国際関係論 -表紙・目次・執筆者・はじめに-

Japanese translation of “International Relations” edited by Stephen McGlinchey

Better Late Than Never
32 min readDec 31, 2017

国際関係論についての情報サイトE-International Relationsで公開されている教科書“International Relations”の翻訳です。こちらのページから各章へ移動できます。以下、訳文です。

国際関係論

編著スティーブン・マグリンチー(STEPHEN McGLINCHEY)

この電子書籍は、E-International Relations(www.E-IR.info)から無償で自由にダウンロードできます。電子形式での販売は、いかなる場合でも認められていません。

無料の電子書籍を楽しんだ場合には、私たちがオープンアクセスの出版物への投資を続けることができるように、小額の寄付を残すことを検討してください:
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「今日の不安定で動きの速い世界では、グローバルな舞台で物事が実際にどのように機能しているかを理解することが重要です。この本では、世界中の学者や実務者が集まって、重要な問題、概念、変遷過程を明確かつ理解しやすい言葉で、さまざまな観点から説明しています。国際関係の基礎を学びたいと思っている人にとって、貴重で興味深い読み物です。」
- マータ・ディゾック(Marta Dyczok)西オンタリオ大学歴史・政治科学科准教授

「私たちを取り巻く騒乱を踏まえれば、全ての人が他の場所で起こることによって影響を受けるし、誰も国際関係を理解しないでいられる余裕などありません。この本は、相互に接続された世界をどのように切り抜けるかを学ぶ上で不可欠なガイドです。」
- ムケシュ・カピラ(Mukesh Kapila)大英帝国勲章3位・マンチェスター大学教授(グローバルヘルス及び人道問題)

「思慮深く、丁寧に記述され、知的に提示された、そして、魅力的な語り口の国際関係への導入です。」
- リチャード・ネッド・リボウ(Richard Ned Lebow)キングスカレッジロンドン戦争研究学科教授(国際政治理論)

「国際問題研究の簡潔かつ包括的な入門書です。本書は、学生中心のアプローチを採用し、説得力のある事例を用いており、国際関係についての理解を促進するために不可欠なものとなっています。」
- ヤニス・スティヴァクティス(Yannis Stivachtis)バージニア工科大学政治科学科講師兼国際問題研究プログラムディレクター

国際関係論

編著スティーブン・マグリンチー(STEPHEN McGLINCHEY)

E-International Relations
www.E-IR.info
Bristol, England
2017

ISBN 978–1–910814–17–8 (paperback)
ISBN 978–1–910814–18–5 (e-book)

この本はCreative Commons CC BY-NC 4.0のライセンスで公開されています。あなたは自由に以下のことができます:

共有 — どのようなメディアやフォーマットでも資料を複製したり、再配布できます
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表示 — あなたは 適切なクレジットを表示し、ライセンスへのリンクを提供し、変更があった場合にはその旨を示さなければなりません。あなたはこれらを合理的などのような方法で行うこともできますが、許諾者があなたやあなたの利用行為を支持していると示唆するような方法は除きます。
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許可を得た場合、上記の条件のいずれかを放棄することができます。ライセンスおよび翻訳の依頼を含め、このような問い合わせは info[at]e-ir.info までご連絡ください。

上記の条件以外に、学生の学習教材/学術利用のための本書の使用と頒布に制限はありません。

第7章の諸部分は、グローバル化、多国間主義、欧州:よりよいグローバルガバナンスに向けて? (Ashgate 2014)に掲出されたものです。許可を得て使用しています。

プロダクション:マイケル・タン(Michael Tang)
編集:ジル・ガードナー(Gill Gairdner)
表紙画像:yuliang11 via Depositphotos

この本のカタログ記録は大英図書館(British Library)から入手できます。

E-IRファウンデーションズ(E-IR Foundations)

シリーズ編集者:スティーブン・マグリンチー(Stephen McGlinchey)
編集アシスタント:ステイシー・リンクス、マックス・ナーンス、カニカ・ラクラ、ロージー・ウォルターズ(Stacey Links、Max Nurnus、Kanica Rakhra&Rosie Walters)

E-IRファウンデーションズ(E-IR Foundations)は、E-International Relations(E-IR)が提供する初心者向けの教科書シリーズで、複雑な問題を実用的かつ理解しやすい方法で紹介するためのものです。各書籍は、国際関係論に関連する異なる領域をカバーします。この本はシリーズの最初の本であり、さらに他の本が続きます。

E-IRの学生ポータルでは、書籍などを見つけることができます:
http://www.e-ir.info/students

E-IRは、国際関係論を学ぶ学生のために、自由に利用可能な学術資料の最良の情報源を提供するという使命の一環として、Foundationsシリーズを開発しています。それぞれの本は書籍の状態で書店で購入することができるとともに、教科書としては独特ではありますが、ウェブやPDF形式で自由にアクセスすることができます。そのため、読者は、いかなる制限や面倒もなく、それぞれの本を手元やすべてのデバイスに置くことができます。

通常、教科書出版は教授/講師にアピールするように設計されており、入門書でさえ学生の助けとなることよりも教室で指導者を支援することを意図したものとなっています。私たちの本は、読者を予備知識がない状態から十分な能力を有するところまで移行させることに焦点を当て、学生のニーズを満たすように設計されています。私たちの本は、学生に新しい視点を提供しつつ、他のテキストを置き換えるのではなく、それらに付随することを意図しています。

E-International Relationsについて

E-International Relationsは、国際政治にかかわる学生や学者のための世界有数のオープンアクセスウェブサイトであり、年間300万人以上の読者に届けられています。E-IRの日々の出版物には、専門家による記事、ブログ、評論、インタビュー、そして学生の学習リソースがあります。このウェブサイトは、英国のブリストルにある非営利団体によって運営されており、この団体は全てボランティアである学生と学者のチームによって構成されています。

http://www.e-ir.info

謝辞

この本はE-IRの学生レビューパネルの助けがなければ不可能だったでしょう。パネルのメンバーたちは、各章の草稿を読んで、どのように改善できるかについての彼らの考えを提示するために時間を割いてくれました。パネルはクリスティアン・シェインプフラグ(Christian Scheinpflug)が議長を務め、ジャンジャ・R・アウグスティン、ローラ・カートナー、トム・カショウワーズ、キャロライン・コテット、ジェシカ・ダム、スコット・エドワーズ、フォーベ・ガードナー、ダニエル・ゴーレビュースキ、ジェイン・カークパトリック、マシュー・コー、ナオミ・マクミラン、モハマド・オスマン、ロバート・ラルストン、ブライアン・ロー、ダニエル・ロウニー、アナ・キャロリナ・サーメント、ラブリーナ・シャーマ、リュプコ・ストウコヴィスキ、アンソニー・スズレク、ジャン・タッテンバーグ、ジョナサン・ウェブ(Janja R. Avgustin, Laura Cartner, Tom Cassauwers, Caroline Cottet, Jessica Dam, Scott Edwards, Phoebe Gardner, Daniel Golebiewski, Jane Kirkpatrick, Matthew Koo, Naomi McMillen, Mohamed Osman, Robert Ralston, Bryan Roh, Daniel Rowney, Ana Carolina Sarmento, Loveleena Sharma, Ljupcho Stojkovski, Anthony Szczurek, Jan Tattenberg and Jonathan Webb)によって構成されていました。

私は、アイデアをフィードバックし、この本を進展させるために好意的な環境を提供してくれた多くの親切な行為に対して、過去および現在のE-International Relationsチームのすべてのメンバーに感謝したいと思います。この点について、E-IRの共同設立者であるアダム・グローブズ(Adam Groves)は特筆に価します。彼がいなければこのプロジェクトは実現できませんでした。

この本を構想から完成まで進める年単位にわたる過程を通じて、数多くの人々が私を支えてくれました。特にロバート・オプリスコ(Robert Oprisko)は、初期段階でプロジェクトを開始するための助けとなってくれました。私はマイケル・タン(Michael Tang)と ラン・シャオ(Ran Xiao)の友情と専門知識についても感謝したいと思います。

この本は、部分的には教室内やその周辺での会話や経験のおかげで発展したものであり、その点で私は、ブリストルにある西部イングランド大学の私の同僚と学生に感謝したいと思います。このような活気に満ちた、支援的な学問的環境の一部であることは、私にとって非常に幸運なことです。

最後に、そして最も重要なこととして、このプロジェクトに対して非常に努力し、このような優れた本を送り出すことを手伝ってくれたことについて、各章の著者に感謝したいと思います。

スティーブン・マグリンチー(Stephen McGlinchey)

目次

第1部-基本事項

第1章 現代世界の成り立ち
エリク・リングマー(ERIK RINGMAR)

第2章 外交
スティーブン・マグリンチー(STEPHEN McGLINCHEY)

第3章 1つの世界、多くの主体
カーメン・ゲブハード(CARMEN GEBHARD)

第4章 国際関係理論
ダナ・ゴールド、スティーブン・マグリンチー(DANA GOLD & STEPHEN McGLINCHEY)

第5章 国際法
クヌート・トライスバッハ(KNUT TRAISBACH)

第6章 国際機関
シャゼリナ・Z・アビディン(SHAZELINA Z. ABIDIN)

第7章 グローバルな市民社会
ラファエレ・マルチェッティ(RAFFAELE MARCHETTI)

第8章 グローバル政治経済
ギュンター・ワルゼンバッハ(GÜNTER WALZENBACH)

第9章 宗教と文化
ジョン・A・リース(JOHN A. REES)

第2部-地球規模の問題

第10章 世界の貧困と富
ジェームズ・アルヴァニタキス、デヴィッド・J・ホーンズビー(JAMES ARVANITAKIS & DAVID J. HORNSBY)

第11章 人々を守る
アレックス・J・ベラミー(ALEX J. BELLAMY)

第12章 接続性、通信および技術
アンドレアス・ハグマン(ANDREAS HAGGMAN)

第13章 人々の声
ジェフリー・ヘインズ(JEFFREY HAYNES)

第14章 国境を越えたテロリズム
カテリーナ・E・ブラウン(KATHERINE E. BROWN)

第15章 環境
ラウル・パチェコ-ヴェガ(RAUL PACHECO-VEGA)

第16章 世界に食糧を供給する
ベン・リチャードソン(BEN RICHARDSON)

第17章 「パックス・アメリカーナ」を超えて、グローバルな安全保障を管理する
ハーヴェイ・M・サポルスキー(HARVEY M. SAPOLSKY)

第18章 交差点とろうそく
ピーター・ヴァーレ(PETER VALE)

参照文献・索引に関する注意・裏表紙

執筆者

シャゼリナ・Z・アビディン(Shazelina Z. Abidin)は、マレーシア外務省の外交官です。彼女は、ワシントンDCとニューヨークの国連に赴任した後、シェフィールド大学(University of Sheffield)で保護する責任について博士号を取得しました。

ジェームズ・アルヴァニタキス(James Arvanitakis)は、西シドニー大学(Western Sydney University)の研究大学院の大学院長を務めており、教授でもあります。彼はまた、南アフリカのウィトウォータースランド大学(University of the Witwatersrand)の客員教授です。

アレックス・J・ベラミー(Alex J. Bellamy)は、オーストラリアのクイーンズランド大学(University of Queensland)の平和及び紛争研究の教授であり、保護する責任に関するアジア太平洋センター所長です。

カテリーナ・E・ブラウン(Katherine E. Brown)は、バーミンガム大学(University of Birmingham)でイスラム研究の講師を務めています。彼女はジェンダーに関する問題に焦点を当てるとともに、宗教テロリズム、急進化、反急進化を専門としています。

カーメン・ゲブハード(Carmen Gebhard)は、エジンバラ大学(University of Edinburgh)で政治及び国際関係論の講師を務めています。彼女は小規模国家に加えて、安全保障や防衛問題についての組織間関係にも特に関心を持っています。

ダナ・ゴールド(Dana Gold)は、カナダのロンドンにある西オンタリオ大学(University of Western Ontario)の政治科学科の博士課程に在籍しています。彼女の博士研究は、イスラエルの教育制度において、「他者」の精神的表現がどのように構築され、再生産されているかを探るものです。

アンドレアス・ハグマン(Andreas Haggman)は、ロンドン・ロイヤルホロウェイ大学(Royal Holloway University of London)のサイバーセキュリティに関する博士訓練センターの博士課程に在籍しており、サイバー攻撃の演習についての博士論文を書いています。

ジェフリー・ヘインズ(Jeffrey Haynes)は、ロンドン・メトロポリタン大学(London Metropolitan University)の政治学教授であり、宗教・紛争・協力研究センターの所長です。

デヴィッド・J・ホーンズビー(David J. Hornsby)は、ヨハネスブルグのウィトウォータースランド大学(University of the Witwatersrand)で国際関係論准教授、及び人文学学部長補佐(教育と学習)を務めています。彼の研究は、国際的な統治における科学とリスクの政治学、サハラ以南のアフリカにおけるカナダの外交、中程度の影響力を有する国家間の協力、高等教育の教授法に関するものです。

ラファエレ・マルチェッティ(Raffaele Marchetti)は、ローマのLUISS(Libera Università Internazionale degli Studi Sociali Guido Carli)の政治科学科及び行政学院における国際関係論の上級准教授です。彼の研究は、グローバルな政治と統治、ハイブリッド外交、国際的な市民社会、サイバーセキュリティと政治的リスク、及び民主主義に焦点を当てています。

スティーブン・マグリンチー(Stephen McGlinchey)は、ブリストルの西部イングランド大学(University of the West of England)国際関係論上級講師であり、E-International Relationsの編集長でもあります。彼の主な研究分野は、冷戦時代の米国とイランの関係です。

ラウル・パチェコ-ヴェガ(Raul Pacheco-Vega)は、メキシコの経済教育研究センター(CIDE)の行政部門の准教授です。彼の研究は、北米の環境の政治学、主に下水設備と水利行政、固形廃棄物管理、新制度派理論、国際的な環境社会運動、公共政策における実験方法に焦点を当てています。

ジョン・A・リース(John A. Rees)は、ノートルダム・オーストラリア大学(University of Notre Dame Australia)で政治学と国際関係論の准教授を務めています。彼はまた、ノートルダムの倫理学・社会研究所で宗教・グローバル社会プログラムの主宰者も務めています。

ベン・リチャードソン(Ben Richardson)は、ワーウィック大学(University of Warwick)の国際政治経済学の准教授です。彼の研究は、食糧と農業の政治経済学に焦点を当てています。

エリク・リングマー(Erik Ringmar)は、スウェーデンのルンド大学(Lund University)で政治科学の上級講師を務めています。彼は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics)で12年間働き、7年間中国で国際関係論の教授を務めたことがあります。

ハーヴェイ・M・サポルスキー(Harvey M. Sapolsky)は、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)の公共政策と組織論の名誉教授であり、MIT安全保障研究プログラムの元ディレクターです。

クヌート・トライスバッハ(Knut Traisbach)は、ヴェネツィアにある人権と民主化のための欧州大学間センター(European Inter-University Centre for Human Rights and Democratisation)で、ヴェネツィア人権アカデミーのプログラムディレクターを務めています。

ピーター・ヴァーレ(Peter Vale)は、ヨハネスブルグ大学(University of Johannesburg)の人文学教授であり、ヨハネスブルグ先進研究所所長です。彼はまた、ローズ大学(Rhodes University)ネルソン・マンデラ記念政治学名誉教授でもあります。

ギュンター・ワルゼンバッハ(Günter Walzenbach)は、西部イングランド大学(University of the West of England)でヨーロッパ政治学の上級講師を務めています。彼の主な学術的関心は、社会問題解決のための政治的・経済的機関の間の相互作用にあります。

はじめに

先へ進む前に、この本は電子書籍(PDF)、Web版、ペーパーバック版で入手できることを知っておいてください。多くの人がこの書籍のデジタル版を使用することはわかっていますが、できるだけ多くの場合に、ペーパーバック版を購入することをお勧めします。デジタルからよりも紙の資料からの学習がより効果的であるという強力な証拠を、ますます多くの研究が示しています。あなたがどのような形でこの本に接するかに関わらず、私たちはそれが楽しい読書であることを願っています。

あなたは、本書のペーパーバック版をすべての良い書店 — Amazonからあなたの地元書店まで — で手に入れることができます。デジタル版はいつでもE-International Relations学生ポータルで自由に入手できます:
http://www.e-ir.info/students/

ご挨拶

この本は、国際関係論の分野であなたが読む最初の本になるように設計されています。初心者のためのガイドとして、最も重要な情報を最小のスペースに凝縮し、その情報を最も理解しやすい方法で提示するように構成されています。

この本は、それぞれ9つの章からなる2つのセクションに分かれています。これらは一緒になって、国際関係論の基本的な要素と、この学問分野に関係する主要な現代的な問題とについて、広い展望を提供します。物語は弧を描き、全体として完全な円を形成し、あなたを予備知識がない状態から十分な能力を有するところまで連れて行きます。私たちの旅は、国際的なシステムがどのように形成されたかを調べることから始まり、国際関係論が常にさまざまな事柄に適応しており、それゆえ終わりのない発見の旅であることを表すことで終わります。

典型的な教科書とは異なり、囲み記事、図、写真や練習問題はありません。これらのものが気を散らすことになりえる、というのがこの本を支える哲学です。この本は、E-IR Foundationsシリーズの他の本と同様、魅力的な語り口で注目を集めるように設計されています。各章は短く、簡単な段落と明確な文章があります。

特定の章をいいとこ取りするのを避け、この本を提示されたまま読むことを、私たちはお勧めします。この本は展開していく物語であり、各章はそれ以前の章に基づいていることを覚えておいてください。次のように考えてみてください。あなたは、ある小説を7章まで飛ばして、登場人物がどのような人で、設定がどのようなものかを理解できるとは期待できないでしょう。最初から読み始めてください。ある章が難しいと思ったら、ちょっと待ってからもう一度戻ってきて読み直してください。すべての章は等しく重要です。

主な用語

それぞれの学問分野には独自の言語があります。それは、所定のことを記述するために学者たちによって開発された、一連の特定の用語で構成されています。その結果、あなたがある学問分野を学ぶのに使う多くの時間は、文献にアクセスし理解することができるよう、専門用語を学ぶことに費やされます。私たちはこの本に専門用語を詰め込むのではなく、可能な限り一般的な言葉で物事を説明する一方、国際関係論のより具体的な用語にあなたをゆっくりと導くように努めました。このアプローチは、あなたの興味をひきつけながら、あなたがすぐに遭遇するであろうより高度な文献を読む自信を与えることでしょう。また、私たちは略語の過剰使用を避けようと努めました。

重要な用語を理解するということは、「国際関係論(International Relations)」という言葉を表現する方法のような、基本的なものにも適用されます。学術的な慣習では学問分野、すなわち世界中の大学キャンパスで教えられている科目を指すときにそれを大文字にします(国際関係論、「IR」と略記)。IRは事象を記述しません。むしろ、それは事象を理解しようとする学問的な分野です。一方、大文字でない「国際関係(international relations)」は、国家、組織、個人間の関係をグローバルなレベルで記述するために、学者と学者でない人の両者によって一般的に用いられています。この用語は、「グローバル政治(global politics)」、「世界政治(world politics)」、「国際政治(international politics)」などの用語と交換可能です。それらはすべてほぼ同じことを意味します。本書では、この大文字による表記規則を維持しています。

IRは、私たち人間が、どのようにして私たちの世界を編成したかに関わるすべてのことを調べます。学問分野としてのIRは、その領域に含まれる広範囲の問題を調べるためのツールとして他の分野を探索しているため、しばしば「広大な教会」と呼ばれています。各章で徐々に全体図を構築していきますが、ここで重要な用語のいくつかを抜粋して紹介することは役に立つでしょう。

政治権力は、(これまでのところ)国民国家の創造において、その究極の形を見出しています。しかし、最も一般的に「国家(state)」という短い形で呼ばれている「国民国家(nation-state)」という言葉は専門用語であり、あなたはあまり聞いたことがないかもしれません。代わりに、あなたは人々が「国(country)」または「国民(nation)」と言っているのを聞いたかもしれません。しかし、これらの用語は、国際関係を構成する主要単位を記述する際には、技術的に不正確です。フランスは一つの国民国家(a nation-state)です。フランスはまた、一つの国(a country)と一つの国民(a nation)ですが、これはウェールズも同様です。しかし、ウェールズは、国民国家(a nation-state)ではありません。ウェールズは英国の一部であり、英国はウェールズとは異なり「主権」と呼ばれるものを保有しており、一つの国民国家(a nation-state)です。この主権も、もうひとつのIRの中心的な用語です。これらの問題は、IRが政治学の分野を掘り下げ、その洞察を借りて適応させなければ、理解することはできません。しかし、あなたは心配する必要はありません。これらの用語はすべて、この本の中で現れるごとに説明されています。

あなたは、国際関係とは単に国民国家間の政治だけであるということに満足できないかもしれません。経済学も関与しており、これは、私たちは今や商品、人、情報の比較的自由な交換によって特徴付けられるグローバル化された世界に住んでいる、と言われるほどに進化してきました。そして当然のことながら、これはIRに新しい要素を追加し、国際組織や企業などの国民国家を超えた関係者の理解を組み込むことを要求しています。そして、あなたは国家、経済、組織の役割よりもさらに広い展望を見たいと望むかもしれません。個人(あなたと私)ももちろん重要です。結局のところ、国際関係は本質的に人間同士の相互作用のシステムです。これを理解し分析するために、IRは社会学のような他の学問分野の道具を借りなければなりません。そしてそうするごとに、IRはまた専門用語を加えて、複雑さが増していきます。

上記のパラグラフでは、「グローバル化(globalisation)」という言葉、私たちの時代の流行語を導入しましたが、学者たちは依然としてこの言葉が実際には何を意味しているのかを熱心に議論しています。グローバル化は、国際政治とは何であるべきかということに関する共通の考え方の記述でしょうか?それは、私たちが世界的に共有している成長する文化的つながりの記述でしょうか?単一のグローバル経済モデル、すなわち資本主義によって結びついた世界の記述でしょうか?これらのものがすべて一緒になったものでしょうか?それは新しいものでしょうか、それともいつも存在していたのですか?これらの質問に答えようとすると、グローバル化が肯定的なものか否定的なものかなど、新しい質問がすぐに出てきます。例えば、私たちが同じシンボル、ブランド、理想を認識する共通の世界文化の出現としてグローバル化の考え方を規定するならば、それが地元の文化や習慣にとってどういう意味をもつでしょうか?グローバル化がそもそも存在するかどうかに疑問を呈する人もいます。IRの最先端の学者の1人、ケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz)は、これを「グローバロニー(グローバル化というたわ言)」と称しています。

しかしながら、この本は、グローバル化のような争いのある言葉をめぐる大きな討論の中で身動きが取れなくなるような事態を意図的に避けています。また、複雑な用語を簡略化して定義することも避けています。代わりに、そのような問題が発生した場合、私たちはあなたがあなた自身で考え、より深く、より広く読むための十分な文脈を与えることを目指しています。私たちは、あなたがどう考えるかを教えたり、あらかじめパックされた答えを与えることではなく、あなたの心を開くことを願っています。

IRの重要用語と専門用語が密集した目録は、新入生にとっては目の回るような見通しに見えるかもしれません。しかし、どうしてそれらが避けられないのか、そしてどうしてIRの研究者たちがそれらを使う必要があるのかは明らかにする必要があります。IRの分野の中で、何かについて最も簡単な点を述べるときであっても、理解しておく必要のある特定の用語を用いた描写がされます。この本の一部の読者は初心者ではないかもしれません。その人たちは他の場所でIRへの旅を開始し、専門用語の過負荷を整理するためにここにたどり着いた可能性があります。この本はそうした読者も念頭に置いてデザインされています。

この本は英国で出版されているため、英国の英語で提供されているということも伝えておく必要があります。これは、「グローバル化(globalisation)」や「組織(organisation)」のような言葉が「z」ではなく「s」で綴られていることを意味します。

資料

学術の世界では、資料の参照は非常に重要です。それは、正確な言葉を使用するかどうかにかかわらず、学者や学生が他の人の仕事を表示する方法です。そのため、この本を読み終えた後にあなたが進むであろう専門家の文献では、多数の参照文献を見ることになるでしょう。それは学術的な文章の重要な要素であり、あなた自身の学習のために習得すべきものです。

本書では、専門家の観点から問題を要約して、途切れることのない物語を提供しようとしています。より専門的な文献を指し示す必要がある場合、たとえば、少し深く読むように誘いかける場合は、次のような表示を付けてテキスト内に引用情報を挿入します:(Vale 2016b)。これらは、書籍の後ろにある参照文献のセクションの対応する見出しを指しています。そこでは、あなたは完全な参照情報を見つけて、必要に応じてさらに追跡することができます。通常それらの情報とは、書籍、学術誌の記事、ウェブサイトなどです。本文の引用情報には、常に著者の姓と出版年が含まれています。参照文献リストはアルファベット順の姓で構成されているため、あなたは完全な参照情報をすばやく見つけることができます。場合によっては、括弧内にページ番号も表示されます。たとえば、(Vale 2016b, 11–13)。資料から特定の議論または引用を参照するときに、ページ番号が追加されます。この参照システムは「著者-日付」または「ハーバード」システムと呼ばれます。これは、IRで使用される最も一般的な参照方法ですが、唯一の参照方法というわけではありません。

あなたが自分自身の議論を構築して、自分自身の課題文を書く時が来たら、あなたは裁判の準備をする弁護士であるかのように資料を使うことを考えなければなりません。あなたの任務は、合理的な疑いを超えて、あなたの主張が弁護できることを陪審団に納得させることになるでしょう。事実や専門知識に基づいて、明確でよく組織だった証拠を提示する必要があります。あなたが情報に基づかない誰かのただの意見を証拠として提示した場合、陪審員は説得力がないと判断し、あなたはその事件で負けるでしょう。同様に、学術論文では、あなたが使用する資料が評価に値するものであるかを確認する必要があります。あなたは通常、著者と出版社を調べることでこれを見出すことができます。著者が専門家(学者、実務家など)ではなかったり、出版社が不明または曖昧であったりする場合、その資料は信頼性が低い可能性があります。その資料は興味深い情報を持っているかもしれませんが、学術的な基準では評価に値しません。

あなたが、本が何であるかを知っていて(いまあなたはそれを読んでいるから!)、インターネットが何であるか理解していることを前提としても間違いではないでしょう。しかしながら、この本に引用されているものの中で、あなたが前に遭遇したことがないかもしれない資料の1つは、学術誌の記事です。学術誌の記事は高価で定期購読が必要なため、通常、大学の図書館からのみアクセスできます。それらは学者によって、学者のために用意された論文です。そのため、それらは最新の考察を表し、最先端の洞察を含んでいる可能性があります。しかし、それらはしばしば、聴衆が仲間の専門家であるために複雑で濃密であり、初心者がこれを読むのは困難です。さらに、学術誌の記事はピアレビューされます。これは、出版される前に他の専門家による評価プロセスを経たことを意味します。そのプロセスの間に多くの変更と改善が行われることがあり、さらに記事はしばしば査読を通過することができず、却下されます。そのため、学術誌の記事は学術的な文章の中の代表的な存在のようなものです。

ほとんどの学術誌の記事はインターネット上で入手できるようになりましたが、学生は学術誌の記事とオンライン雑誌や新聞記事とを区別することに困難を感じるかも知れず、混乱を招くことがあります。報道や意見欄の著述は、ピアレビューされておらず、異なる基準に適合しています。上のヒントに従うとともに、出版社と著者を「検索」すると、どちらがどちらであるかを識別できるはずです。もう1つの役に立つヒントは長さです。学術誌の記事は通常10–20ページ(7,000–11,000ワード)です。報道や解説の記事は通常、より短いものです。

資料に関する最後の注記:インターネットは西部の荒野のようなものです。そこにはすばらしい情報がありますが、ゴミもたくさんあります。それらを区別することはしばしば困難です。しかし、繰り返しになりますが、あなたが(インターネットを使用して)著者を調べて、出版社を調べるという黄金のルールに従えば、あなたは常に自分の道を見つけることができるでしょう。しかしながら、世界最大のウェブサイトでさえ、信頼できないものもあります。たとえば、ウィキペディアは素晴らしい情報源ですが、通常は専門家というより愛好家である一般の人々によって作成されるとともに、通常は編集されるため、誤った情報を有することがよくあります。さらに、そのページは常に(ユーザーによる編集のために)変更されているため、情報源として信頼することはできません。そのため、インターネット上の経験則は、あなたが発見したことを、少なくとも2つの良いウェブサイト/少なくとも2人の評判の良い著者によって裏付けることです。そうすれば、あなたは自信を持ってインターネットを使用し、落とし穴を避けながらその利点を楽しむことができます。ただし、課題文を作成する際には、学術誌や書籍に掲載されているより堅牢な情報を補完する目的でのみインターネットを使用してください。

賢く読む

本を読むための時間を別にとってみてください。あなたの電子機器を静かにさせ、インターネットブラウザを閉じて、本に取り組むための静かなスペースを見つける必要があります。一時間かそこらで10分の小休止を取って他のことを済ませ、あなたの勉強時間の途中でうまく食事をすることでより長い休憩を取ってください。最後に、勉強の前後に十分な夜の睡眠を取りましょう。あなたの脳は、睡眠不足または空腹のときには情報をうまく吸収したり保持したりできません。年に何回かは期限が近づくにつれてパニックが起こる時がありますが、あなたがすでに優れた読書戦略を立てていれば、あなたは手元にある課題をこなすために有利な状況になっています。

学術目的のための読書は、楽しみのための読書と同じではありません。あなたは読書戦略を採用する必要があります。誰もがこれを行う独自の方法を持っていますが、基本的なヒントは次のとおりです:メモを取りながら読んでください。あなたが多くのメモを取っていないか、またはあなたの心が少しうわの空になっていることに気づいた場合、あなたはあまりにも速く読んでいるか、十分な注意を払っていないかもしれません。コンピュータやタブレット上でデジタル書籍を読んでいる場合は、目がさまよったり、ソーシャルメディアサイトに移動したりするのが非常に簡単なため、こういうことが起こりやすいです。もしこれが起こった場合でも、心配しないでください:ちょっと戻って、もう一度読み始めてください。しばしば、何かを二回読むということは、それにピンときたということです。

最良の実践は、各章を読みながら、大まかなメモを作成することです。あなたがある章の終わりに達したら、あなたの大まかなメモを、覚えておきたい「キーポイント」のリストに編集してください。これをやっておけば、問題を修正または要約するときに必ずしも章全体を再度読む必要がないので、役に立ちます。あなたのメモはあなたの記憶を引き起こし、重要な情報を思い出させるはずです。いくつかの教科書はこれをあなたのためにやってくれて、各章の終わりにキーポイントのリストを提供しています。この本は、初心者のための基礎的な本であるので、そういうことはしません:私たちは読者が自分自身のために読んでメモを取る重要なスキルを発達させ、手っ取り早い方法をとらないようにしたいのです。

メモを作成することによって、あなたは、最も重要な情報を保持し、それを試験対策および討論や課題の準備に不可欠な小さなメモのセットに圧縮することのできる読書戦略を形成するでしょう。あなたは、勉強中に読んだすべてのものに対して、このアプローチを採用すべきです。デジタル機器(ラップトップ/タブレット)を使用してバックアップを作成し、貴重な手書きの紙のメモを失う危険がないようにすることが最善です。また、メモの各セットに、どの資料についてのメモなのかという引用情報をページの上部に書き込んでおくべきです。これにより、後で文章を書く作業の中でメモを取った資料を参照する必要がある場合でも、その資料を特定できます。

この訳文は元の本のCreative Commons BY-NC 4.0ライセンスに従って同ライセンスにて公開します。 問題がありましたら、可能な限り早く対応いたしますので、ご連絡ください。また、誤訳・不適切な表現等ありましたらご指摘ください。

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