積極的活用」と「防火対策」
稲垣智也(文化庁) - 地域資産の「活用」と既存コミュニティの「共存」
青木佳子(千葉商科大学) - 諸外国の「保存」と「活用」と「法制度」
大橋竜太(東京家政学院大学) - 文化財建造物継承への所有者の「思い」と「活用」
小柏典華(芝浦工業大学) - 編集後記:文化財学領域のPMrは必要か
小柏典華(芝浦工業大学)