あのとき。
忘れられない光景がある。
いまから約5年前、2013年の春。ぼくは宮城県女川町に住んでいた。カキやサンマなどを名産とする、全国でも有数の漁港を抱えていた海沿いのこの小さなまちは、その前年の3月11日、津波に襲われた。広範囲に及ぶ「被災地」の中でもその被害の甚大さは際立っており、まちの家屋倒壊率は8割を超えた。
スーパーや家屋、飲食店にとどまらず、ありとあらゆるものがまちの風景から消えた。そのひとつが電車だった。隣町から海沿いを走る石巻線は、女川町の中に浦宿駅、終点女川駅のふたつの駅を構えていた。が、津波により女川駅は跡形もなく流…