回答|中田裕一

202007 特集:自炊のように作る、賄いのように作る、 ビルドにコミットする建築家たちへの基礎調査

Q.1|自分で作った作品画像をご紹介ください

西三田団地
みどり to ゆかり
Handi Labo

Q.2|上記の際に描いた図面(画像)をご提供ください。
普段の図面と違うところ、例えば増えた要素、減った要素は何でしょうか?

Handi Labo 妄想図

「妄想スケッチ」
オフラインでHandi Laboというリアルな場。
オンラインでHandiLabo onlineというネットワークを形成。
「家を趣味にしよう」という合言葉のもと、継続的に家づくりに住まい手、自らが関わる工作的スタンスを育て、「まだ誰も知らない、もっと楽しい生活をつくりだす」
ハンディハウスという新しい住まいの文化創りをしていきたいと考えている。

Q.3|作るための道具・設備の画像をご提供ください。
その道具によって生まれる制限や表出するものは?
また素材との関係性もあればお答えください。

インパクト、丸ノコ、手ノコ、ハンマー等々。

素材は木が加工しやすく、あらゆることに使えるので、好んで使う。(下地も含めて)

繰り返しの形状の梁等の時は、shopbotを使用することもある。

施主参加の工事の時も、あえて、プロと同じ工具を使う。子ども参加の時も。

慎重に道具を扱えば、怪我しない。怪我をすることが多いのは、少し作業に慣れた人。

序文

そもそも、建築に完成というものはない。

設計デザインをして、図面通りにつくられても、つかう人、住う人は様々であり、その人々は、歳を追うごとに変化する。

とすると、終わりなきものとして建築を捉える方が、よいのではないだろうか。

しっかりと計画され細部までデザインされた建築は、カッコいいしスマートだ。

しかし、建築とのヒトとの間に距離がある気がして、近寄り堅いという面もある。

料理であればフルコース。一流の贅沢な料理もある。

一方で、家庭的な家族や友人とつくる料理もある。

前者は、素晴らしい。後者は、その食べる人たちだけのオリジナルな料理。そこには失敗もある。けれど、その時々、アレンジをしながら、美味しい料理へとつなげていくことができる。

また、共につくることで、プロセスもまた楽しめる。

僕らは後者の建築を提供したい。

施主=プロジェクトオーナーと共に一緒に考え、つくることで出来上がるおいしさがある。

そして何より、その経験は自分のこれからの活動に大いに役立つ。

Q.4|自分で作る上で、流通、材料、既存建築物、立地、施工者、施主など制作を取り巻く要素との関係性、 あるいはその変容はどのようなものでしょうか?

HandiHouseprojectハンディハウスプロジェクトは、2011年1月に始動した。合言葉を「妄想から打ち上げまで」とし、施主=プロジェクトオーナーと共に、妄想段階から企画、設計、施工、打ち上げまでを一貫して行うチームである。新築設計もするし、解体工事、木工事、下地工事、塗装工事、フローリング貼りまで行う。設計者+多能工のチームである。

チームができた当初は、メンバーの誰一人、職人修行をしたものは、おらず、試行錯誤を経て、現在に至っている。

メンバーは、アトリエ設計事務所や組織設計事務所で意匠設計をしていたもの、施工会社で現場監督だったもの、教師から転職してきたメンバーもいる。

僕は、建築学科卒業後、現場の係員として、施工会社で新卒から独立するまでの、5年間働いた。主に集合住宅、個人邸の新築工事現場を担当。その中で違和感に感じた事が3つあった。

1つ目は、施主と職人の距離感。

施主は、設計者や現場監督と会話するが、実際にどんな人たちが工事しているかは全く知らない。

職人は、図面通りにつくることに努めるが、誰のために、どのように建築が使われるかは全く知らずに働いている。施主設計施工に絶対的な縦列ができている。

2つ目は、良いところしかみせない。

施主や設計者が現場に来る時、係員の仕事は徹底的に現場を掃除する事だ。

現場を整えて、進捗を報告する。良いところしか、みせない。でも実際、現場はハプニングだらけ。日々コツコツと作業した過程の積み重ねで建築はできている。けど、施主は知らない。

3つ目は、工程が重視されるつくり方。

なるべく早く、スピーディーに如何に効率よくつくるか。利益追求のためにおこなれている。

早くつくる事ももちろん、大切だ。しかし、工期を重視するあまりに、職人からアイディアがでても反映されることはない。フィードバックされる時間もない。一方通行のモノづくりが進んでいく。

独立するにあたり、なんとか、この違和感を解消したいと考えた。

西三田団地

きっかけは、自分で住む場所を自分で設計し、つくった事。築45年の公団の分譲団地の一室。

自分で間取りを考え、材料を決め、セルフビルドでリノベーションをした。

自分のプロジェクトなので、1〜3の違和感の逆をやってみることにした。

1つ目は、施主と職人を一緒にやること。自分と彼女がどのように住むか。をとことん、考えて製作した。毎日、現場に通い、進捗を記録した。

2つ目、施主やその周辺を巻き込む。自分自身が施主だが、毎日工事に参加できない、彼女に土日の工事参加をしてもらったり、友達に壁塗りを手伝ってもらったりした。

汗だくで天井の既存塗装を剥がしたり、カビだらけのボードを剥がしたり、良いところだけでなく、全てを共有するようにした。

3つ目、わざと手間のかかることをした。

時間はたっぷりあったので、現場で木材を並べて、寄木細工のように材を集めて床を構成した。わざと手前のかかる方法で、ここでしかできないモノをつくろうと考えた。

また、現場で工事をしながら、壁の色を決めたりした。

この時、経験した事が「楽しかった」

出来上がった空間へ、住む前から「愛着がわいた」

建築という高い買い物をする施主=プロジェクトオーナーがこれを体感しないのは、「もったいない」と感じた。

その想いから、HandiHouse project が始動した。

Q.5|そこで得たフィードバックやループはどのようなものですか?これまでの建築や設計を変えるような可能性をお答えください。

設計施工施主の3者は縦列にしないこと。あくまで施主を真ん中にした、共同者ととらえる。

ここがまずスタート。設計側がつくってよし。施工側が設計をしてよし。

プロジェクトオーナーは尚更、すべてに参画すべし。境界を超え、混じり合ったところで新たな価値、新たなアイディア、新たな建築が生まれていくと考える。

みどり to ゆかり 施工風景

例えば、団地の足元店舗に地域住人のサロンをつくったプロジェクトがある。(みどりtoゆかり)

平日は、我々が施工。土日を使って、団地の住民、近隣住民が工事参加できるようにした。今週はフローリング貼り。今週は、塗装工事。等、掲示板にお知らせを出して、参加者を募った。

工事参加する中で、住人同士、プロジェクトオーナー企業の社員が自然と話すようになる。

地域のニーズも自然と聞こえてくる。このプロジェクトでは、当初なかったキッチンを新たに計画し、カフェ機能も併設することとした。共働することで、その場をみんなでつくっていく関係が芽生え、大人も子どもは自分がつくった場所を友達に自慢する。運営開始前から、その場、プロジェクトにファンができていく。過程を経験することで、その後の建築との関わり方も変化する。

材料は、ネットでビス一つからユニットバスまで。ありとあらゆるものが買えるようになっている。情報は溢れ、世界のデザイン事例や施工方法も調べることができる。

もはや、そこは誰しもが参照、共有できる部分であり、何をつくるかというと、プロジェクトオーナーと共に場を通じた体験をつくるということになのかもしれない。

職人と設計者と施主の垣根は曖昧になり、交わる過程を共感一体化することで作られるものは、生き生きとした建築となる。境界がなくなることによって、よりコミュニケーションは密になりお互いを想い、一つのゴールを目指した一つのチームとなっていく。設計者か施工者か、白か黒、0か100は2パターンしかない狭い世界ではなく、その間にあるものは無限大。その無限大な世界のどこに着地するかは誰もわからないが、みんなが納得するところを目指す。目指す部分も変化する。そういう答えを一緒に考え模索していく過程が、建築が竣工した後の建築を未完なものとしてつくり上げることができると考えている。

都市と地方、通勤とテレワーク、新築とリノベーション、働くと暮らし、様々な環境はネットワーク社会により、変化している。

重要なのはその変化を受け入れ、これまでのつくり方を再構築し、新たなつくり方を模索すること。どれが正解でもなくどれも正解なのだが、探し出す過程を追求していく。

DIYは、失敗を恐れないで、実験できる。

Q.6|自分で作るにあたって不確実性をどのように捉えますか?例えば問題が発生した際の解決策で特徴的なことは何ですか

確実なものが正ではない。むしろ不確実こそ正としてみる。

昨日まで当たり前だったものは、一瞬にしてそうでなくなることもある。

不確実を受け入れることのできるものをつくること。プラスになっても良いし、マイナスになっても良い。その不確実性におもしろさを見出し、目指していくこと。

暮らし方、働き方の変化により、考えも変わる。

問題は建築の不確実性を設計者が排除しまうこと。すべてを解放し、同じステージに立てば、違う視点で建築を捉えることができると考える。

自分でつくることで、失敗を許容できる。プロジェクトオーナーも一緒に建築ができる過程を共有することで、クレームが減った。

全員がつくる行為をしなくても良い。体験や経験、現場で一緒にずっとつくるのが理想かもしれないが、実際のところそのような時間を取れる人はなかなかいない。

SNSを活用し、その日の状況や考えを写真や文章で共有する。

毎日仕事帰りに現場によることは難しくても、スマホで逐一状況を把握することができる。

これもひとつの体験である。大事なのは任せきりにならず、プロジェクトオーナーも、自分ごととして捉え、自分の意見をだすこと。僕らもそれに精一杯応える。

電動工具やちょっとした工具はどの人も持っていて欲しい。我々と共働したプロジェクトオーナーは、どのようにつくられているか、知っているから、多少の不具合は自分で解消できる。

HandiLabo(我々の工房兼オフィス)は、電動工具とホームセンターやネットで買える材料だけで、できている。マネできそう!つくってみたい!と思わせられる事は、工作的スタンスの人を増やすきっかけになる。

見積も詳細につくる。材料単価、数量、人工、経費。我々がこのプロジェクトでいくらを利益にするかも宣言している。そうすることで、現場段階での変更にも柔軟に対応できるようになる。

細かくプロセスをオープンにすることで、不確実のまま、現場をすすめる余白をつくることにもなる。

また、住まい、場をもっと主体的に考えられる人を増やすために、日本の賃貸住宅を変えたいと思い、DIY賃貸住宅の企画・設計・施工・運営をしている。賃貸住宅に余白をつくり、自分らしい住まいをつくるきっかけをつくっている。

自分らしい暮らしができること・人をひとりでも多くつくることが僕らハンディハウスの使命だ。

Handi Labo

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中田裕一/中田製作所/HandiHouse project
建築討論

施工会社勤務を経て、中田製作所を設立。2011年「妄想から打ち上げまで」という合言葉のもと、デザインから工事のすべてを自分たちの「手」で行う集団HandiHouse projectを始動。2013年 SDレビュー入選。2014年2018年 東京建築士会 これからの建築士賞受賞。