世間はゴールデンウィークということで、インスタグラムには各地に出かけて楽しんでいる様子の友人たちの写真が並んでいる。私はというと、複数の締め切りを目前に控え、ファミレスか自宅でパソコンとにらめっこだ。全然、ゴールデンじゃない。身動きはとれないが、せめて気分だけでも旅をしようとAmazonビデオで映画を観たら、これがなかなかおもしろかった。
我が家の窓辺のパクチーが、思いのほか順調に成長している。この栽培セットの特殊な土の威力もあるだろうが、日当たりの具合や水やりの加減、室内温度など、諸々の条件も良かったのだと思う。自分が気にかけたり手間をかけたりしている対象が成長する姿を見るのは、純粋に嬉しくて楽しい。この調子で育ってくれれば、新年に、師匠や仲間たちと味わうことができそうだ。
抜本的な改革が必要だ。パクチー育成をはじめてからもう4ヶ月が経とうとしている。涼しくなってようやく豊作の兆しを見せ、先日ついにささやかな収穫を果たした。しかし、寒暖差の激しさと季節感の不明さに動揺したのか、パクチーはまたしおしおと元気をなくしていった。なぜだろう。思い返すと今まで、水やりとか日当たりとかばかりを気にしていた。でもよく考えれば、何よりも大切なものは、土かもしれない。そこからはじめよう。私たちはパクチーを豊作に導き、仲間とともに嚙みしめる日を迎えるために、土づくりからやり直すと決めた。
「突然だけど、ガーデニングは得意?」
長旅を控えた師匠から突然のメッセージが届いたのは、6月19日日曜日のことだった。それが、研究室のテラスに私たちのプランターが誕生したことの第一報だった。6月21日火曜日に、そのプランターと初対面した。こいつは一体何なんだろう。ヒントを得ようと土をジッと見つめたりそっとさわったりしたけれど、何もわからなかった。得体の知れないプランターに対してまだまだよそよそしい気持ちだったが、とりあえず、少し水やりをした。その後も2日にいっぺん様子を見に行った。6月27日月曜日、ぽつりぽつりとキミドリ色の芽が生えてきているではないか!
これまで四苦八苦しながら育ててきたパクチーのプランターを見ると、ぐんぐん成長していた。追加でもうひとつのプランターに蒔いた種も、順調に発芽していた。
長雨が降り注ぐたびに空気はしんとして、実りの季節が深まっていく。9月14日現在、わたしたちのプランターパクチーとモバイルパクチーは、頼りないながらも生きている。実は暑さに弱いというパクチーだが、ようやく育成にちょうどいい気候になってきた。わたしは追加でたくさん、種を蒔くことにした。プランターと向き合い、雨に濡れて色濃く柔らかくなった土に触れる。人差し指でちいさいへこみを作り、紅茶みたいに優雅な匂いの種をそっと落としていく。ふと、パクチーの匂いも嗅いでみる。つつましやかな葉っぱだけれど、香りはしっかりとパクチーだ。そうして深く息を吸い込んでいると、台湾でパクチーに出会った夜が蘇ってきた…。
師匠が海外への旅に出た。といっても、今度は昨年ほどの長旅ではなく数日間の旅だ。行き先は、人びとが日常的にパクチーをたくさん食べる東南アジアのほうだ。
師匠の旅の計画を聞いていたら、なんとなく東南アジアが舞台の映画を観たくなり、久しぶりに『プール』のDVDを引っ張り出してきた。物語の舞台は、タイの田舎にある、すっきりとした感じのよいゲストハウス。オーナーである京子(小林聡美)、病気を抱えながら数年前に移住してきた菊子(もたいまさこ)、雑用係の青年・市尾(加瀬亮)、母親が行方不明のため一時的に身を寄せているタイ人の男の子ビーが、一緒に暮らしている…
『美味しんぼ』のファンだ。 『美味しんぼ』は、新聞社に務めるぐうたら社員の山岡と同僚の栗田さんが、担当する「究極のメニュー」づくりに奔走する過程で、さまざまな背景を持った人と出会い、「食」の持つ力、「食」の世界の広がりを学んでいく話だ。
私は『美味しんぼ』にこれまで2度救われた。1度目は、フィンランドに住んでいた頃、長く暗く寒い冬の間、日本の食が恋しくてたまらなくなった時のことだ。フィンランドにも美味しい料理はいろいろあるが、家庭料理も外食も日本のほうが圧倒的に選択肢が多い。アニメ版の『美味しんぼ』を観て、日本の食の幅広さと奥深さのストーリーを、視覚的…
台風も過ぎ去りおだやかな、8月18日木曜日。カナさんから、うれしいお知らせが届いた。
「発芽しているよ!」
明けましておめでとうございます。2017年もパクチー通信をよろしくお願い致します。
読者の皆さまは、どんなお正月を過ごされただろうか。わたしは実家に帰り寝正月を満喫してしまった。ぼんやりした気分を引きずって久々に研究室に足を運ぶと、パクチーは今までにないくらい元気にワサワサ生い茂っていた。