回答|荒木 源希

202007 特集:自炊のように作る、賄いのように作る、 ビルドにコミットする建築家たちへの基礎調査

Q.1|自分で作った作品画像をご紹介ください

事務所の仕事なのでどれも自分ひとりで作ったものではないのですがご紹介します。

①極楽寺の家(2019)(★1)

新築木造住宅の計画。外壁のフレキシブルボード下見張り、杉板下見張り、ドアハンドル、薪ストーブ周りの土レンガ、キッチン・浴室のタイル製作、壁・天井の珪藻土、間仕切りの棚など、多岐に渡って施主と素材の製作、施工を行った。写真はリビングとキッチンの間に製作した棚。既製品の支柱を使用し、棚受けをラワン無垢材で製作し、可動棚とした。

②西船橋の団地リノベーション(2015)

アラキ+ササキアーキテクツ(以下A+Sa)の賄いプロジェクト「モクタンカン」(★2)のアイデアが生まれた物件。自宅兼オフィスで、施主より単管でインテリアを作りたいと要望をもらい、オフィスを単管、リビングをモクタンカンで構成した。写真はモクタンカンをどう使うか、現場で検討している場面。

③事務所のキッチン(2016)

事務所では当番制で昼食を作ってみんなで食べている。そんな自炊の為の自炊家具である。入居時にキッチンがなかった為、施工担当スタッフが自炊してくれた。水栓は仮でホースをつけたが、思いの外気に入ってしまい今もそのまま使っている。

④atelierBlueBottle作業場(2019)

自宅兼作業場を設計させて頂いたご縁で、新しい作業場をモクタンカンで作った。アウトドア用のザックのデザイナーであり職人である施主との即興的な作業で施工した。ザック製作作業の動きに合わせて、有孔ボードやパーツケースを事後的に増設してカスタムしている。作業風景が似合う空間となった。5mを超える天高いっぱいに棚を設置するため、モクタンカンで櫓を組んで作業した。

Q.2|上記の際に描いた図面(画像)をご提供ください。
普段の図面と違うところ、例えば増えた要素、減った要素は何でしょうか?

①極楽寺の家:リビング棚詳細図

支柱の長穴を利用してボルトと鬼目ナットでラワンの角材を棚受けとして固定している。長穴のピッチで棚の高さを変えられる。支柱はL字なので、横に並んだ穴で棚受けを取り付ければ棚板の高さを揃えることもできる。実際は支柱を建築の柱や梁に固定しているが固定位置の指示など細かな情報は書いていない。

②西船橋の団地リノベーション|モクタンカン壁面収納

あまり特別なことはないかもしれない。現場の寸法と、組み込む既製品のスチールラックの寸法に合わせて施工する為、あまり細かな寸法は入れていない。既製品のラックの図面の方がむしろ詳細に作図しているところが面白いところかもしれない。現場で作業しながら決めたいことを書き込んでいる。

③事務所のキッチン|図面無し

自炊はレシピが無いように、自炊家具に図面らしい図面は無い。レストランの賄いレシピ集が人気なように、建築家の賄い家具レシピ集ができたら喜ばれるかもしれない。でもレシピにした瞬間、賄いではなくなる気もする。

④atelierBlueBottle作業場|図面無し

即興的に作る場合は図面らしい図面が無い。メモ程度のもので部材の大まかな量を把握した上で、少し余裕を持って準備する。

Q.3|作るための道具・設備の画像をご提供ください。
その道具によって生まれる制限や表出するものは?
また素材との関係性もあればお答えください。

・工房:事務所の工房。元は1室だった部屋に間仕切りを立てて仕切った。主に木工作業だが、塗装や左官のサンプル製作も頻繁に行う。製作専門のスタッフが1名おり、依頼して作ってもらうことも多いが、それ以外のスタッフも日常的に引き手・手すりのサンプルや左官のサンプル製作を行っている。その時必要な道具を徐々に整備してきたが、自前で整える範囲では今くらいが過不足無く良い塩梅かもしれない。

・治具:モクタンカンに溝などの加工をする際に使う治具。これのお陰でトリマーでまっすぐな長い溝を掘ることができる。大袈裟な設備が無くても適切に作業環境を整えることで納まりや表現の可能性が広がる。また治具自体の機能美からも刺激を受ける。

・ミニバールとミニほうき:手の一部のように多用する道具。ミニバールは汚れをこそぎ落としたり、テコに使ったり、使い道が多くてとても便利。ミニほうきは作業台の上や作業部周りをちょっと掃除するのにちょうどいい。手の一部、体の一部のように使える道具が増えると作れる物の可能性も広がるのだろう。現場で大工を観察すると丸ノコも手の一部のように扱っている。

Q.4|自分で作る上で、流通、材料、既存建築物、立地、施工者、施主など制作を取り巻く要素との関係性、 あるいはその変容はどのようなものでしょうか?

「作る練習」

私は大学では構法の研究室に所属した。それは建築を構成する方法、物の成り立ち、作り方を知りたかったからである。そして建築の設計も、最終的には形あるものを施主・施工者と作り上げるという意味で、広くは作ることと認識している。

我々A+Saは”Hands-on”approach「手で考える」という設計理念を持ち、上記の様に事務所の工房で物を作りながら設計をしている。頭で考えたことと手で考えたことを融合させ、思考の幅を広げるのが目的である。自分達で物を作ることの効果や意味は、後述の例を含め様々だが、根本的には「作る練習」をしていると考えている。日常的に物を作ることで、素材に触れ、加工し、特性を知り、デザインにフィードバックする、という作業を繰り返し、設計の可能性を広げようとしている。

そして自分達で作ることと同じくらい、職人との共同作業も多用しているし、重要と考えている。職人特有の論理・合理性・所作みたいなものに触れたい、少しでも身に着けたい、と思っているからである。それは、間接的に「作る練習」をしていると言える。大工、基礎職人、家具職人、アイアン職人、レーザー加工業者、メッキ業者、粉体塗装業者、建材業者、建材メーカーなど、様々な職人、業者のお世話になっている。また、同じあるいは似た職種の職人や業者とも、複数のお付き合いをしていて、作るもの、場所、元請け施工者、施主、我々の事情などなど、様々な状況に応じてその時に最適なネットワークを選択するよう心掛けている。モクタンカンを例にすると、複数の産地で生産ができる状況を確保しており、基本的にはモクタンカンに細かな加工をする際はA+Saで行うが、納品先が産地に近い場合などは産地に加工を依頼することで不必要な輸送を省く形を作っている。

初期の仕事では、あらゆる分離発注を駆使し、可能な限り自分達で現場施工をしていたし、それに意味があるとも考えていたが、設計の時間が無くなるという本末転倒もあり、徐々に工房での製作にシフトした。その背景には上記のような職人ネットワークが成長したことも一因ではないかと考えている。ネットワークの成長に合わせて、徐々に「全てを自分達で作らなくてもいい」という感覚が増した。そして今は職人ネットワークで大概のものは作れる気がしている。

流通に関する印象的な出来事は、新たな職人・業者を開拓した時のことである。それまでにやったことのない技術を取り入れたい時、普通にインターネットで検索して、上位にヒットする業者に電話をしている。その結果何度か素晴らしいパートナーに出会っている。当たり前のことではあるが、自社のウェブサイトで分かりやすい情報を発信し、検索でヒットする努力をしている業者は、求めている人の役に立ちたいと思っている訳で、コンタクトを取った際のやりとりが非常にスムーズであった。気難しい職人の多そうな世界で、良好な関係を作ってこられたのも「作る練習」のひとつの成果と思っている。

Q.5|そこで得たフィードバックやループはどのようなものですか?これまでの建築や設計を変えるような可能性をお答えください。

建築や設計を変える端的な例としては、規模が小さく予算の限られた物件でも新しい素材、オリジナルのプロダクトを作れることである。その結果今までにない、そこにしか無い空間を作ることができる。規模は小さく無いがオリジナル素材の好例としては、中村拓志&NAP建築設計事務所のオプティカルグラスハウスが思い浮かぶ。光学ガラスのブロックをオリジナルで開発し、他には無い空間を実現している。我々も稚拙ではあるが、モルタルブロック、泥コンクリート、敷地の土レンガ、リサイクルガラス、モクタンカンなど、自力で開発し、施工してきた。

網代の家(2014)★3。薪ストーブ周りの遮熱壁に用いた日干しレンガのサンプル。敷地の土を用い、セメントの配合量で、質感・かたまり具合・硬さ・色味・施工性などをスタディした。

とは言え、オリジナルであることが必須であったり、最善であるとは考えていない。一般流通している既製品の持つユニバーサルな知恵を利用することも、ひとつの面白い表現であり、大好きなアプローチである。例えば、最近の仕事でダウンライトをダウンライトとしては使わず、合板と組み合わせてシーリングライトのように使ったことがある。そのような製作物のとき、施工者に「作れない」と断られることがあるが、承認図を読み込み、必要なパーツを我々が製作または製作手配をすることで対応してもらっている。既製品のカスタムは、軽快さや親近感を与え、「物」がそれを使う人にグッと近づくような、または行動を喚起するような効果があるのではと考えている。

モックアップにおいては、自分達でモックアップを製作することで、スピーディに設計に根拠と責任を持って、施主、施工者に提案、説明することができている。その結果、前例の無いもの、形状的に説明が難しいものなどを正確に形にすることができる。今回の事例には載せていないが、海外の仕事においても、事務所でモックアップを製作し、図面とモックアップの写真を使って伝えることで、とても細かなディテールを実現できたこともあった。

「作る練習」や職人との共同作業を通し、職人と共通言語を手にした感覚を持つことがある。共通言語を持つと職人との距離感は縮まり、少ないコミュニケーションで正確に会話ができるし、お互いの力を引き出しあい、その先に進めるような気がしている。職人の技術は空間の質に大きく影響する。それなので職人との対話の質は確実に出来上がる空間に影響すると思っている。これも自分で作ることの延長線上にあることではないだろうか。

Q.6|自分で作るにあたって不確実性をどのように捉えますか?例えば問題が発生した際の解決策で特徴的なことは何ですか

はじめてのことをするときはいつも不確実性が同居する。しかし想像力を持つことで、不確実であっても実行することの価値が判断できれば決断することができる。「作る練習」で素材に触れ、その特性を知ることで、想像力の強さや幅、ベクトル、深度が鍛えられていると感じる。例えば、初期の仕事でスチールのフラットバーを溶接で組み立て、テーブルの脚を作ったことがある。フラットバーとアングルの違い、鉄の柔らかさを身をもって知ることができ、その後の設計に活かしている。自分で作っていなかったら感じることが出来なかったし、職人に同じことを言われても、どこかで「本当かな?」と思ってしまっていたかもしれない。自分で身をもって体験していることなので、失敗を施主に説明することがあっても説得力を持って説明が出来ている気がする。

また、もし失敗をした場合に、職人、施工者に依頼していた場合は「失敗」は「失敗」であり、我々が確認する前に改善されてしまうことも多いし、解決策を考えることが多いが、自分達で作っていた場合は失敗の中かから「これもいいのでは」という考えに転換することも可能である。それはある意味では妥協だが、それ以上に偶然の発見である。

そうして鍛えられた想像力によって、素材の扱い方も変わってくる。例えば、本来であれば光沢のある表情を魅力として作られた既製品のタイルに、表面に軽くサンドペーパーでヤスリをかけることで、光沢が落ち着き、深みのある光の反射を得られたことがある。派手さは無いが使う人の知覚に作用するような、繊細な仕上げができたと思っており、これも「作る練習」の効果と考えている。既製品や与えられたものを疑い、手を加えることに抵抗を持たず、「やってみる」。そんな心持ちをベースに持ちたいのである。

困ったとき、何かが違うと思ったとき「自分達で作ります」と言ってしまうことがある。そう言えることで、ちょっとした違和感を放置せず、その時の状況に合わせた対応が出来ているし、そう言えること自体で多少気持ちにゆとりを持てているのかもしれない。(この対応方法自体に賛否あると思うが)この「自分達で」は「全てを自分達で」という意味ではなく「自分達の範疇で」というくらいの意味である。職人ネットワークで作れるものが増えたことで、そのように言えるようになってきた。

★1:http://arakisasaki.com/portfolio/w_201/
★2:モクタンカンは仮設足場で用いられる単管パイプの規格サイズ、φ48.6mmで削り出された木製の単管。クランプやジョイントといった豊富なパーツによる単管システムの拡張性はそのままに、木の魅力を活かしたDIY建材。 http://moktankan.com/
★3:http
://arakisasaki.com/portfolio/063w_ajiro/

回答者

荒木源希|家成俊勝岡啓輔佐藤研吾長坂常中田裕一山口純和田寛司

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荒木源希/アラキ+ササキアーキテクツ
建築討論

1979年東京都生まれ。株式会社アラキ+ササキアーキテクツ代表取締役。東京都立大学大学院建築学専攻修士課程修了。2004-07 アーキテクトカフェ・田井幹夫建築設計事務所勤務。2008-アラキ+ササキアーキテクツ一級建築士事務所共同主宰。東京都立大学非常勤講師。「朝霞の3棟再整備計画」住宅建築賞奨励賞受賞(2020)