37: 【パク食考】魚片粥

『美味しんぼ』のファンだ。 『美味しんぼ』は、新聞社に務めるぐうたら社員の山岡と同僚の栗田さんが、担当する「究極のメニュー」づくりに奔走する過程で、さまざまな背景を持った人と出会い、「食」の持つ力、「食」の世界の広がりを学んでいく話だ。

私は『美味しんぼ』にこれまで２度救われた。１度目は、フィンランドに住んでいた頃、長く暗く寒い冬の間、日本の食が恋しくてたまらなくなった時のことだ。フィンランドにも美味しい料理はいろいろあるが、家庭料理も外食も日本のほうが圧倒的に選択肢が多い。アニメ版の『美味しんぼ』を観て、日本の食の幅広さと奥深さのストーリーを、視覚的…

36: うっとりパクチー

あたらしい季節がはじまる。この時期は、土の中で芽吹きを待つ生命のようにそわそわしてしまう。気温が上がり、冬のあいだにピンと張り詰めていた空気が解凍したような感じがする。溶け出した空気の匂いは色濃くて、弾けるようなエネルギーに満ちている。私たちのパクチーも、春到来の予感にわくわくしているだろうか。先々週、大橋家に差し入れたパクチーは、カナさんが知らないあいだにユウタロウさんが全部食べてしまったらしい。パクチーたちはどんな料理になったのだろう。おいしく食べてもらえたなら、とてもうれしい。

38: あっちこっちパクチー

大学３年生の春休みが、もう終わる。のんきにしていたら、授業履修エントリーの締め切りが迫っていることに気づき、あわてて新学期の時間割を考えてみる。この作業も、(順当にいけば)今年度の春と秋、あと２回で終わりだ。私はすっかりあたたかくなった陽射しを受けながら、いろいろなはじまりやおわりを意識する。いままで経験してきたそれらも、これから訪れるそれらも。もたもたと思考を巡らす私を尻目に、パクチーはますますイキイキと茂っている。なんだか香りも強くなったみたいだ、と水をやりながら思う。その生命力におどろくと同時に、うらやましくもなった。

34: 見守られパクチー

「やばいかもしれない。」

春休みがはじまり、近頃すっかり研究室から足が遠のいてしまった。気づけば、パクチーに水をやらぬまま２週間以上が経っていた。冬の乾燥した空気にさらされて、枯れてしまっていたらどうしよう・・・。ドキドキしながら研究室に向かったが、プランターのパクチーたちは相変わらず元気にもしゃもしゃ生い茂っていた。枯れるどころか、葉は厚みを増してつやつやと、緑色を深め大きくなり、茎はイキイキと太くしなやかに育っているようだった。私はホッと息をつき、しっかり自立して成長していくパクチーのたくましさにひれ伏した。

35: 物語の中のパクチー（１）

師匠が海外への旅に出た。といっても、今度は昨年ほどの長旅ではなく数日間の旅だ。行き先は、人びとが日常的にパクチーをたくさん食べる東南アジアのほうだ。

師匠の旅の計画を聞いていたら、なんとなく東南アジアが舞台の映画を観たくなり、久しぶりに『プール』のDVDを引っ張り出してきた。物語の舞台は、タイの田舎にある、すっきりとした感じのよいゲストハウス。オーナーである京子（小林聡美）、病気を抱えながら数年前に移住してきた菊子（もたいまさこ）、雑用係の青年・市尾（加瀬亮）、母親が行方不明のため一時的に身を寄せているタイ人の男の子ビーが、一緒に暮らしている…