回答|佐藤研吾

佐藤研吾
建築討論
Published in
Jul 2, 2020

202007 特集:自炊のように作る、賄いのように作る、 ビルドにコミットする建築家たちへの基礎調査

Q.1|自分で作った作品画像をご紹介ください

喫茶野ざらし(2020)の正面玄関ドアハンドル。丸鋼Φ9mmを支持体として真鍮を接合鋳造し、鋼製建具(観音扉)枠に溶接。鋳造後の研磨による若干の加工を想定していたので、鋳造方法は発泡スチロール系の原型を用いたフルモールド鋳造法を採用している。

喫茶野ざらし(2020)の正面玄関ドアハンドル 写真:comuramai
喫茶野ざらし(2020)の客席 写真:comuramai

喫茶野ざらし(2020)の客席。座席を背もたれとスツール椅子それぞれに分け、背もたれを造作。腰壁の天板(クリt45mm)に丸鋼Φ6mmを3本組み合わせた支持体を固定し、背もたれとなる藍染めクッションおよびクリ板t25mmを支えている。クリ材は製材所で丸太を賃引きし鉋で整えたもの。藍染め布は筆者が所属する福島県大玉村で藍の育成と染めを行う共同制作体「歓藍社」での制作。

丸鋼の支持体が有機的曲線を描いているのは、水平方向の荷重に対して粘りを出すためと、角度を指定しない曲げ加工の技術的な容易さから。スツール椅子は古家具屋で購入。

(共同制作者:渡辺未来、河原伸彦)

「囲い込むためのハコ1」(2018)

「囲い込むためのハコ1」(2018)。木製写真機、ピンホールカメラである。ハコの背面の板をスライドさせ、内部に印画紙を貼り付け、前方の小さな穴から風景を撮影することができる。露光時間は晴れの日でおよそ20分。大部分がクリ、部分的にナラを用い、木材の製材および仕口加工を行った。指物のような緻密な納まりは技術的に困難であるので、むしろ農機具、民具に用いられている簡易なホゾ組み、楔の技術に倣い、各所を取り合わせている。

Q.2|上記の際に描いた図面(画像)をご提供ください。
普段の図面と違うところ、例えば増えた要素、減った要素は何でしょうか?

図面とはそもそも、設計者自身が内容を練るため、そして施工者他にデザイン内容を伝達するためにある。設計者と施工者が同じ主体である場合には、限りなく前者の意図が強くなるだろう。また図面作成と現場制作との間をなんども往復するため、その速度を担保するためには簡易な手書きの図面、スケッチのほうが効率的であり、また情報の蓄積を痕跡として残すことができる。

自主施工をこなしていくと、次第に図面を描かずとも現場制作ができてしまうようになる。けれども、モノの質、思考の深度を保つためにも、なるべく現場作業の傍らで図面作成、スケッチ描画を怠らないように気をつけたい。

そして、そもそも自主施工を行う大きな目的は、制作技術の限定性と使用素材への直接的な感受を持ち込むことで、自身のデザインの展開の幅を広げるためにある。

Q.3|作るための道具・設備の画像をご提供ください。
その道具によって生まれる制限や表出するものは?
また素材との関係性もあればお答えください。

現在、福島県大玉村に制作拠点がある。写真は金属鋳造のための自作の溶解炉。2019年に開校した「荒れ地のなかスタジオ/ In-Field Studio 2019」にて、参加者とともに制作した。耐火レンガを積み、下部に薪燃焼スペースと、上部にコークス燃焼用の坩堝設置スペースがある。近隣のスクラップ業者から真鍮、銅のクズ材を購入し、この溶解炉を用いて鋳造している。鋳造方法についてはネパール・パタン市内での仏像鋳造工場にておおよその工程を知り、この拠点で実験を続けている。なお、この炉では鉄の溶解温度までは上げることはできないので、鉄は鍛造、あるいはアーク溶接の作業のみとなっている。

Q.4|自分で作る上で、流通、材料、既存建築物、立地、施工者、施主など制作を取り巻く要素との関係性、 あるいはその変容はどのようなものでしょうか?

重要なのは、設計者がいかにして建築の全体あるいは部分にかかる請負工事をおこなうかということだと考える。施工および部品制作・加工の一端を担うことができれば、その一連の供給システムの再検討を促すことができるし、またデザイン提案を伴う別種のシステム構築のきっかけを作り出せる。設計と施工それぞれのフェーズを十分に行き来しながら工事を進めていくためには、設計者と施工者、そして施主との強固な連携が必要であるが、その連携体制が未整備の場合には、設計者がまず進み入って、工事にともなうそれぞれの共同の可能性を生み出すように努めるべきだと考える。

プロジェクトの規模が大きくなったとしても、共同が可能な部分は必ず在るので、その手がかりを探すところから設計デザインは始まる。つまり制作プロセスのあり得る工夫を検討し、それを実現させるためのデザインをまず考える。

Q.5|そこで得たフィードバックやループはどのようなものですか?これまでの建築や設計を変えるような可 能性をお答えください。

設計者による自主施工、部品制作は、上記のようにプロジェクト全体の制作プロセスを都度検討するために用いられる手段であり、またそれを前提としたデザインの可能性を探るためにある。建築の設計と施工を一人の人間がまとめて抱え込むことはとても困難なことである。けれども、その困難さをいったん受け止め、制作の技術、寸法(スケール)、精度(誤差)についてのあり得る価値観を作り出していくことで、設計と施工の両立は可能であると考え、またその自主施工の範囲の設定の仕方がプロジェクト全体の枠組みの設計に関わることである。

さらに重要なのは、可能な限り、設計内容・デザインを現場で更新し続けることができるということだ。現場および制作中における扱う素材や空間から設計にフィードバックさせ、設計内容を更新していくことは、プロジェクトの質を高めていくためにとても重要なことである。それを可能にするためにはもちろん、設計内容の更新に伴う工事金額の増減を十分に把握し、調整する必要があり、設計施工契約自体にも工夫が必要であるが、自らがその工事請負の全体あるいは部分を担っていればそれは困難ではない。

これまでの建築や設計・施工の在り方と結びつけて考えるならば、上記の建築の作り方はむしろ(日本においては)近世以前の普請作業に近づいていると思われる。けれども当時ような強固な集団、組織化を目指しているのではなく、むしろ幾人かの「不完全な棟梁」が共同しているような、綻びある(=更新可能性のある)建築生産の共同体を作り出そうとしている。

Q.6|自分で作るにあたって不確実性をどのように捉えますか?例えば問題が発生した際の解決策で特徴的な ことは何ですか

制作物の限界性、限定的な技術を用いた制作は、その前提となるデザイン内容との大小のズレをもたらす。両者(設計と施工)の間に生じたズレこそが、デザインのあるべき展開の可能性を示してくれる。なので、制作の限界、限定的な技術は明らかに価値であると考えている。

例えば、1.で挙げた喫茶野ざらしの鋳造ドアハンドルは、原型作り、および鋳型の制作において十分な精度を得ることができなかった。さらには溶解した金属を鋳型に流し込む際のガス混入や爆裂などによって予期せぬ形と表情に変形して出来てしまった。けれどもむしろその想定外の変形は、デザインの展開として歓迎すべきことである。そんな不確定な展開は、確立されルーティン化された制作プロセスからは生まれることは少ない。

予期せぬデザインの展開と、“デタラメ”あるいは”失敗”が意味するところの事象との間にどのような線引きを行うかは、制作者の倫理と器量に任されているところではある。しかし、基本的にはいかなる問題の発生や”失敗”に対してもその都度、批判的眼差し、自身の価値観を再検討しようとする姿勢をとることが重要であると思う。

そして、そこで新たな課題として浮上してくるのが、制作を繰り返し行い、経験を積んでいくことで、自分自身の制作技術が成熟し、「確実」なものになっていってしまうことだ。つまり、技術における専門と非専門のどちらの極にも振り切れてしまわないように、自身の制作の内容、手法を更新し続けて行かなければいけないのである。そのためには、制作の前提となるデザインの内容の硬直化を避けなければいけない。

絶えず、継続してアマチュア(熱狂者であり、半ば素人でもある)であること。それが、設計者による自主施工には必要であると考える。

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佐藤研吾
建築討論

1989年神奈川県生まれ。東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程。一般社団法人コロガロウ代表。In-Field Studio主宰。2015-Assistant Professor in Vadodara Design Academy。2016-歓藍社。2018-福島県大玉村教育委員会。2020-東京都立大学非常勤講師。