これは新事務所の工事中の風景。青山に移ってからビルの3階という環境の問題もあって5年間あまり手を動かしてモノを作るという習慣がなくなっていて、いつの間にかものづくりとという感覚から表層の仕上げを操作する設計になっている危機感があった。そして、新コロナウイルス の影響で、しばらく暇になることも予想できたので新人教育として、元スキーマ の大先輩で大工さんの高本や昔からよくお手伝い頂いている金物屋のスーパーロボットさんや電気屋の中村さんなどに所々でお手伝いいただきながら、新人を中心にセルフビルドで事務所改修に参加させた。仕事がたくさんある時であれば、我々は外で稼いで中は外のプロにお願いするというのがいいのかもしれないが、今回、仕事が減り収入が減っても人数を維持しないとならない時、セルフビルドで支出が抑えられ同時に新人の勉強になったのはタイミング的によかったと思っている。

Q.2|上記の際に描いた図面(画像)をご提供ください。
普段の図面と違うところ、例えば増えた要素、減った要素は何でしょうか?

寸法を踏まえた配置計画を行うための基本設計レベルの平面図と天伏図、建具やキッチンなど製作図よりの詳細図を主に書いた。なので、展開図や断面図、立面図などはあまり描いていない。

Q.3|作るための道具・設備の画像をご提供ください。 その道具によって生まれる制限や表出するものは?また素材との関係性もあればお答えください

本来、われわれあまり色を塗ったり、貼ったりしてデザインする方ではなく極力素材のまま、ありのまま使ってデザインする方だが、今回は元々のものがなかなか個性的な仕上げがインフィルどころか、スケルトンにまで施されていた。そこから抜け出て自らコントロールできる土壌を作るまでの作業がほぼ半分を占めたのが本計画の大きな特徴であった。また、建物が古いことから断熱性能が極端に低く、夏冬と苦しむことが予想され、それを改善させるというのがさらに大事なことでベース作りに時間を要した。また外装的にも長年かけて増築を重ね作られてきていたので、色々な開口部がちぐはぐでそれを改善するため、外壁も改めて開口するなど賃貸とは思えないほど、だいぶ手がかかっている。インフィルのほとんどの撤去、それに伴う、配線一式の敷き直し、部分的に開口部の変更に伴う外壁撤去、トイレ、キッチン関係の移設に伴う解体、床に施された不要な仕上げの撤去、どうにも剥がせないので、塗り重ねる塗装などオーバーホール的な改修となった。そのために、スクレーパー、サンダー、バール、ハツリ機、剥離剤など引き算的な道具が今回の大事なものとなった。

Q.4|自分で作る上で、流通、材料、既存建築物、立地、施工者、施主など制作を取り巻く要素との関係性、 あるいはその変容はどのようなものでしょうか?

最近はネット販売やホームセンターの充実が著しく、素人が工事をするのにしやすい環境になっていると感じる。これは建築だけでなく、衣食住、そして医療、メディア、スポーツ、教育、旅行などなどあらゆる分野で共通に言える。本人のやる気次第で色々なことが個人でできてとても楽しい時代になっていると思う。また、住環境のスマート化に伴い、よりコントロールしやすいツールに住宅がなりつつある。

昔なら業者の人に名前を借りて近くの電気屋に行って照明とかを買ってたけど、今や全部ネットで買える。トイレもエアコンも全部工務店を介さずに購入し設置まで出来る。その上、昔の家に比べ、特に我々の手がける物件はスケルトンで配線、配管があらわしになっていることが多く、建物の仕組みがわかりやすくなっているので、住民が取り扱いやすい建築になっている。

Q.5|そこで得たフィードバックやループはどのようなものですか?
これまでの建築や設計を変えるような可能性をお答えください。

そして、そのように住まい手が操作可能になることで、完成という定義が緩くなるとも思っている。どこが完成でいつ終わるのかがわかりにくくなっている。特に我々はそれが作風にまでなっていてよく「いつ終わるんですか」と嬉しそうに聞かれることがある。昔なら、~先生に設計していただいた住宅で竣工当時のまま使っていることを誇らしく思うものであったかもしれないが、少なくとも僕は使い倒され、エンドレスに変わり続ける家であって欲しいと思っている。そのためにはユーザー自身が作る力がなければならないし、必要な材料が手に入る環境でないとならない。さらにそもそもの建築を理解していないと手もつけられないので、作る過程から施主と共有し作っていくし、つくりもわかりやすいものであるべきと考えている。具体的には構造がわかりやすく、かつ、配線や配管が壁の中に隠されわかりにくいものであってはならないと思っている。新オフィスでは1階と屋外部分がまだ明確に用途が決まっておらず、実験的に使用しながら、要望を吸い上げながら不足を補い変化し続けることを考えているが、初期段階で皆で作っているので、何かプランを変更した時もすぐに自分たちで実際に手を入れ変えていくことができる。つまり、もともとの建築、そして材料などの流通環境、そしてセルフビルドする人自身、この3つが揃ってこそ変化し続ける生きた建築ができる。

Q6.|自分で作るにあたって不確実性をどのように捉えますか?
例えば問題が発生した際の解決策で特徴的なことは何ですか?

また、この新オフィスは解体も自分たちで行なっているので、我々のような非力な解体者は一つ一つ解体するたびに時間がかかり、その分色々見えてくるので途中止まって、そのつど、考え変更し対応していく。図面を書いている時には気づかなかった、計画を邪魔する、でも確実に過去に意味を持って存在していたものに解体をしながら魅了されることがある。でも、それは最近デスクトップで考えた計画にはそぐわない存在で、そのイレギュラーな存在を無視しプラン通り突き進むこともできるが、その辻褄あわせをされているデザインはどうしても薄っぺらく小さくまとまってしまう。それよりも、今までこうしようと思っていたんだけど、ふと昔に作られたリアリティに出くわし、その美しさに魅了され脱線していく。その時、作ろうとしていた顔は過去の存在に崩され、その集積がまた大きく外側で手を結び新たな関係が生まれる。それを私は「顔のない建築」といい、それは敷地を超えてまた異なる時代に生まれた建築と繋がっていく。

そんなやりとりを僕は「建築との対話」と言っていて、設計において大事にしていて、特に時代を超えて繋がるリノベーションやまちづくりで不可欠だと考えている。そうじゃないと白粉で無理やり調和を測る化粧のように、いずれどこかで新旧の境界が出てきてしまい、その中で閉じてしまい街にならない。

それに反し、白紙から立ち上げていく新築だとなかなか無駄なものが介在してこないので、つい作者の1人格で動かしずらい安定したピラミッド状態を作ることになる。ピラミッド状態を簡潔に説明しようとすると構成が重要になり、いつの間にか、それを邪魔する配線や配管が隠蔽されがちとなる。そして、揺るぎない誰にでも説明可能な構成はあまりに強く、強い主張の顔になる。数枚の写真でアイデンティティを示すには都合がいいが、毎日そこで生活するものにおいては少し威圧的で周辺の環境をおいてきてしまう。

今回の我々の新オフィスは当然「顔のない建築」を目指し、周辺との関係を作っていきたいと思っている。

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長坂常/スキーマ建築計画
建築討論

1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ。家具から建築、町づくりまでスケール、ジャンルも幅広く手掛ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求した設計で、国内外に活動の場を広げる。既存の環境の中から新しい価値観を見出し「引き算」「知の更新」「半建築」など独自な考え方で建築家像を打ち立てる。