〜Social Construction of “Hisashi”〜
新宿ゴールデン街という街で働きはじめてから、はや10カ月。街には50年も店を営んでいる人もいるので、10カ月やそこらではまだまだ街の新参者には変わりない。それでも、街を歩いていると声をかけてくれる人は徐々にだけれど、確かに増えた。こと自分の働いている店に関していえば、ほとんどのお客さんの顔は覚えたし(本名は知らないことのほうが多いけれど)、自分で店を開けて閉めることもときどき任されるようになった。
一人で店に立っていると、常連客に「(店長の)カンバヤシはどうしたの?」と言われ、「今日もまた遅刻してるみたいなんですよ、最近店長来るの遅くて」と返すことが、何度かあっ…
僕はいったい何十年、おなじ景色を見つづけているのだろうか。
夢うつつのなかそんなことを思っていた。日が昇り視界が明るくなると、景色のすべてが真っ白なことに気がつく。さっきまでの暗闇が、不思議な静寂をたたえていたのはこのせいか。
こんな日は、誰よりも早くヤスノリが外に出ることを知っている。隣の家の玄関から、眠そうな顔をして。より事態が深刻なときは、タミもエリコも現れる。少し前まではヤスオがこの家の玄関から、同じ道具を持って現れた気がするが。それよりもっと前は…
上京してから3年目に突入している。道産子の私にとって、関東のこの暑さは溶けるような気温だ。北海道の夏は、最高気温が25度を超えるだけで立派な猛暑日だった。しかし今では、30度を超える暑さのなかでもなんとか普通通りに生活を営むことができている。私も都会人になったのかな、なんて思いながら、私は今日も、自分の部屋のエアコンの電源を入れ、温度を下げた。
昨晩降り始めた雨は、まだ降り続けていた。
「さすがにまだ上がらないか」
トオルは空を見上げながら、誰に言うでもなくつぶやいた。飲食店向けのお肉の卸売会社に入って早4年。開店前に店の前にお肉を置いておく、そんな仕事にも、もう慣れた。けれど。余裕が出てきたからだろう、これでいいのかな、とふと思うことが増えた。店の人と顔も合わさず、ただお肉を置いて帰る寂しさを感じることもある。