私事を淡々と書いているのに、それがただのつまらない自分語りにならず、わたパチのように愉快なエンタメだったり、滋味深い薬膳鍋のようだったり、世界の深淵に通ずる扉の鍵になったりする文章がある。自分語りの「巧―拙」の間にある距離は、奈落の崖に隔たれているように思える時もあれば、気持ちよく降ったにわか雨の後の水たまりほどに思える時もあり、これを正確に表現しようとすると「時空が歪んでいる」と言いたくなってしまう。まだ崖の方が掴みどころがあるからマシだ。