国際関係論の理論 -表紙・目次・執筆者・はじめに-

Japanese translation of “International Relations Theory”

Better Late Than Never
51 min readJun 22, 2018

国際関係論についての情報サイトE-International Relationsで公開されている教科書“International Relations Theory”の翻訳です。こちらのページから各章へ移動できます。以下、訳文です。

国際関係論の理論

編著スティーブン・マグリンチー、ロージー・ウォルターズ、クリスティアン・シェインプフラグ(STEPHEN McGLINCHEY, ROSIE WALTERS & CHRISTIAN SCHEINPFLUG)

この電子書籍は、E-International Relations(www.E-IR.info)から無償で自由にダウンロードできます。電子形式での販売は、いかなる場合でも認められていません。

無料の電子書籍を楽しんだ場合には、私たちがオープンアクセスの出版物への投資を続けることができるように、小額の寄付を残すことを検討してください:
http://www.e-ir.info/about/donate/

「IRに関する大量の教科書の中で、確立された理論の基礎教育の形式だけ整えて「安全にやる」ところから外れるものはほとんどありません。この本の素晴らしく抜きんでているところは、その後半すべてであり、そこでは世界を見るための非常に過激な新しい方法が提案されています。この本は「安全であり」かつ「安全でない」ものであり、そのどちらの場合においても、IRとは何であるか、そしてどのようになれるのかを学ぶ際に、時には学生が楽しめるような機知に富んでいます。素敵な本であり、その中では「古い」IRの長老たちでさえ時には大胆になります。」
– スティーブン・チャン(Stephen Chan)大英帝国勲章4位・ロンドン大学オリエンタル・アフリカ研究院世界政治学教授

「この豊かな本は、国際関係論の理論の分野へのとても理解しやすく、かつ非常に幅広い入門を与えてくれます。この本は20個の短い章の中で、「主流の」リアリズムとリベラリズムから、クィア理論や批判的地理学に至るまでの、核となる理論的な枠組みについての非常に読みやすく包括的な概要を提供しています。それぞれの理論を文脈に置き、簡単に把握できる豊富な例を提供することにより、本書はすべての範囲の理論的な枠組みと概念の「全部入り」を提供するとともに、非西洋的な視点にも注意を払っています。出発するのに素晴らしい場所です。」
– メッテ・エイルストラップ–サンジョヴァンニ(Mette Eilstrup-Sangiovanni)ケンブリッジ大学上級大学講師(国際関係論)

「これはすばらしい本です。これは想像力豊かに提示され、非常に理解しやすい包括的なリストを提供します。それはまた有益にも、グローバルな対話の形をとっています。最高の輝きを放つIR理論です。」
– ピーター・ヴァーレ(Peter Vale)ヨハネスブルグ大学人文学教授、南洋理工大学公共政策およびグローバル問題教授、ローズ大学ネルソン・マンデラ記念政治学名誉教授

国際関係論の理論

編著スティーブン・マグリンチー、ロージー・ウォルターズ、クリスティアン・シェインプフラグ(STEPHEN McGLINCHEY, ROSIE WALTERS & CHRISTIAN SCHEINPFLUG)

E-International Relations
www.E-IR.info
Bristol, England
2017

ISBN 978–1–910814–19–2 (paperback)
ISBN 978–1–910814–20–8 (e-book)

この本はCreative Commons CC BY-NC 4.0のライセンスで公開されています。あなたは自由に以下のことができます:

・共有 — どのようなメディアやフォーマットでも資料を複製したり、再配布できます
・翻案 — 資料をリミックスしたり、改変したり、この資料を基に別の作品を構築できます

以下の条件に従う限り:

・表示 — あなたは 適切なクレジットを表示し、ライセンスへのリンクを提供し、変更があった場合にはその旨を示さなければなりません。あなたはこれらを合理的などのような方法で行うこともできますが、許諾者があなたやあなたの利用行為を支持していると示唆するような方法は除きます。
・非営利 — あなたは営利目的でこの資料を利用してはなりません。

許可を得た場合、上記の条件のいずれかを放棄することができます。ライセンスおよび翻訳の依頼を含め、このような問い合わせは info[at]e-ir.info までご連絡ください。

上記の条件以外に、学生の学習教材/学術利用のための本書の使用と頒布に制限はありません。

プロダクション:マイケル・タン(Michael Tang)
編集:ジル・ガードナー(Gill Gairdner)
表紙画像:feedough via Depositphotos

この本のカタログ記録は大英図書館(British Library)から入手できます。

E-IRファウンデーションズ(E-IR Foundations)

シリーズ編集者:スティーブン・マグリンチー(Stephen McGlinchey)
編集アシスタント:マイケル・ボルト、エロイーズ・コックス、ゲイリー・レイ、ファラー・サリーム(Michael Bolt, Eloise Cox, Gary Leigh and Farah Saleem)

E-IRファウンデーションズ(E-IR Foundations)は、E-International Relations(E-IR)が提供する初心者向けの教科書シリーズで、複雑な問題を実用的かつ理解しやすい方法で紹介するためのものです。各書籍は、国際関係論に関連する異なる領域をカバーします。この本はシリーズの2冊目の本であり、さらに他の本が続きます。

E-IRの学生ポータルでは、書籍や他の多くの学習教材を見つけることができます:http://www.e-ir.info/students

E-IRは、国際関係論を学ぶ学生のために、自由に利用可能な学術資料の最良の情報源を提供するという使命の一環として、Foundationsシリーズを開発しています。それぞれの本は書籍の状態で書店で購入することができるとともに、教科書としては独特ではありますが、ウェブやPDF形式で自由にアクセスすることができます。そのため、読者は、いかなる制限や面倒もなく、それぞれの本を手元やすべてのデバイスに置くことができます。

通常、教科書出版は教授/講師にアピールするように設計されており、入門書でさえ学生の助けとなることよりも教室で指導者を支援することを意図したものとなっています。私たちの本は、読者を予備知識がない状態から十分な能力を有するところまで移行させることに焦点を当て、学生のニーズを満たすように設計されています。私たちの本は、学生に新しい視点を提供しつつ、他のテキストを置き換えるのではなく、それらに付随することを意図しています。

E-International Relationsについて

E-International Relationsは、国際政治にかかわる学生や学者のための世界有数のオープンアクセスウェブサイトであり、年間300万人以上の読者に届けられています。E-IRの日々の出版物には、専門家による記事、ブログ、評論、インタビュー、そして学生の学習リソースがあります。このウェブサイトは、英国のブリストルにある非営利団体によって運営されており、この団体は全てボランティアである学生と学者のチームによって構成されています。

http://www.e-ir.info

謝辞

この本はE-IRの学生レビューパネルの助けがなければ不可能だったでしょう。パネルのメンバーたちは、各章の草稿を読んで、どのように改善できるかについての彼らの考えを提示するために時間を割いてくれました。パネルはローラ・サウスゲート、マシュー・コー、コンスタンス・ディクストラ、ラブリーナ・シャーマ、ダニエル・ゴーレビュースキ、リュプコ・ストウコヴィスキ、マックス・ナーンズ、ジェス・ダム、キャロライン・コテット、ジャン・タッテンバーグ、マシュー・リバー、ローラ・カートナー、キャメラン・クレイトン、フォーベ・ガードナー、アナ・キャロリナ・サーメント、ナオミ・マクミラン、カニカ・ラクラ、ディーン・クーパー–カニンガム、ジョナサン・ウェブ、ダニエル・ロウニー、ジャンジャ・R・アウグスティン、スコット・エドワーズ(Laura Southgate, Matthew Koo, Constance Dijkstra, Loveleena Sharma, Daniel Golebiewski, Ljupcho Stojkovski, Max Nurnus, Jess Dam, Caroline Cottet, Jan Tattenberg, Matthew Ribar, Laura Cartner, Cameran Clayton, Phoebe Gardner, Ana Carolina Sarmento, Naomi McMillen, Kanica Rakhra, Dean Cooper-Cunningham, Jonathan Webb, Daniel Rowney, Janja R. Avgustin and Scott Edwards)によって構成されていました。

編集者は、アイデアをフィードバックし、この本を進展させるために好意的な環境を提供してくれた多くの親切な行為に対して、過去および現在のE-International Relationsチームのすべてのメンバーに感謝したいと思います。

最後に、そして最も重要なこととして、編集者は、このプロジェクトに対して非常に努力し、このような優れた本を送り出すことを手伝ってくれたことについて、各章の著者に感謝したいと思います。

目次

第1部 — 確立された理論

第1章 リアリズム
サンドリナ・アントゥネス、イザベル・カミサオ(Sandrina Antunes & Isabel Camisão)

第2章 リベラリズム
ジェフリー・W・マイサー(Jeffrey W. Meiser)

第3章 英国学派
ヤニス・A・スティヴァクティス(Yannis A. Stivachtis)

第4章 構成主義
サリーナ・ゼイズ(Sarina Theys)

第5章 マルクス主義
マイア・パル(Maïa Pal)

第6章 批判理論
マルコス・ファリアス・フェレイラ(Marcos Farias Ferreira)

第7章 ポスト構造主義
アイシュリング・マク・モロウ(Aishling Mc Morrow)

第8章 フェミニズム
サラ・スミス(Sarah Smith)

第9章 ポスト植民地主義
シェイラ・ネア(Sheila Nair)

第10章 グローバルなIRに向けて?
アミタヴ・アチャリャ(Amitav Acharya)

第2部 — 拡張パック

第11章 緑の理論
ヒュー・C・ダイアー(Hugh C. Dyer)

第12章 グローバルな正義
アリックス・ディーツェル(Alix Dietzel)

第13章 クィア理論
マークス・ティール(Markus Thiel)

第14章 安全保障化理論
クララ・エロウクマノフ(Clara Eroukhmanoff)

第15章 批判的地理学
イレナ・ライスベット・セリドウェン・コノン、アーチー・W・シンプソン(Irena Leisbet Ceridwen Connon & Archie W. Simpson)

第16章 アジアの視点
ピチャモン・エオファントン(Pichamon Yeophantong)

第17章 グローバル・サウスの視点
リナ・ベナブダラー、ヴィクター・アデトゥーラ、カルロス・ムリッロ–ザモーラ(Lina Benabdallah, Victor Adetula & Carlos Murillo-Zamora)

第18章 先住民の視点
ジェフ・コーンタッセル、マーク・ウーンズ(Jeff Corntassel & Marc Woons)

第19章 リアリズムの現代的視点
フェリックス・ロッシュ、リチャード・ネッド・リボウ(Felix Rösch & Richard Ned Lebow)

第20章 「主義」は邪悪だ。「主義」万歳!
アレックス・プリチャード(Alex Prichard)

参照文献・索引に関する注意・裏表紙

執筆者

ヴィクター・アデトゥーラ(Victor Adetula)は、スウェーデン・ウプサラにある北欧・アフリカ研究所の研究主任であり、ナイジェリアのジョス大学(University of Jos)の国際関係論および開発研究の教授です。

アミタヴ・アチャリャ(Amitav Acharya)は、米国のアメリカン大学(American University)の国際関係論卓越教授であり、国境を越えた挑戦および統治に関するUNESCO教授職でもあります。

サンドリナ・アントゥネス(Sandrina Antunes)は、ポルトガルのミノ大学(Universidade do Minho)国際関係論および公共行政学部助教であり、ベルギーのブリュッセル自由大学(Université Libre de Bruxelles)政治学研究センターの科学フェローです。

リナ・ベナブダラー(Lina Benabdallah)は、米国のウェイクフォレスト大学(Wake Forest University)の政治科学の助教です。

イザベル・カミサオ(Isabel Camisão)は、ポルトガルのエボラ大学(University of Évora)の国際関係論の助教です。

イレナ・ライスベット・セリドウェン・コノン(Irena Leisbet Ceridwen Connon)は、英国のダンディー大学(University of Dundee)における人文地理学の博士号取得後の研究フェローです。

ジェフ・コーンタッセル(Jeff Corntassel)は、カナダのヴィクトリア大学(University of Victoria)の准教授および先住民統治プログラムのディレクターです。彼は、チェロキー族の一員です。

アリックス・ディーツェル(Alix Dietzel)は、英国のブリストル大学(University of Bristol)のグローバル倫理学の講師です。

ヒュー・C・ダイアー(Hugh C. Dyer)は、英国のリーズ大学(University of Leeds)の世界政治学の准教授です。

クララ・エロウクマノフ(Clara Eroukhmanoff)は、英国のロンドン・サウスバンク大学(London South Bank University)の国際関係論の講師です。

マルコス・ファリアス・フェレイラ(Marcos Farias Ferreira)は、ポルトガルのリスボン大学(University of Lisbon)およびリスボン研究大学(ISCTE-IUL:Instituto Universitário de Lisboa)国際研究センター(Centro de Estudos Internacionais)の国際関係論の講師です。

ダナ・ゴールド(Dana Gold)は、カナダのロンドンにある西オンタリオ大学(University of Western Ontario)の博士課程に在籍しています。

リチャード・ネッド・リボウ(Richard Ned Lebow)は、英国のキングスカレッジロンドン(King’s College London)の国際政治理論教授、英国のケンブリッジ大学ペンブロークカレッジ(Pembroke College, University of Cambridge)の共同評議員、米国のダートマス大学(Dartmouth College)のジェームズ・O・フリードマン記念行政学学長教授(名誉)です。

スティーブン・マグリンチー(Stephen McGlinchey)は、ブリストルの西部イングランド大学(University of the West of England)の国際関係論の上級講師であり、E-International Relationsの編集長でもあります。

アイシュリング・マク・モロウ(Aishling Mc Morrow)は、英国のクイーンズ大学ベルファスト校(Queen’s University Belfast)の国際関係論の講師です。

ジェフリー・W・マイサー(Jeffrey W. Meiser)は、米国のポートランド大学(University of Portland)の政治科学の助教です。

カルロス・ムリッロ–ザモーラ(Carlos Murillo-Zamora)は、コスタリカ大学(University of Costa Rica)およびコスタリカ国立大学(National University of Costa Rica)の教授です。

シェイラ・ネア(Sheila Nair)は、米国の北アリゾナ大学(Northern Arizona University)の政治学および国際問題の教授です。

マイア・パル(Maïa Pal)は、英国のオックスフォードブルックス大学(Oxford Brookes University)の国際関係論の上級講師です。

アレックス・プリチャード(Alex Prichard)は、英国のエクセター大学(University of Exeter)の国際関係論の上級講師です。

フェリックス・ロッシュ(Felix Rösch)は、英国のコヴェントリー大学(Coventry University)の国際関係論の上級講師です。

クリスティアン・シェインプフラグ(Christian Scheinpflug)は、E-International Relationsの主任編集者であり、サンティアゴタイムズ紙のコラムニストでもあります。

アーチー・W・シンプソン(Archie W. Simpson)は、英国のバス大学(University of Bath)の政治学および国際関係論の教育助手です。

サラ・スミス(Sarah Smith)は、ブダペストのセントラルヨーロピアン大学(Central European University)のジェンダー研究の客員助教です。彼女は、メルボルンにあるモナシュ大学(Monash University)、スウィンバーン工科大学(Swinburne University of Technology)およびオーストラリアンカトリック大学(Australian Catholic University)の講師職も有しています。

ヤニス・A・スティヴァクティス(Yannis A. Stivachtis)は、米国のバージニア工科大学(Virginia Tech)の政治科学の准教授であり、国際研究プログラムディレクターです。

サリーナ・ゼイズ(Sarina Theys)は、英国のニューキャッスル大学(Newcastle University)の政治学部の補助講師です。

マークス・ティール(Markus Thiel)は、米国のフロリダ国際大学(Florida International University)の政治学および国際関係論の准教授であり、EU/ジャン・モネ高度研究センターのディレクターです。

ロージー・ウォルターズ(Rosie Walters)は、英国のブリストル大学(University of Bristol)の博士課程に在籍しており、E-International Relationsの編集責任者です。

マーク・ウーンズ(Marc Woons)は、ベルギーのルーベン大学(University of Leuven)のルーベン政治哲学研究所におけるフランダース研究基金博士課程フェローです。

ピチャモン・エオファントン(Pichamon Yeophantong)は、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales)の国際関係論および開発学の講師です。

国際関係論の理論のはじめに

スティーブン・マグリンチー、ロージー・ウォルターズ、ダナ・ゴールド(STEPHEN MCGLINCHEY, ROSIE WALTERS & DANA GOLD)

先へ進む前に、この本は電子書籍、PDF、ウェブ、ペーパーバック版で入手できることを知っておいてください。多くの人がこの書籍のデジタル版を使用することはわかっていますが、できるだけ多くの場合に、ペーパーバック版を購入することをお勧めします。デジタルからよりも紙の資料からの学習がより効果的であるという強力な証拠を、ますます多くの研究が示しています。あなたがどのような形でこの本に接するかに関わらず、私たちはそれが楽しい読書であることを願っています。

あなたは、本書のペーパーバック版をすべての良い書店 — Amazonからあなたの地元書店まで — で手に入れることができます。デジタル版はいつでもE-International Relations学生ポータルで自由に入手できます:http://www.e-ir.info/students/

この学生ポータルには、この本の内容を補完し、拡張するような様々なオンライン資料も含まれています:http://www.e-ir.info/online-resources/

ご挨拶

この本は、国際関係論(IR)の理論の分野の基礎的な出発点になるように設計されています。初心者のためのガイドとして、この学問分野を新鮮な形で紹介するために、最も重要な情報を最小のスペースに凝縮し、その情報を最も理解しやすい方法で提示するように構成されています。IR理論を深く探求する前に、本書の関連教科書「国際関係論」(McGlinchey 2017)[日本語訳]をまず参照して、国際関係論の学問分野を十分に理解することをお勧めします。IR理論は国際関係論の中でも難しい要素の1つです。

IRの理論は、さまざまなレンズを通して私たちの周りの世界を理解し、意味づけることを助けてくれます。それぞれのレンズは、異なる理論的見解を表しています。それらは、複雑な世界を単純化する方法です。よく知られているたとえでは、理論は地図のようなものです。それぞれの地図は特定の目的のために作成され、地図に含まれるものは地図を使う人を道案内するために必要なものに基づいています。他のすべての詳細は、混乱を避けて明確な図を表示するために省略されています。図は何千もの言葉を表すことができます。Googleへ行って、「Singapore MRT」と入力し、画像をクリックしてください。シンガポールの公衆高速交通(MRT : Mass Rapid Transit)ネットワークの地図が表示されるでしょう。それを拡大して、ちょっと見つめてください。あなたは路線、駅、基本的なアクセス情報を見ることができます。公衆トイレ、道路、銀行、お店などは、このシステム上での移動に不可欠ではないため、表示されていません。理論も同様のことをします。IRのそれぞれの異なる理論は、その理論家が重要であると信じていることに基づいて、その地図上に異なるものを配置します。IRの地図にプロットされる変数は、国家、組織、人、経済、歴史、考え方、階級、ジェンダーなどのようなものです。理論家は、選択された変数を使用して世界の単純化された見方を構築します。その見方は、事象を分析するために使用することができ、場合によってはある程度の予測能力を有します。実践的な意味では、IR理論は分析道具として最もよくみなされます。なぜなら、それは学生が質問に答えるために使用する複数の方法を提供するからです。

学生のうちある人は、IR理論が私たちの住んでいる世界、人間の本質についての私たちの理解、そして何を知ることができるかについてさえも興味深い質問をするために、IR理論の研究を愛する人もいます。しかしながら、別の学生は、彼らがそもそもIRを勉強したいと思うようになった世界的事件の現実の(しばしば「実証的」と表現される)ケーススタディに直接進みたいと願います。これらの学生にとっては、IR理論を研究することは気を散らすように見えるかもしれません。しかし、理論を理解することなく国際関係論の研究に乗り出すことは、地図なしで旅に出るようなものであることを指摘しておくことが重要です。あなたは目的地に到着するかもしれませんし、または他のどこか非常に興味深い場所に到着するかもしれませんが、あなたは自分がどこにいるかも、どうやってそこに到着すればいいのかも分かりません。そしてあなたは、別の人たちが彼らのルートのほうがはるかに良かったり、よりまっすぐだったりだと主張するときに、何の反応も返せないでしょう。理論は私たちに明快さと方向性を与えます。理論は私たち自身の議論を擁護したり、他の人の議論をより良く理解するのに役立ちます。

この本は、2つのセクションに分かれており、幅広いIR理論を紹介しています。最初のセクションは、学部レベルのIRプログラムで最も一般的に教えられている確立された理論をカバーしています。第2のセクションはこれを拡張し、新たに登場したアプローチを提示し、IR理論に関するより広い視点を提供します。この2つのセクションに等しいスペースを与えることで、私たちは読者にIR理論の多様性を理解することを奨励します。この本の各章は、一組の単純な目的が念頭に置かれています。まず、各理論の基本を圧縮し単純化することです。理論は複雑ですが、この本の目的は、学問の分野全体を調査しようとするのではなく、さらなる研究のための理解しやすい基盤を提供することです。上記の地図のたとえに戻ると、各章の目的は、あなたの旅の出発点を与えることです — あなたは、各理論の複雑さを完全に理解するために、より深く、幅広く読む必要があります。各章は、良い地図のようにあなたがその文献を見つけることができる場所へと案内します。第2に、あなたがIR理論の旅を続けるのを助けるために、各章では実世界の出来事や問題の事例研究も紹介します。これにより、分析の道具として各理論が実際に機能するところを見て、IR理論がもたらすことができる洞察を理解することができます。2つのセクションの最後の章(第10章と第20章)では、この形式を破り、IR理論全体について革新的な視点を提供します。これは、あなたが物事について新しい視点を持つとともに、この本の中間点と終点についたときに、学問分野を振り返るのを助けてくれます。

典型的な教科書とは異なり、囲み記事、図、写真や練習問題はありません。これらのものが気を散らすことになりえる、というのがこの本を支える哲学です。この本は、E-IR Foundationsシリーズの他の本と同様、魅力的な語り口で注目を集めるように設計されています。

まず始める前に、非常に重要な注意をしておきます。あなたは、ここに紹介された理論のいくつかが、他の学問分野でも使われる名前によって参照されていることに気付くかもしれません。それらはここでの理論に関係があるかもしれませんし、全く関係がないかもしれません。時には、これは混乱を呼ぶことがあります。例えば、IRのリアリズムは、美術のリアリズムと同じではありません。同様に、「リベラル」という言葉は、誰かの個人的な意見を表明するのに使われているのを聞いたことがあるかもしれませんが、IRでのリベラリズムは、かなり異なるものを意味しています。混乱を避けるために、この本では、関心のある理論のことを、国際関係論の学問分野の中で開発されたものとしてのみ言及する、という警告をここではしておきます。このルールについて小さな例外が必要な時には、読者の混乱を避けるために、明確に言葉で示されるでしょう。

IR理論への簡単な導入

国際関係が複雑になるにつれて、IRが提供する理論のファミリーの数も増えてきており、これはIR理論への新規参入者への挑戦となっています。しかしながら、この導入は、始める際の自信をあなたに与えてくれるはずです。開始するにあたって、この章では、IR理論を伝統的理論、中間的理論、批判理論の3つの部分に位置付けることにより、IR理論を簡単に紹介します。この本を読んでいくうちに、この単純な3つの部分からなる図が、いくらか分解していくと覚悟してください。ただしそれは、もしあなたが混乱した場合にはそこへ戻っていくのに便利な手段です。

さまざまな理論は絶えず出現して、お互いに競合しています。これは混乱することかもしれません。1つの理論的アプローチで足がかりを見つけたかと思うとすぐに、他のものが現れます。したがって、この章は、入門としても、先に予想される複雑さの警告としても役立ちます!この本はIR理論を特に単純かつ基本的な方法で提示していますが、複雑さは残ります。IR理論はあなたの十分な集中を必要とし、あなたは気を引き締めて、旅では困難に遭遇するものと予期するべきです。

トマス・クーン(Thomas Kuhn)の「科学革命の構造」(Kuhn 1962)は、どのようにして特定の理論が正当化され、広く受け入れられていくかと、その理由とを理解する舞台を整えました。彼はまた、ある理論がもはや妥当でなくなり、新しい理論が現れたときに起こるプロセスを特定しました。例えば、人間はかつて、地球が平坦であると確信していました。科学技術の進歩により、重大な発見がなされ、人間はこの信念を破棄しました。そのような発見が起きると、「パラダイムシフト」が生じ、以前の考え方が新しいものに置き換えられます。IR理論の変化は上記の例ほど劇的ではありませんが、この学問分野にも大きな進展がありました。IRの理論が世界を説明する上でどのような役割を果たすのかを考察する際に、そして、さまざまな時代および私たちの個人的な状況に基づいて、どのようにあるアプローチが他のものよりも多くのことを語るのかを考察する際には、これに留意することが重要です。

この章で簡単に見ていく理論(とその他の多くのもの)はすべて、この本の当該各章でカバーされます。

伝統的には、IRの2つの中心的な理論、すなわちリベラリズム(Liberalism)とリアリズム(Realism)があります。それらは他の理論から大きな挑戦を受けてきましたが、この学問分野の中心に残っています。その絶頂において、リベラリズムは「ユートピア的」理論と呼ばれ、今日でもある程度は依然としてそのように認識されています。その支持者は人間を本質的に善いものと見なし、国家間の平和と調和は達成可能であるだけでなく、望ましいということを信じています。イマヌエル・カント(Immanuel Kant)は18世紀後半に、リベラルな価値感を共有する国家同士は互いに戦争する理由がないはずであるという考えを発展させました。カントの視点では、世界にリベラルな国家が増えれば増えるほど、世界はより平和なものになります。なぜなら、リベラルな国家はその市民によって統治されており、市民は戦争を望むことはめったにないからです。これは、市民の欲するものと調和しない利己的な欲望を頻繁に持つ王や、選挙を経ないその他の支配者の統治とは対照的です。彼の考えは、反響を続けており、現代のリベラルたち、とりわけ民主主義の平和理論の中で発展し続けています。この民主主義の平和理論は、民主主義は互いに戦争を起こさないとするものです。

さらに、リベラルは、永続的な戦争の停止が達成可能な目標であるという考えを信じています。リベラリズムの考えを実践に移すように、ウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)米大統領は、第一次世界大戦の最後の年の1918年1月に有名な「14の論点」を米国議会で演説しました。戦争を乗り越えて世界を再建するための彼のアイデアを提示する中において、彼の最後の「論点」は、国家の総合的な連合を作り出すことであり、それは国際連盟となりました。1920年に、国際連盟は、主に国家間の出来事を監督し、国際平和を実行し、維持する目的で創設されました。しかしながら、1939年の第二次世界大戦の勃発により国際連盟が崩壊したとき、リベラルは、実際の出来事が彼らの理論と矛盾するように見えたため、その失敗を理解することに困難を覚えました。したがって、カントとウィルソンのような人物の努力にもかかわらず、リベラリズムは強い支持を維持することはできず、戦争の継続的存在を説明する新しい理論が浮上しました。その理論はリアリズムとして知られるようになりました。

リアリズムは、第二次世界大戦中に勢いを増しました。この時期には、平和と楽観主義の期間の後に既知の歴史における最も広範で夥しい死者を出した戦争が、なぜ、そしてどのようにして起きたのか、に対して、リアリズムが説得力のある説明を提供するように見えました。リアリズムは20世紀にそのように名づけられる形で生まれましたが、多くのリアリストはもっと以前を見つめ返します。実際に、リアリストは、古代世界ほど遠くまで見ており、そこでも彼らは現代世界で明白な人間行動と同様のパターンを見つけることができます。その名が示すように、リアリストを標榜する人たちは、それが世界の「現実(reality)」を反映し、国際政治の変化をより効果的に説明すると主張しています。トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes)は、1642–1651年のイングランド内戦時の生の野蛮さに関する彼の記述のために、リアリズムの議論で頻繁に言及されています。ホッブズは、人間が秩序のない「自然状態」で生活していると述べ、彼はそれをすべての人のすべての人に対する戦争であると認識しました。これを是正するために、彼は、相対的な秩序を維持するよう支配者と国民との間に「社会契約」が必要であると提案しました。今日、私たちはそのような考え方を当然のように受け止めています。なぜなら、誰が私たちの国家を支配するのかがはっきりしているからです。それぞれの指導者、あるいは「主権者」(例えば君主、議会など)は規則を定め、規則を破る者に対して罰則制度を確立します。私たちの生活が安全と秩序の感覚をもって機能できるように、私たちはそれぞれの国家でこれを受け入れます。それは理想的ではないかもしれませんが、自然状態よりも優れています。そのような契約は国際的に存在せず、世界を支配する主権もなく、無秩序と恐怖が国際関係を支配しています。リアリストにとって、私たちは「国際的なアナーキー」というシステムの中で暮らしているのです。それこそが、リアリストにとって戦争が平和よりも一般的に見える理由です。

この本の中の各章のレイアウトがそう示しているように見えるかもしれませんが、リベラリズムやリアリズムの変種が1つに限られるわけではないと理解することは重要です。研究者たちは、同じアプローチを共有している人たちでさえも、互いに完全に一致することはめったにありません。それぞれの学者たちは、平和の考え方、戦争、個人との関係における国家の役割を含む世界の特定の解釈を持っています。それにもかかわらず、これらの見解は、依然として理論の「ファミリー」(または学派)に分類することができます。そして、それがこの本の中で私たちが資料をまとめたやり方です。あなたが研究を行う際には、その様々な違いを明らかにする必要がありますが、今のところ、各アプローチの中核的な前提を理解することがあなたの立ち位置の認識を得るための最良の方法です。例えば、楽観主義と悲観主義の単純な対比を考えると、私たちはリアリズムとリベラリズムのすべての派生物の中に、ファミリー的な関係を見ることができます。リベラルたちは、平和と進歩が次第に戦争に取って代わることで、国際秩序が改善されると信じており、IRの楽観的見解を共有しています。彼らは細部では同意しないかもしれませんが、この楽観的な見解は一般的に彼らを結び付けます。逆に、リアリストたちは、楽観主義を誤った理想主義の一形態として却下し、代わりに彼らはより悲観的な見解に到達します。これは彼らが国家の中心性と、自身だけが真に頼りになる無秩序なシステムにおける安全保障と生存の必要性とに焦点を当てているからです。その結果、リアリストたちは、IRのことを、戦争と紛争が一般的であり、平和の期間は国家が将来の紛争の準備をしている時代に過ぎないシステムであると記述する、一連の説明へと到達します。

英国学派(English school)の考えは、リベラルの理論とリアリストの理論の中道とみなされることが多いです。英国学派の理論は、国際レベルに存在する国家の社会という考え方を含みます。英国学派の中心人物の1人であるヘドレー・ブル(Hedley Bull)は、国際制度がアナーキーであるという伝統的な理論に同意しました。しかしながら、彼は、これは規範(期待される行動)がないということを意味せず、したがって国際政治に対する社会的側面があると主張しました。この意味で、国家は、共有された規範と行動に基づいて、ある種の秩序が存在する「アナーキーな社会」(Bull 1977)を形成します。

構成主義(Constructivism)は一般に中道と見なされるもう1つの理論ですが、今度は主流理論と後で検討する批判理論との間にあります。また、これは英国学派とのファミリー関係もあります。構成主義者は、他の視点の学者とは異なり、グローバルな舞台で相互作用する個人間の共通の関心事や価値観の重要性を強調します。有力な構成主義者であるアレクサンダー・ウェント(Alexander Wendt)は、エージェント(個人)と構成(国家など)との関係を、構成がエージェントを制約するというだけでなく、構成がエージェントのアイデンティティーと利益を構築するものとしても記述しました。彼の有名な「アナーキーとは、国家がつくりだすもの」(Wendt 1992)という言葉は、これをうまくまとめています。これを説明するとともに、構成主義の核心を説明する別の方法は、国際関係の本質が人々の相互作用に存在するということです。結局のところ、国家は相互作用しません。相互作用するのは、政治家や外交官などの国家のエージェントです。世界の舞台で相互作用する人々が国際的なアナーキーを決定的な原則として受け入れてきたため、それは私たちの現実の一部となっています。しかしながら、もしアナーキーが私たちの作りだしたものであるならば、異なる国家はそれぞれ違った視点でアナーキーを感じることができ、アナーキーの性質は時間の経過とともに変わることさえあります。他の個人の影響力を持つグループ(そして委任により彼らが代表する国家)がこの考えを受け入れた場合、国際的なアナーキーは別のシステムに置き換えられる可能性もあります。構成主義を理解することは、ある種の考え方、しばしば「規範」と呼ばれるもの、に力があることを理解することです。そのため、IRとは、過去の受容された規範と未来の新しく現れる規範の蓄積を記録する終わりのない変化の旅です。構成主義者はそのようなものとして、規範が挑戦され、潜在的には新しい規範によって置き換えられるようなプロセスを研究しようとしています。

批判的アプローチは、主にリベラリズムとリアリズムというこの分野の主流のアプローチに対応して確立された幅広い理論を指します。一言で言えば、批判理論家は1つの特定の特性を共有しています。彼らはIRの設立当初から中心にあり続けているIRの分野で共通の仮定に反対しています。そのため、彼らは、私たちが自分自身を見い出す世界を理解し、疑問を呈するのに適した新しいアプローチを必要とします。批判理論は、IR内で通常は無視されたり見過ごされたりした立ち位置を特定するために、価値があります。また、それらは、頻繁に疎外された人、特に女性やグローバル・サウスからの声を与えます。この本の第2部 — 拡張パック — のほとんどは、この大きなカテゴリの中で設定された理論を取り扱います。

マルクス主義(Marxism)は、批判理論を始めるのに適した場所です。このアプローチは、産業革命の絶頂の19世紀に生きていたカール・マルクス(Karl Marx)の考えに基づいています。「マルクス主義者」という用語は、マルクスの見解を採用し、産業社会が「所有者」である実業者階級(ブルジョアジー)と労働者階級(プロレタリアート)の2つの階級に分かれていると考えている人々を指します。プロレタリアートは、彼らの賃金を、従って彼らの生活水準を管理するブルジョアジーの慈悲にすがっています。マルクスはプロレタリアートによるブルジョアジーの打倒と、階級社会の最終的な終結を望みました。マルクス主義の立場を取っている批判理論家は、国家を中心とした国際政治の組織化は、世界中の普通の人々が全世界のプロレタリアートとして(潜在的には)共通していることを認識させるのではなく、彼らを分断し疎遠にさせていると主張します。これが変わるためには、国家の正当性が問われ、最終的に解体されなければなりません。その意味では、ある形態の国家からの解放は、しばしばより広範な批判的な議題の一部となっています。

ポスト植民地主義(Postcolonialism)は、マルクス主義が階級に焦点を当てるのとは対照的に、国家または地域間の不平等に焦点を当てる点で、マルクス主義とは異なります。地元の人々がイギリスやフランスといった以前の植民地支配者によって作り出され、取り残された課題に今なお対処していることから、植民地主義の影響は、今日の世界の多くの地域においてまだ感じられています。ポスト植民地主義の起源は、国際関係における多くの活動が脱植民地化とヨーロッパの帝国主義の遺産を取り消そうとする野心を中心にしていた冷戦期にさかのぼることができます。このアプローチは、IRの研究が、歴史的に西洋の視点と経験を中心にしており、世界の他の地域の人々の声を排除してきたことを認めています。重要なこととして、ポスト植民地主義の学者たちは、西洋の理論的視点に基づく分析や、以前の植民地の視点を考慮しない分析が、西洋を不公平に支持する行動を国際機関や世界のリーダーに取らせる可能性があると主張しています。彼らは、グローバルな経済の運営、国際機関の意思決定プロセス、そして大国の行動が、実際には新しい形態の植民地主義を構成しているようなやり方に対してのより深い理解を築き上げました。エドワード・サイード(Edward Said)の「オリエンタリズム」(Said 1978)は、中東とアジアの社会が、西洋の文献と学術記事において、それらが西洋よりも劣っているというやり方でいつも不正確に描写されている仕方を記述しました。したがって、ポスト植民地主義の学者たちは、IRの伝統的な「西洋」の考え方を超えて調査の焦点を広げているため、この分野の重要な貢献者となっています。

国際関係に内在する不平等を暴露する別の理論はフェミニズム(Feminism)です。フェミニズムは、新興の批判的な運動の一環として1980年代にこの分野に入りました。なぜ、こんなにも少数の女性しか権力の地位に就いていないように見えるのか、そしてグローバル政治がどのように構成されているかに関して、このことの影響を説明することに焦点を当てました。世界のリーダーの会合の映像を見るだけで、それが男性の世界であることが見て取れます。これを認識することでIRの「ジェンダー」的な読み方が導入されます。そこではジェンダーなどの問題を主要な対象として私たちの地図に載せます。それが男性の世界であるならば、それはどういう意味を持つのでしょうか?伝統的に男性的であると見られる特定の特性(攻撃性、感情的分離、強さなど)は、いかにして世界のリーダーの本質的な資質と見なされるようになったのでしょうか?これはどのような性質と特徴(それは共感と協力であるかもしれません)を排除するでしょうか?その結果として、どのような行動が起こるでしょうか?ジェンダー — 社会が男性と女性のために構築する役割 — がすべてに浸透していることを認識することにより、フェミニズムは、全員が恩恵を受けるようなやり方でその役割に挑戦します。それは単に男性と女性の人数を数える問題ではありません。むしろ、フェミニストは、いかにしてジェンダー化された権力構造が、女性や女性的と言われる特性を示す男性が権力の最高レベルに達するのを困難にしているかを問います。それらの地位が生と死に関する決定をすることを含むことを考えると、その地位にいる人が攻撃性によって知られているのか、または思いやりによって知られているのかどうかは、私たち全員にとって重要です。社会的に構築されたジェンダーの役割のようなこの議論を踏まえると、あなたは、例えば構成主義とのいくらかの重複を見始めるかもしれません。私たちは、あなたがより明確な出発点を得られるように、それぞれのアプローチを別々に提示するために全力を尽くしていますが、IR理論は密で複雑な網であり、必ずしも明確に定義されないことに注意することが賢明です。あなたが読み進める間、そしてあなたの学習を発展させる際には、これを覚えておいてください。

批判理論の中で最も議論の余地のあるものは、ポスト構造主義(Poststructuralism)です。それは、私たち皆が知っており「現実」であると感じているまさにその信念を疑問視するアプローチです。ポスト構造主義は、主流理論によって広く受け入れられている支配的な物語に疑問を投げかけています。例えば、リベラルとリアリストはどちらも国家の考え方を受け入れ、大部分はそれを当然と考えています。そのような仮定は、それらの伝統的な理論が依拠している基礎的な「真実」であり、周囲の現実の説明を構築するための「構造」となっています。したがって、これらの2つの理論的見解は、全体的な世界観に関してある点では異なるかもしれませんが、世界の一般的な理解を共有しています。いずれの理論も国家の存在に挑戦しようとはしていません。どちらの理論も単にそれを現実の一部として考えています。ポスト構造主義は、国家だけでなく、より広くは権力の本質といったような、一般的に保持されている現実の仮定を疑問視しています。ミシェル・フーコー(Michel Foucault)のポスト構造主義への貢献とは、彼が知識と力とのつながりを特定したことでした。これが意味することは、政治家、ジャーナリスト、そして学者さえも含む権力の地位にある人々が、ある特定の問題に対する私たちの共通の理解を形作る能力を持っているということです。そして、その問題に対するそれらの理解は常識であるように見えるほど深く染み込み、それらの外で考えるのが難しくなり、所定の種類の行動だけに余地を残します。力は知識であり、知識は力です。ポスト構造主義者は、ある問題に対する所定の理解が支配的になる方法を分析することにより、それが基礎としている隠れた仮定を明らかにすることを目指します。また彼らは、国際政治において他の可能な存在、思考、行動のありようを切り開くことを目指しています。

このIR理論の簡単な紹介が示すように、IRの各理論は、正当ではあるものの異なる世界の見方を持っています。実際には、上記の理論以外にも、この本の第2部 — 拡張パック — のセクションで見るような他の多くの理論や視点があります。この本で取り上げられている理論は網羅的ではなく、さらに検討することができる理論があることに注意することも重要です。しかしながら、この本の編集者たちは、この分野の全体的な理解を達成することができるとともに、最も一般的で最も斬新なアプローチと視点があるような良い出発点を提供できたと信じています。ただ1つの理論を自分のものとして採用することは、必ずしも必要ではなく、おそらくあなたの学習の早い段階では賢明でもないでしょう。さまざまな理論のことを、研究に適用することができるような分析の道具、または分析レンズとして理解することが重要です。単純に言えば、それらは複雑な世界を理解しようとする手段を提供します。

研究者のように考える

IR理論を学習することは本当の集中を必要とするため、あなたはこの本を読む際には、集中するための場所と時間をどのように作り出すかを考慮し始めるべきです。あなたの電子機器を静かにさせ、インターネットブラウザを閉じて、本に取り組むための静かなスペースを見つける必要があります。1時間かそこらで10分の小休止を取って他のことを済ませ、あなたの勉強時間の途中でうまく食事をすることでより長い休憩を取ってください。最後に、勉強の前後に十分な夜の睡眠を取りましょう。あなたの脳は、睡眠不足または空腹のときには情報をうまく吸収したり保持したりできません。年に何回かは期限が近づくにつれてパニックが起こる時がありますが、あなたがすでに優れた読書戦略を立てていれば、あなたは手元にある課題をこなすために有利な状況になっています。そこで、IR理論をさらに深く探求する前に、研究者のように考えるのに役立つヒントを提供しようと思います。

学術目的のための読書は、楽しみのための読書と同じではありません。あなたは読書戦略を採用する必要があります。誰もがこれを行う独自の方法を持っていますが、基本的なヒントは次のとおりです:メモを取りながら読んでください。あなたが多くのメモを取っていないか、またはあなたの心が少しうわの空になっていることに気づいた場合、あなたはあまりにも速く読んでいるか、十分な注意を払っていないかもしれません。コンピュータやタブレット上でデジタル書籍を読んでいる場合は、目がさまよったり、ソーシャルメディアサイトに移動したりするのが非常に簡単なため、こういうことが起こりやすいです。もしこれが起こった場合でも、心配しないでください:ちょっと戻って、もう一度読み始めてください。しばしば、何かを2回読むということは、それにピンときたということです。

最良の実践は、各章を読みながら、大まかなメモを作成することです。あなたがある章の終わりに達したら、あなたの大まかなメモを、覚えておきたい「キーポイント」のリストに編集してください。これをやっておけば、問題を修正または要約するときに必ずしも章全体を再度読む必要がないので、役に立ちます。あなたのメモはあなたの記憶を引き起こし、重要な情報を思い出させるはずです。いくつかの教科書はこれをあなたのためにやってくれて、各章の終わりにキーポイントのリストを提供しています。この本は、初心者のための基礎的な本であるので、そういうことはしません:私たちは読者が自分自身のために読んでメモを取る重要なスキルを発達させ、手っ取り早い方法をとらないようにしたいのです。

読書に代わるものはありませんが、特定の理論にピンとこない場合は、E-IR学生ポータル(下記リンク先)のオンライン資料セクションにアクセスしてください。あなたは、それぞれの理論について、あなたに異なる視点を与えるような、入念に選び抜かれたオーディオとビジュアル資料を見つけることができるでしょう:
http://www.e-ir.info/online-resources-international-relations-theory/

あなたが出会うすべてのことについてメモを作成することにより、あなたは、最も重要な情報を保持し、それを試験対策および討論や課題の準備に不可欠な小さなメモのセットに圧縮することのできる戦略を形成するでしょう。デジタル機器(ラップトップ/タブレット)を使用してバックアップを作成し、貴重な手書きの紙のメモを失う危険がないようにすることが最善です。あなたが紙のメモを使用する場合は、携帯電話でそれらの写真を撮って、万一の時のためにバックアップを取っておきましょう。

また、メモの各セットに、どの資料についてのメモなのかという引用情報をページの上部に書き込んでおくべきです。これにより、後で文章を書く作業の中でメモを取った資料を参照する必要がある場合でも、その資料を特定できます。理論は書かれた形で最も頻繁に発展していくので、理論家に出会ったときには、その理論家の仕事を適切に参照する方法を理解しておくことが重要です。学術の世界では、資料の参照は非常に重要です。それは、正確な言葉を使用するかどうかにかかわらず、学者や学生が他の人の仕事を表示する方法です。そのため、この本を読み終えた後にあなたが進むであろう専門家の文献では、多数の参照文献を見ることになるでしょう。それは学術的な文章の重要な要素であり、あなた自身の学習のために習得すべきものです。本書では、専門家の観点から問題を要約して、途切れることのない物語を提供しようとしています。より専門的な文献を指し示す必要がある場合、例えば、少し深く読むように誘いかける場合は、次のような表示を付けてテキスト内に引用情報を挿入します:(Hutchings 2001)。これらは、書籍の後ろにある参照文献のセクションの対応する見出しを指しています。そこでは、あなたは完全な参照情報を見つけて、必要に応じてさらに追跡することができます。通常それらの情報とは、書籍、学術誌の記事、ウェブサイトなどです。本文の引用情報には、常に著者の姓と出版年が含まれています。参照文献リストはアルファベット順の姓で構成されているため、あなたは完全な参照情報をすばやく見つけることができます。場合によっては、括弧内にページ番号も表示されます。例えば、(Hutchings 2001, 11–13)。資料から特定の議論または引用を参照するときに、ページ番号が追加されます。この参照システムは「著者-日付」または「ハーバード」システムと呼ばれます。これは、IRで使用される最も一般的な参照方法ですが、唯一の参照方法というわけではありません。

あなたが自分自身の議論を構築して、自分自身の課題文を書く時が来たら、あなたは裁判の準備をする弁護士であるかのように資料を使うことを考えなければなりません。あなたの任務は、合理的な疑いを超えて、あなたの主張が弁護できることを陪審団に納得させることになるでしょう。事実や専門知識に基づいて、明確でよく組織だった証拠を提示する必要があります。あなたが情報に基づかない誰かのただの意見を証拠として提示した場合、陪審員は説得力がないと判断し、あなたはその事件で負けるでしょう。同様に、学術論文では、あなたが使用する資料が評価に値するものであるかを確認する必要があります。あなたは通常、著者と出版社を調べることでこれを見出すことができます。著者が専門家(学者、実務家など)ではなかったり、出版社が不明または曖昧であったりする場合、その資料は信頼性が低い可能性があります。その資料は興味深い情報を持っているかもしれませんが、学術的な基準では評価に値しません。

あなたが、本が何であるかを知っていて(いまあなたはそれを読んでいるから!)、インターネットが何であるか理解していることを前提としても間違いではないでしょう。しかしながら、この本に引用されているものの中で、あなたが前に遭遇したことがないかもしれない資料の1つは、学術誌の記事です。学術誌の記事は高価で定期購読が必要なため、通常、大学の図書館からのみアクセスできます。それらは学者によって、学者のために用意された論文です。そのため、それらは最新の考察を表し、最先端の洞察を含んでいる可能性があります。しかし、それらはしばしば、聴衆が仲間の専門家であるために複雑で濃密であり、初心者がこれを読むのは困難です。さらに、学術誌の記事はピアレビューされます。これは、出版される前に他の専門家による評価プロセスを経たことを意味します。そのプロセスの間に多くの変更と改善が行われることがあり、さらに記事はしばしば査読を通過することができず、却下されます。そのため、学術誌の記事は学術的な文章の中の代表的な存在のようなものです。

ほとんどの学術誌の記事はインターネット上で入手できるようになりましたが、学生は学術誌の記事とオンライン雑誌や新聞記事とを区別することに困難を感じるかも知れず、混乱を招くことがあります。報道や意見欄の著述は、ピアレビューされておらず、異なる職業的基準に適合しています。上のヒントに従うとともに、出版社と著者を「検索」すると、どちらがどちらであるかを識別できるはずです。もう1つの役に立つヒントは長さです。学術誌の記事は通常10–20ページ(7,000–11,000ワード)です。報道や解説の記事は通常、より短いものです。

資料に関する最後の注記:インターネットは西部の荒野のようなものです。そこにはすばらしい情報がありますが、ゴミもたくさんあります。それらを区別することはしばしば困難です。しかし、繰り返しになりますが、あなたが(インターネットを使用して)著者を調べて、出版社を調べるという黄金のルールに従えば、あなたは常に自分の道を見つけることができるでしょう。しかしながら、世界最大のウェブサイトでさえ、信頼できないものもあります。例えば、ウィキペディアは素晴らしい情報源ですが、通常は専門家というより愛好家である一般の人々によって作成されるとともに、通常は編集されるため、誤った情報を有することがよくあります。さらに、そのページは常に(ユーザーによる編集のために)変更されているため、情報源として信頼することはできません。そのため、インターネット上の経験則は、あなたが発見したことを、少なくとも2つの良いウェブサイト/少なくとも2人の評判の良い著者によって裏付けることです。そうすれば、あなたは自信を持ってインターネットを使用し、落とし穴を避けながらその利点を楽しむことができます。ただし、課題文を作成する際には、学術誌や書籍に掲載されているより堅牢な情報を補完する目的でのみインターネットを使用してください。

研究者のように考えることのもう1つの重要な部分は、研究者が使う言葉を理解することです。それぞれの学問分野には独自の言語があります。それは、所定のことを記述するために学者たちによって開発された、一連の特定の用語で構成されています。その結果、あなたがある学問分野を学ぶのに使う多くの時間は、文献にアクセスし理解することができるよう、専門用語を学ぶことに費やされます。私たちはこの本に専門用語を詰め込むのではなく、可能な限り一般的な言葉で物事を説明する一方、IR理論のより具体的な用語にあなたをゆっくりと導くように努めました。このアプローチは、あなたの興味をひきつけながら、あなたがすぐに遭遇するであろうより高度な文献を読む自信を与えることでしょう。

重要な用語を理解するということは、「国際関係論(International Relations)」という言葉を表現する方法のような、基本的なものにも適用されます。学術的な慣習では学問分野、すなわち世界中の大学キャンパスで教えられている科目を指すときにそれを大文字にします(国際関係論、「IR」と略記)。IRは事象を記述しません。むしろ、それは事象を理解しようとする学問的な分野であり、IR理論はその努力の中の主要な道具となります。一方、大文字でない「国際関係(international relations)」は、国家、組織、個人間の関係をグローバルなレベルで記述するために、学者と学者でない人の両者によって一般的に用いられています。この用語は、「グローバル政治(global politics)」、「世界政治(world politics)」、「国際政治(international politics)」などの用語と交換可能です。それらはすべてほぼ同じことを意味します。本書では、この大文字による表記規則を維持しています。

この本は英国で出版されているため、英国の英語で提供されているということも伝えておく必要があります。これは、「グローバル化(globalisation)」や「組織(organisation)」のような言葉が「z」ではなく「s」で綴られていることを意味します。

おわりに

すべての理論は不完全です。もし1つのものがIRにおける行動や行為を正確に記述するならば、他のものは必要なくなるでしょう。膨大な量の異なるIR理論は、国際関係論は依然として重要な成長的発展を続けている若い学問分野であることをあなたに警告しています。その発展の中では、国家、個人、国際組織、アイデンティティー、さらには現実自体の性質について、時には激しい議論があります。覚えておくべき重要なポイントは、理論は分析の道具であるということです。事象を理解するために正しく適用された場合、それらはしばしば適切であり、洞察をもたらしてくれます。しかし、それと同じくらい頻繁に理論は不完全であり、あなたはより適切な理論的道具に到達するために手を伸ばすことになるでしょう。あなたの仕事が何であったとしても、分析に着手するために必要なすべてを身に着けて、鍵となる文章やこの分野での高度な教科書にアクセスし、理解するのに適した位置へと向かわせるために、この本は、あなた自身のIR理論の道具箱を発展させる基本的な出発点をあなたに提供するでしょう。幸運を!

この訳文は元の本のCreative Commons BY-NC 4.0ライセンスに従って同ライセンスにて公開します。 問題がありましたら、可能な限り早く対応いたしますので、ご連絡ください。また、誤訳・不適切な表現等ありましたらご指摘ください。

--

--

Better Late Than Never

オープン教育リソース(OER : Open Educational Resources)の教科書と、その他の教育資料の翻訳を公開しています。